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満月の夜 2  作者: 桐生初
22/30

学園内殺人事件

現場はビニールシートで囲まれ、柊木が遺体の側に居り、鑑識の幸田が忙しく動いていたが、異様な感じは一歩入って直ぐに分かった。


被害者は全裸で仰向けの状態で寝かせられ、その下には、赤いペンキで大きく記号の様な物が描かれている様だ。

芥川が早速寄って来る。


「ガイシャはこの中高一貫校聖ヨハネ学園の高校2年生。清水朋香17歳。昨夜から学校から帰宅せず、連絡も取れないという事で、両親から捜索願いが出されていました。

発見したのは、1番に登校したここの校長です。名前は駒木与志恵。女性です。揺すったり、服かけたりして、大分現場を荒らしてくれちゃった様です。

今はショック状態で、保健室で寝てるそうです。

そんな訳で、直ぐに休校にしたそうなので、生徒達は来ていません。

学校の監視カメラは、昇降口と事務室の窓口にしか無く、校庭にはありません。

ガイシャの姿は、下校時刻に昇降口で確認されただけで、他には写っていませんでした。

所持品は無しです。」


幸田が眉間の皺を、これでもかという位に寄せて、やって来た。


「参るぜ、もう。先生方の足跡だらけだ。仕方無えから、先生全員の足型取って照合中だが、時間がかかるぜ。」


「そっか。ご苦労さんだな、本とに。他は?」


「ガイシャに繊維が付着してたんで、これはと思ったら、校長のコートだったよ。もう嫌っ。」


現場が発見者に寄って荒らされるという事は、少ない事では無い。

特に知り合いが死んでいるとなったら、先ず助け起こしてしまうし、女性が全裸だったら、隠してしまう。

その上、校長だけでなく、学校に来た先生全員がパニックになって、あれやこれやと、やろうとしてしまったとしたら、相当荒れてしまうだろう。


「大変だな。世話かけるな。」


「はあ。頑張るよ。」


太宰達は幸田と別れると、柊木の所ーつまり遺体の側へ行った。

遺体は手を組まれていた。


「これ、発見時からこうなっていたんでしょうかね。」


霞が言うと、柊木は首を捻った。


「どうかねえ。ここ、ミッション系らしいからな。

俺たちが着いた時、あの先生達、何してたと思う?仏さん囲んでお祈りだぜ。

幸田が泣いてたけど、ここの現場は久々の荒らされ様だぜ。俺が来た時、仏さんはこの状態で、コート掛けられて、マフラーで枕までされてたからな。校長がやったんじゃねえの?」


「参ったね…。校長によーく話聞かんとな。」


「私行ってきます。」


霞が直ぐに言った。


「霞ちゃん、いいのかい?死体見なくて。」


「甘粕さんにお任せします。」


甘粕に微笑みかけ、甘粕はイケメン台無しのニヤケ顔になった。


「なんなの、甘粕。その顔は…。まあ、いいや。じゃあ、夏目も一緒に行って。」


2人が行き、太宰は無駄と分かっていたが、一応柊木に聞いた。


「どんな感じよ。」


「死因は出血多量って感じだが、今の所、傷っぽいもんが見つからねえのよ。ほら、仏さんの肌の色。色抜けちまったみてえだろ?まあ、それで判断したんだが。」


「なるほどね。死亡推定時刻は?」


「うーん…。難しいんだよな…。ゆっくり血を抜かれてたとしたら、体温も下がる。体温下がった状態で生きてた時間が長かったら、腸内の体温測っても、正確な時間は出ねえって、もう太宰!分かってんだろ!?俺は楽し…。」


太宰は急いで柊木の口を塞いだ。


「お前、今回だけは本心言うな!?こんだけ仏さんに親切にしちまった、クリスチャンの発見者達だぞ!冗談なんか通じねえんだからな!?」


「へいへい。」


甘粕は、死体の状態を観察していたが、特に何も言わなかった。

検死報告を待つ気なのか、とりたてて質問もないのか。

太宰には後者な気がした。

被害者は苦悶の表情を浮かべて死んでもいないし、目は閉じられている。

外傷が無く、血を抜かれての失血死というのは、変わっているが、他には特に変わった被害者では無い。

寧ろ、甘粕は、死体の下の方が気になっている様だった。


「柊木先生、そろそろ運んで頂いてもいいですが…。」


「そうかい!?」


待ってましたと言わんばかりに、部下を呼んで死体を搬出する柊木。

死体がなくなると、漸く、記号が露わになった。

多少踏み荒らされてはいるものの、それは六芒星だった。

そして、真ん中に、被害者の名前が書かれている。


「何コレ…。儀式的なもん?」


「なのか、それを装っているのかって所でしょうかね…。」


赤い大きな六芒星と、被害者の名前。

結構不気味な感じだ。


「そいじゃ、俺たちはこの子の担任に話を聞きに行くか。」


「そうですね。」





霞は保健室で校長の話を聞いていた。


「申し訳ございません…。刑事さんにも、これだけ荒らされると、犯人逮捕が遅くなりますよと、叱られてしまいました…。」


「それは致し方の無い事です。一般の方が人があんな状態で倒れていたら、誰でも介抱に走りますし、まさか殺人事件とも思わないでしょうから。

でも、現場の保全は、犯人逮捕への1番の近道なのは確かです。

もう、過ぎてしまった事は仕方のない事なので、その代わりと言ってはなんですが、落ち着いて、発見当初の事を、細かく思い出して頂けますでしょうか。どんな小さな事でも構いませんから。」


「はい…。」


「では、私と一緒に、発見時に戻ってみましょう。目を閉じて。先生はどこにおられましたか。」


霞は校長の手を握り、静かな口調で話し始めた。

こうやって、時間を元に戻し、追体験させる事で、意識下にある記憶も呼び起こすらしい。


「私は…。校長室に行きました…。コートを掛けようとして、校庭を見たら、女性が裸で倒れているのが見えて…。これは大変だと、コートを掛けないで、そのまま持って、校庭に行きました。」


「その時、他に誰か見ませんでしたか。人影などは?」


「ありません…。学校には今日も私1人だなと思いましたから…。私、誰も来て居ない学校に来るのが好きなんです。ですから事務の方より早く…。」


「なるほど。そして校庭に行かれた。その時は、どうでしたか。清水朋香さんのご遺体の他に見えた物は?」


「ーそうですね…。清水さんの下にある赤い物が血に見えたんですけど、そうでは無かった様で…。」


「足跡なんかは如何ですか。校庭はコンクリートで乾いていたようですが、明け方までの雨で、外を歩いてくれば、靴は濡れ、靴跡はつきます。」


「そうですよね……。あら…?そう言えば、靴跡は無かった様な気がします。それで、清水さんはどうやってあそこまで行ったのかしらと思ったんです。ほんの一瞬でしたけれど…。」


「靴跡が無く、遺体の下の赤い物は少し見えた。という事は、遺体の場所自体は動かしていらっしゃらない?」


「はい…。私は清水さんにコートを掛け、彼女を抱き起こしました。でも、ぐったりとしていて、冷たくて、脈を取っても何も無く、息もしていない様なので、人工呼吸をしてみていたら、他の先生や事務の方がいらして、救急車だ、警察だという騒ぎになり、結局、清水さんはもう亡くなっていると分かり、寝かせて、手を組ませて、私のマフラーを枕にしてあげました。

コンクリートが冷たくて、あんまり可哀想で…。ベットに連れて行くと言ったら、駒田先生が、事件かもしれないから、このままにしておいた方がいいのではと仰り、そこでやっと気がついたんです。

こういった時、なるべくそのままにしておいて、警察を呼ぶという事を…。」


「駒田先生というのは?」


「体育の教員です。うちで唯一の男性です。」


「他の先生は全て女性なんですか。」


「そうです。」


「では、他の先生方が到着された後は、校長先生は何を?」


「私は清水さんの手を握ったり、額に手を当てたりして…。泣いていました…。」


「その時に、なんだか変に思った事なんかはないですか。」


「ーいえ…。来てくれた方達、皆、泣いておりました。駒田先生は流石に泣いてはおられませんでしたが、真っ青なお顔で、人工呼吸を代わって下さいましたが、暫く続けて、『駄目だ。死んでる。』と仰って…。そこからみんな泣いて…。変に思う行動をされ方は居なかったと思います。」


「お祈りをなさっていたようですが、それはどなたがやろうと仰ったんですか?」


「私です。せめて清水さんがイエス様の御下に行けますようにと…。」


「では、こちらに見覚えは?」


霞は今、甘粕が送ってくれた、清水朋香の下にあった記号の写真を校長に見せた。


「まあ…。気持ちの悪い…。でも、六芒星ですわね…。これなら、うちの校門にもございます。お守りの様なものですのよ…。なのに赤くして、真ん中に清水さんのお名前をだなんて…。どんな意味なんでしょう…。」


どんな意味か、こっちが聞きたかったのだが、校長は知らないらしい。





保健室を出ると、夏目が身震いの様に肩をすくめた。


「夏目さん、キリスト教信者は苦手?」


「はあ…。別世界の住人て気がしますね。まあ、あの人は悪い人じゃなさそうですが。」


「そうね。実は私もちょっと不気味。まあ、信じるよすがが必要な方達という事で、処理してるわ。」


「宗教に頼ってる、弱い奴って事ですね。納得です。」


霞は笑うと、真顔に戻った。


「足跡が無いという校長の記憶が正しければ、これは妙ね。校庭のど真ん中にどうやって遺体を置いたのか。そして、どうやってペンキでこの記号を書いて立ち去ったのか。」


霞は甘粕が送ってくれた、清水朋香の下にあった記号の写真を改めて見つめた。


「雨の合間…。にしても、いくら油性ペンキでも、あの酷え降りかたじゃ流れますよね…。」


「そうなのよね…。殺人の意味も問題だけど、トリックまで解かなきゃいけないのかもしれないわ。今回の事件。」


「幸田さんの事だから、この文字のペンキが何とかまで調べて下さるでしょうが…。」


「そうね。それに賭けてみましょうか。

あ、課長達は担任の先生の所か。じゃあ、私達は、両親に話を聞きましょうか。」


「そうですね。」





担任は女性であったが、校長程酷いショックは受けていない様で、職員室の片隅で、普通に話を聞く事が出来た。


「清水さんはどんな生徒さんでしたか。」


太宰が聞くと、顔色の悪いまま、言葉を選びながら答えた。


「そうですね…。成績は中の上といった所でしょうか…。欠席も無く、部活動にも積極的に出て、どこでもリーダー的な存在でした。」


「問題は起こさなかったという事ですか。人に恨まれる様な事とか。」


甘粕が聞くと、担任の明石は、いきなり胸の前で十字を切り、太宰と甘粕はぎょっとしてしまった。


「す、すみません…。亡くなった方の悪口の様になってしまうので、お許し下さいと…。失礼しました…。

清水さんは実は、虐めグループのリーダーでもありました。

清水さんの嫌がらせが原因で、転校したり、不登校になっているお子さんもいらっしゃいまして、何度もご両親も交えて、指導に入らせて頂いているのですが、一向に改善の余地は無く…。他の子も、清水さんが怖くて言いなりなんです…。」


「虐めていた子は把握なさっていますか?」


「も、勿論ですが、でも、あの子達が殺人だなんて!」


「参考までにです。こういう仕事なものですから、被害者に恨みを抱くと思われる人物は当たらなくてはなりません。未成年という事を踏まえ、十二分に気をつけて捜査しますから、お教え下さい。」


太宰がきっぱりとした口調で言うと、明石は名前と所属学年、クラス、住所を書き出して太宰に渡した。





担任は正直に教えてくれたが、清水朋香の両親は、うちの娘に非はないの一点張りだった。

あまりに尊大な態度で喚き散らすので、夏目が切れない内にと、早々に話を聞くのを止めた位だ。

何れにせよ、大した話は聞けそうにないと、霞は判断した。

この親達は、子供が死体で発見されたと聞いて、取るものもとりあえず吹っ飛んで来たという感じではなかった。

母親は朝っぱらから、1時間はかかりそうなフルメイク。そして、現場に不釣り合いな派手派手のお出掛け衣装。

父親も、そのまま仕事に行ける様にとばかりに、ビシっとブランドもののスーツを着込み、時計ばかり気にしていた。

子供を私立に入れたり、帰って来なければ、捜索願いを出したりはするが、子供に興味が無いというか、寧ろ、死んでくれてホッとしているのでは無いのかという気すらした。

普通なら何故こんな目にとか、犯人は誰だとか、直ぐ捕まえてくれとか言いそうな物だが、そんな事は一言も言わないし、遺体の在処も聞かない。

ただ、この質問が何時に終わるのか、朋香の遺体はいつ戻って来るのか、葬式の準備があるから、早めに教えてくれ。

彼らが霞達に聞いたのはそれだけだった。





「なんだか、殺されて当然の娘の様ですが、あの親じゃ、そういう風にねじ曲がったのも当然な気がして、どうでもいい事件になってきました。」


帰りの車で、夏目が言うと、太宰達も苦笑で頷いた。


「まあ、そうは思うが、仕方無えな。本庁戻って、ネタ集めて、プロファイリングだ。」









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