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満月の夜 2  作者: 桐生初
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新たな事件

太宰は深い深呼吸をして、群馬県警捜査一課に電話を掛けた。


「ーはい!捜査一課!」


忙しいらしく、不機嫌そうな中年の男性が出た。


「お忙しい所、申し訳ありません。警視庁捜査五課の太宰と申します。」


「ー太宰…?警視庁の…?あんた、昔一課に居なかったか?」


「はい。散々お世話になっておきながら、恩を仇で返した当時、係長をしておりました。」


「やっぱそうか!あの太宰君か!俺だよ!俺!千田!」


「千田さん!?ああ!あの時は大変お世話になりました!」


太宰の表情が明るくなったので、3人はホッとしながらも、なんだろうと、電話の内容に耳をかたむけた。


「あんた、あの馬鹿課長にえれえ勢いで楯突いてくれたろう?

大丈夫だったのかい?

飛ばされたりしなかったんだな?

話題の五課って事は…。」


「いや、五課設立当初は、上は島流しのつもりだったようです。」


「やっぱり…。

でも這い上がってきたんだなあ。

流石下妻さんが見込んだだけの事あるぜ。

で?例の手紙かい?」


「はい。当然、うちにも来ていたので、今鑑識に回しています。」


「あんたなら信用出来る。

じゃあ、東京のテレビ局に送られたヤツの方も任せていいかい?

うちのが取りに行くとは連絡してあんだけどよ。

なんせこの状況だから人手が足りなくてさ。」


「はい。勿論。」


「向こうには連絡入れとくよ。五課が行くって。」


「有難うございます。」


太宰が甘粕に身振りで指示すると、甘粕は夏目を連れてテレビ局へ向かった。


太宰は本題に入る。


「で、すみません。図々しいお願いではありますが、五課が名指しされている事ですし、捜査協力をさせて頂きたいんですが…。」


「ーそうだな…。

あんたならそうしてえとこは山々なんだが…。

こっちもそれに関しちゃ揉めててよ。

警察庁の方から、捜査協力しろって通達が来たらしいんだが、署長がさ…。

警視庁と合同捜査は絶対嫌だ、首掛けたっていいって聞かねえんだよ。

俺も、太宰君なら大丈夫だって説得してみるけどよ…。」


太宰の電話の内線が点滅している。

恐らく刑事部長からだ。

この件に関しての事だろう。


「それはそうですよ…。

あんな事したんですから…。

しかも下妻さんにとっては、引退前の最後のヤマだったのに…。」


「そうなのよ。署長、下妻さんに育てて貰った様な人だからよ。奥さん下妻さんの娘さんだしさ。」


「分かります。

こっちにも今、その電話が来てるようです。

また状況が変わったら、ご連絡下さい。

何かわかったら、こちらからも直ぐにご連絡致します。」


「おう。ありがとよ。ああ、刑事部長と喧嘩すんなよ?」


「ははは。では。」


太宰は刑事部長かららしき電話は無視して、タバコを吸い始めた。


「やっぱり、課長は怒ったんですね?手柄横取りした刑事部長に。」


「うん。殴っちゃった。」


「えええ…。よくクビならず、一課の課長に…。」


「うん。

そん時の刑事部長が漢な人でさ。

俺が殴ってたら、吹っ飛んで来て、俺押し退けてボコボコに殴ってくれちゃって、『太宰は殴ってねえからな!俺が殴ったんだ!変な遺恨残して太宰飛ばすとかすんなよ!』って言ってくれたんで、今の刑事部長がもっと上の人達に取り立てられて、刑事部長になっても、俺は課長に昇進出来た訳よ。」


「その漢な刑事部長さん、今は?」


「今は警察庁のお偉いさんです。志賀さんていうんだけどね。」


「そうなんですかあ…。」


「そう。

手柄横取りも、刑事部長が記者会見で突発的にやったから、止めようが無かったみたいで、後で凄え怒ってたよ。

あんなの刑事部長にするなって、最後まで言ってくれてたけど。」


「かっこいい。それで、先ほどのお電話のお相手とは?」


「その合同捜査の時にね、例の伝説のデカっていう、下妻さんにつかせて貰ったんだ。

こんな機会無いと思ったから、課長にブツブツ言われても無視して、勉強させて下さいってくっ付いて回った。

そん時、下妻さんと組んでたのが、今の電話の相手の千田さん。

初めは本と迷惑そうにされちゃったんだけど、その内可愛がってくれる様になってね。

色々教えて貰ったんだ。」


「そうだったんですか。流石課長ですね。」


「ええ?」


太宰が照れ笑いをしていると、今度は外線が鳴った。


「はい。五課太宰。」


「志賀だが。」


「お久しぶりです!」


噂をすれば影なので、太宰の声が若干上ずってしまった。


「馬鹿刑事部長の電話に出ないって?全く相変わらずだな、君は。」


「すみません。」


「まあ、馬鹿だからな。ほっとけよ。で、今回のハンムラビ事件だが。」


「あ、勝手ながら、群馬県警に先ほど電話しました。」


「君なら受けがいいだろう。でもダメか?」


「今の所なんとも。千田さんが、署長を説得して下さると仰って下さいました。」


「うーん…。そうか…。で、五課としては?」


「あああ…。未だ何も…。」


と、電話を盗み聞きしている霞を見ると、霞が直接話していいかという様な素振りをした。


「あの、うちのプロファイラーと直接話して頂いても宜しいですか。」


「ああ、構わんよ。」


霞は何故か居ずまいを正し、電話に出た。


「森と申します。」


「いつもご苦労様。大活躍だね。」


「有難うございます。

それでですね、今回の犯人のターゲットは、重罪を犯して居ながら、釈放されたという、要するに罪の割に刑が軽かった者に対する犯罪ですので、そういった元受刑者を洗い出して、マークしておけば、犯人に当たる可能性が高いのではないかと思うのですが。」


「なるほど。

では、その調べはお願いしておこう。

管轄外とはいえ、五課は名指しだ。

捜査で管轄の壁ができたら、直ぐに私に言いなさい。なんとかする。」


「有難うございます!」


なんと、霞が話をつけてしまった。

まあ、群馬県で起きた事件の捜査に直接関わらなければ、今の所は問題が無いので、太宰も黙っている事にする。


「では、ちょっと太宰に代わってもらえるかな?」


という訳で、再び太宰が出ると、志賀は暗い声で話し始めた。


「こういうの、俺も好きじゃねえんだが、ちょっと調べてみた所、その子だけじゃ無い様な気がするんで、五課の方で隠密で調べて貰いたいんだ。」


「はあ、なんでしょう。」


「民政党の鈴木代議士って知ってるか。」


「ああ、元経済相でしたね。大物じゃないですか。」


「うん。

その人の1番下の子が行方不明らしいんだ。

それで、五課に頼んで貰えないかって話が来たんだが、調べてみると、彼が行方をくらました場所からそう遠くない地域で、15人の少年少女達が行方不明になっているんだ。

学校の帰り道とか、友人宅への行き帰りとか、理由は様々の様だが、全員、半径200メートル以内の場所に携帯電話が落ちていて、そこから行方が分からなくなってる。」


「そりゃ誘拐ですよね…。なんで今まで大事になっていなかったんでしょうか。」


「住まいも、届け出警察署もマチマチだからだろうな。

それに、家出で処理されているケースが多い。」


「家庭内で問題があった子ばかりという事ですか。」


「その様だ。

親の届け出も、居なくなって一週間後なんかがザラだ。

鈴木代議士の息子も、父親に反発して帰宅しない事はしばしばあったらしい。」


「ーそれで単なる家出だった場合に備えて、隠密にって事ですか。」


「ああ、スキャンダルを恐れているんだろうな。鈴木代議士の実子では無く、後妻の連れ子らしいしな。」


「なるほど…。分かりました。でも、大人が関わってるのは確かですよね。全員が子供にとってはかなりの重要アイテムの携帯電話を捨ててるなんて…。」


「俺もそこが引っかかってな。」


「ちょっと調べてみます。」


「頼んだ。」


やはりそのまま電話を盗み聞きしていた霞を苦笑で見ながら、太宰は電話を切った。


「じゃあ、霞ちゃんは、甘粕と群馬の事件…ハンムラビ事件て言われてる様だけど、そっちをお願い。俺は夏目と行方不明事件調べるよ。」


「はい。」




「渋谷かよ…。」


調べ始めていきなり、太宰はそう呟いて顔を曇らせた。


行方不明の子供達の携帯電話は全て、渋谷の繁華街から少し離れた、西麻布辺りの六本木通りで見つかっている。


「これ、高速の高樹町入り口付近が近いですね。」


夏目が言った。


「連れ去って直ぐに高速乗ったのか…。益々大人が誘拐したと見て間違いなさそうだな。」


「そうですね…。渋谷の繁華街で引っ掛けて、そのまま…。

でも、目的はなんでしょうか。

確かに年齢は14歳から16歳と限定されていますが、男女比はほぼ同じです。」


甘粕と共にパソコンで釈放された元受刑者を洗っていた霞が顔を上げて、夏目がパネルに張り出した少年少女達の顔写真を見つめた。


「比較的、可愛い感じの顔の子が多いですね…。

こういう場合、小児性愛者と考えるのが妥当ですが、確かに夏目さんの言う通り、男女入り混じってというのが分からないわね。

普通、どっちかに傾いているものなのに…。」


「霞ちゃん、そっちで忙しい所申し訳ないけど、ここまででどう?」


「そうですね…。

まだネタが少ないですけど、この感じだと、犯人は二人組じゃないでしょうか。

どちらも、思春期の若い子を好む小児性愛者で、利害が一致し、組んでいる。

少年少女が、いくら家に帰りたくないとはいえ、なんの抵抗も無く付いて行き、言う通りに携帯電話を捨てる位ですから、犯人は見るからに怪しい人物とはかけ離れた風貌でしょうね。

優しげで、身なりも整っており、傷付いた子供を信用させられる人物でしょう。

そして、家を出たがっている、帰りたくない子供を見分ける目を持ち、そういう子供たちを探し出す忍耐力。

また、騙して連れ出し、目的を果たすという忍耐力もあります。

これらの忍耐力と計画性が高い事から、年齢は30代以上。

子供たちが容易に信用した事から考えると、もっと上、40代以上かもしれません。

車を持ち、証拠が残るかもしれない高速を使う所から行くと、都内に連れ去っているのでは無いでしょうね…。

すみません。縁起でも無い話ですが、被害者が出ないと分からない所があって…。」


「分かるよ。それで十分よ。ありがとね、霞ちゃん。

うーん…。夏目…。

これは地味な作業しか無いねえ…。」


「聞き込みと高速の高樹町入り口監視カメラですか。」


「だね。じゃあ、行方不明者の家族、友達から当たろうか。

監視カメラの方は科研の原田に頼んでみよう。

行方不明者の写真渡して、映ってないかどうか。」


「はい。」


寒い中、夏目と太宰が出掛け、甘粕と霞は只管、釈放された、又は釈放予定の条件に該当する元受刑者を洗っていた。


「結構居ますね、甘粕さん。」


「そうだな…。

あ、こいつらもか…。

高校生の女の子攫って好き放題にして、山ん中に生き埋めにした奴ら…。

もう出てくんのか…。」


「当時少年だったからでしょうかね。私だって正直制裁を加えたくなるわ。」


「そこなんだよな…。

正直言えば、俺もそう思う。

はっきり言って、ハンムラビ法にしちまえってのは、誰しもが思う様な酷い事件ばっかだ…。

だけど、あいつら、勝負を挑む相手間違えてないか。」


「そうですね…。

私達警察は犯人を捕まえる立場。

それを裁くのは立法機関です。

私達が、彼らに軽い刑を言い渡したわけじゃないわ。」


「なのに、何故俺たちを選んだのかだ、霞さん。」


霞は甘粕の顔を見た。

何か確信を持っている、そんな顔に見えた。


「なんです?甘粕さん。」


「結局は愉快犯であり、快楽殺人者なんじゃないのかと俺は思う。」


「おお!してその根拠は?」


「いくらハンムラビ法典に則ると言っても、普通の神経した人間が、手足ぶった切って、猫の足や尻尾つけられるか?

猫の手足だって切らなきゃなんないんだぜ?

やりたかったんじゃないのか、ただ単に。

正義の味方のフリして。

世論を味方につけて、俺たちに挑戦状を送りつける事で、話題にさせて。」


霞は唐突に甘粕の手を握り、目を輝かせた。

反して甘粕はドギマギと真っ赤になる。


「素晴らしいです!甘粕さん!流石です!

なんかモヤモヤしていたのは、それだったんだわ!

有難うございます!そうなんだわ!うん!」


「か…霞さんもそう思う…?」


「はい!目が覚めた思いです!」


霞は暫く甘粕の手を握り続け、甘粕は相当長い事、赤い顔をしたままだった。






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