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満月の夜 2  作者: 桐生初
19/30

甘粕にしか出来ない事

宮田の部屋に到着すると、芥川達が忙しなく動いていた。


「甘粕さんどうっすか!?」


心配しきりといった様子で、芥川が聞き、皆、霞達の答えを待っていた。


「意識は戻られ、大丈夫そうです。あとは、医者の言う事聞いて、ちゃんと大人しくして下さっていれば、回復すると思います。」


夏目が答えると、皆、ホッとした様子で、安堵の笑みを浮かべた。


「そちらはどうですか。何か出ましたか。」


夏目が聞くと、芥川は興奮した様子で答えた。


「押田と本村さんの携帯が出て来た!奴は本ボシだな!甘粕さんまであんな目にあわしたんだから、極刑にしてもらわないと!」


しかし、霞は不可解そうな顔で、夏目に言った。


「なんか…。不自然じゃありませんか?夏目さん…。」


夏目も改めて、部屋の中を見回した。


宮田の部屋は、所謂、よく見聞きする引きこもりの部屋とはちょっと様子が違ってはいる。

割と片付いているし、親と顔を合わせない様にしていたという事は、ここで生活していたのだろうが、ゴミの類いが散乱しているという事も無い。

身体を鍛える為であろう鉄アレイなどの道具も、整然と壁際に並べられている。

確かに、荒んだ男の部屋では無い気がした。

そして、夏目の宮田に対する印象とも、その部屋は異なっていた。

宮田は、見るからにだらしのない感じがした。

薄汚れたトレーナーの上下を着て、風呂に入っていない様な感じの体臭が鼻についた。

こんな綺麗に整った部屋で暮らしている男とは思えない。


「そうですね…。俺が見た宮田とこの部屋の雰囲気は結びつかない…。」


「そうでしょう?私が甘粕さんの手術中、夏目さんに聞いた宮田の第一印象は、『だらしがない感じ』でした。この部屋は、だらしがない人間の部屋では無いわ…。」


「そうですね…。でも、見た目と違って、部屋だけは綺麗とか、引き出しの中だけ綺麗とかいう奴も居る気がしますが…。」


「そうですね。確かにそういう人も居ます。でもね、夏目さん。見た目まで、一見してだらしがない状態まで行ってる人は、ほぼ100パーセント、おうちの中も同じなんですよ。身綺麗にする事すら出来なくなってる人間に、部屋を綺麗にする意味は無いんです。それに、もう1つ。この部屋は犯行状況には当てはまっていますが、だらしがない宮田とは合わない。」


「犯行状況と…。」


「そうです。実は、私は、夏目さんからの第一印象を聞いた時点で、もしかしたら、宮田は真犯人ではないのではないかと思いました。

今回の一連の犯行は、秩序だっています。

そして、計画的であり、チャンスを待てる、忍耐力もあります。

幸田さんから伺いましたが、犯人は、靴の上から、鑑識の人達が履いているビニール製のカバーをかけていたのではないかという事です。

今のところ、証拠も残していません。

非常に計画的で、冷静に犯行を遂行しています。

直ぐに相棒が戻って来るかもしれない状況で、その場の怒りに任せて、甘粕さんを執拗に蹴り続ける様な、後先考えない衝動性は、今回の犯行には無い。」


「なるほど…。よく分かりました。」


そこに、宮田確保に続いて、新田刑事が遺体で発見されたという報が流れ、太宰から連絡が入った。


「犯人は別に居るって事だ。甘粕のカンが当たった。もう一回、警視庁の採用試験に落ちた奴を洗おう。」


電話を受けた霞が答えた。


「課長、真犯人は、この部屋を使っていたのではないかと思うんです。」


「え?宮田の部屋を?」


「はい。宮田そのものと、この部屋が一致しません。しかし、犯人像とは一致します。それに…。」


霞は部屋の一点を見つめていた。

霞が見ているのは、ベットの上の布団だ。

夏目が近づき、調べると、布団は敷布団、掛け布団、毛布に枕と、きっちり1人分が、きちんと畳まれていた。

夏目は幸田を呼び、DNA鑑定を依頼すると、今度はゴミ箱を見て、霞に見せに来た。

ゴミ箱の中には、同じ銘柄の同じ味のカップラーメンの空き容器が2つ入って居るが、箸も二膳あった。

しかも、2つの容器は重ねられ、箸も揃って、その中に入れてあり、容器の蓋も4つに折り畳んで、容器の中に入っている。

それも、汁が少しでもゴミ箱の中に漏れない様にする為なのか、平らに、口を上にして、きちんと置いてある。

かなり几帳面で、きっちりした性格が窺い知れる捨て方だ。

大食いで、2ついっぺんに食べるにしても、神経質な人間なら、味の違う物なら二膳使うだろうが、1人の人間が2つ共食べたのだとしたら、箸は一膳しか使わないはずと思われた。

霞は布団の事と、カップラーメンの空き容器について報告した。


「ーなるほど…。よし。じゃあ、そのまま残って、部屋を調べてくれ。俺は宮田の取り調べ。ご近所の聞き込みと、両親の方は内さんに頼んでおくから。」





太宰は戻ると言い張る甘粕を、はっ倒す様に寝かせて、なんとか説き伏せると、急いでそのまま宮田が搬送された、警察病院へ向かった。

ところが、宮田は全く喋らない。

住所氏名すら言わず、更に聞こうとすると、暴れようとし、点滴の管やその他のチューブを引き千切ろうとするので、医者が治療困難と判断し、精神安定剤を投与し、眠ってしまい、結局、話にはならない状態になった。

さてどうするか。

宮田が黙秘しているという事は、即ち、何かを知っていると考えた方が良さそうだ。

一応、前科無しの宮田が、警察と聞いて、迷わず、逃走に走った事。

宮田の不自然な部屋と、同居人の気配。

甘粕への過剰暴行。

直接事件に関与はしていなくても、どう考えても、無関係では無い気がする。

太宰は独自に、皆川をもう一度訪ね、宮田の事について聞かせてくれたというグループの所に連れて行って貰う事にした。


「俺も行くよ、刑事さん。」


「ええ?」


笑顔で断ろうとする太宰に、皆川は真剣に言った。


「刑事さんはいい人そうだけど、あいつら、サツにはいい感情持って無い。押田さんにも、最後まで反抗的だった。だからあそこじゃねえかって睨んだ位なんだ。あんたいい人そうだけど、オッさんだし、1人じゃ危ねえよ。」


オッさんだしとは失礼千万と言いたい所だったが、いくら人手が足りないからと言っても、既に掟を破って、太宰は1人で動こうとしてしまっている。

刑事は必ずペアを組んで動くというのは、基本中の基本だ。

それに、そのグループは、太宰だけが寄って行った所で、散り散りに逃げて行ってしまうかもしれない。

散り散りになられたら、いくら歳の割に健脚の太宰でも、全員から話を聞く事は難しい。

皆川がいてくれれば、取り敢えず逃げないで居てくれる可能性がある。


「んじゃ、申し訳ないけど、そうして貰おうかな…。でも、暴力はダメよ?分かった?冷静にね?」


「うん。気を付けるよ。押田さんの仇が取れるなら、努力する。」


さっきちょっと話しただけなのに、皆川の表情は変わっている様に見えた。

先ほど会った時よりも穏やかな顔に見える。

太宰は皆川を助手席に乗せ、車を走らせた。


「お前さん、目の付け所もいいし、そのキレる性格と暴力的な所直しゃあ、いい警察官になれるよ。頑張れ。」


太宰が言うと、皆川は、はにかんだ様に笑った。


「でも、もう30超えちまったぜ?一般職ってやつになるんだろ?俺、高卒だもん。」


「うーん…。そうだなあ…。でも、一般職も捨てたもんでないのよ?警察に駆け込んで来る、困ってる人の相談乗ったり、犯罪被害にあった人をサポートしたり、大変なんだから。」


「そっか…。そんなんでもいいかもな…。」


「ん。夢は捨てちゃいかん。」


「はい…。なんか押田さんに言われてるみてえだ…。」


「俺は押田の様に、志の高い立派な人間ではないがな。」


皆川は運転する太宰の横顔を見つめている。


「そうでもねえんじゃねえの?俺、いい人か、悪い人か見る目だけはあるんだ。だから、押田さんも、いい人だって、直ぐ分かった。」


「ーでも、押田のノートには、お前さんはなかなか話をしてくれなくて、何を考えてるのか分からない、でも、心は開きかけてくれてる様だって書いてあったが…。押田の印象と、お前さんの押田に対する感情は随分ギャップがあるんだが…。」


皆川は考え込む様な素振りを見せながら答え始めた。


「ーそっかあ…。そうかもな…。俺さ、今まで人間て信用した事無かったんだ。

そりゃガキの時はあったよ。でも、親にも、先生にも裏切られた。

親には俺さえ居なければって言われたし、先生にはお前が居ると、授業にならない、学校来るなって。

授業中に、女の子虐めてた奴を殴っただけなのにさ…。

だからさ…。親切にされても、どうしたらいいか分かんなかったんだ…。

話聞いてくれても、何を話したらいいのかとかも…。」


「そうか…。随分酷い目に遭ってきたんだな…。」


「だからさ…。押田さんの親切、心ん中じゃ、有難いって思ってても、なんつーの?表現?出来なかったんだよ。今思うと、生きてる内に、ちゃんとお礼言いたかったなってさ…。」


皆川はまた泣き始めた。


「本と。マジで押田さんのお陰なんだ。警視庁落ちても、就職して、ちゃんと生きて行こうって思えたの…。」


「そうなのか…。でも、お前さん、これ以前にも、職場に行ったり行かなかったりって聞いたが?」


「それは…。」


「ん?言ってみな。怒らないから。」


「実は、親父のせいなんだ。時々酔っ払って大暴れしてるって、飲み屋からなんか知らねえけど、うちに電話かかって来るんだ。

お袋が親父があばれたら、俺んとこって事にしちまってるらしくてさ…。だから、そのお守りに付き合って、明け方までとかやると、その日も1日働いた後だから、疲れて寝ちまって、気がついたら昼過ぎて、仕事終わってんだ…。」


「それ、ちゃんと職場の上司に話しなさい。そんで、親父は警察に連れて行って貰ってくれって、飲み屋に言いなさい。」


「え…。いいのかな…。そんな事して…。」


「いいに決まってんだろう!そんな親の風上にも置けねえ様な親父!同じ親として恥ずかしいわあ!」


いきなり本気で怒り出す太宰を見て、皆川は嬉しそうに笑った。


「やっぱ、刑事さん、いい人だ。」


「そうすんだぞ?」


「はい。そうします。」





引き続き、宮田の部屋を調べていた霞達は、宮田の部屋の、もう1人の住人の手掛かりを探していた。

だが、几帳面な性格故なのか、なかなか見つからない。

現場から持ち去った携帯電話は先程見つかった様だが、その他の警察手帳とI.Dは見つかっていないし、取り立てて変わった持ち物の様な物も無く、勿論、凶器も無い。

そして、心臓も現場からも発見されていないし、ここにも無い。


「ここは単に寝泊まりして、拠点にしているだけの様ですね。」


霞がそう言った。

確かに、宮田の自宅は都内であるし、駅も近い。

しかし、多摩川縁の大田区の端っこである為、都心部では無いし、そう便がいいとは言い切れない。

確かに、押田のアパートには自転車で行ける距離ではあるが、本村や新田の自宅とは結構な距離だ。


「ここで便利と思うってのは、都内23区に住んで居ないんでしょうかね…。」


夏目の呟きに、霞が早速反応した。


「そうですね!流石ですね、夏目さん!

ーつまり、 住んでいる所に、戦利品は保管しているのね…。そうなると、宮田とどこで知り合ったのか…。」


宮田は、パソコンの類いは持って居らず、逃走時に所持していたスマホだけの様だ。

それは既に、原田が分析を始めている筈だ。


「うーん、甘粕さんにハニーって電話させるわけに行かないし…。」


霞はゆっくりと夏目を見つめた。


「な、なんです?ハニーっつって、効果的なのは、甘粕さんだけですよ?何故俺を見ますかっ。」


夏目らしくなく、若干慌てているのが面白くて、霞は必死に笑いを堪えた。


「でも、私が電話するより、気分いいと思うの。」


それは確かにそうかもしれない。

原田は、最近では、霞を名前で呼ばず、

『ライバル』

と呼んでいる位だ。

感じは悪くなるのは確かかもしれないが…。


「でも、そこは仕事ですから、例え、霞さんが相手でも、ちゃんと報告すべき所はするでしょうし…。」


珍しく食い下がる夏目が、面白くて堪らない霞。


「それが通用しないのが、原田さんじゃありませんか。だから夏目さんは極端に、原田さんとの接触を避けるんでしょう?」


図星だった。

実は原田の特異なキャラクターだけでなく、そのムラのある仕事ぶりが、夏目が原田を嫌う最大の理由だった。


「ーしかし、原田さんだって、俺から電話を貰っても…。」


「夏目さん。あなたはご自身ではお気付きでないのかもしれませんが、かなりイケてるルックスをなさっているんですよ?姿勢はいいし、背も高いし、端正なあっさり顏で、とても素敵です。」


「今、この状況で褒めて頂いても、素直に受け取れませんが。」


「いえ。事実です。きっと原田さんは、夏目さんにお願いされたら、嫌とは思わないでしょう。少なくとも私にお願いされるよりは。

という訳で、捜査状況を聞いて、23区外の友人が居ないか、洗って貰って下さい。」


もはや、夏目の言い逃れる隙間は無い。

夏目は渋々、原田に電話を掛け、オンフックにした。


「夏目ですが、宮田の携帯から何か出ましたでしょうか。」


「何、その不機嫌そうな事務的な声~。ダーリンが瀕死の重傷って聞いて、傷心のあたしに向かって、その態度ってどうなのよお~。」


霞に無言で突かれるが、夏目は正直者である。


「甘粕さんは無事に意識も取り戻され、大丈夫です。縁起でも無いこと言わないで頂きたいですね。」


完全に不機嫌。


「夏目君て、顔とかスタイルはいいけど、声が悪いよね。全然ときめかないよ。」


夏目のこめかみに青筋が3本も立った。


「あんたにときめいて頂かなくて結構だあ!さっさと状況報告して下さい!」


暴言なんだか丁寧なんだか、お願いなんだか脅しなんだか、もう分からない。

横で頭を抱える霞の予想通り、電話は切られた。


「もう…。何してんですか、夏目さん…。」


思いっきり責め立てる様な目で見られたが、夏目としては、納得が行かない。


「あの人の仕事は、調べ上げた事を、俺たちに報告してくれる事なんじゃないんですか!?

それで血税から出る給料を貰ってるんじゃないんですか!?

気分で仕事するしないってえのは、合点が行きません!」


「そうですけど、原田さんがああいう仕事ぶりでも、クビにもならず、干されもせずなのは、一重にずば抜けた能力をお持ちだからなんですから、しょうがないじゃないですか。

コンピューター上で、原田さんに調べられない事は無いって位凄い人なんですよ?

敵に回すのは損というものです。

おだててでも、顔から火を出してでも、気分良く仕事をして貰って、原田さんの能力を引き出している甘粕さんのご苦労は、捜査上、必要な事なんです。

だから、甘粕さんはあんな硬派なのに、泣きながらハニーって言ってるんじゃありませんか。」


「はあ…。すみません…。」


口では謝っているが、怒ったままの夏目を苦笑して見ると、霞は言った。


「仕方ないですね。甘粕さんに電話して貰いましょう。病院へ戻ります。」


流石にそれは甘粕に対して申し訳なくなり、夏目は小さくなって、謝った。





「な…、何故なんだ…。夏目…。」


甘粕の病室へ行き、事情を説明すると、甘粕は血の気の無い顔を更に青くして、目を見開いて、夏目を見つめた。

どこから見ても、抗議している目だ。


「申し訳ありません…。俺には原田さんをおだてるとか、機嫌をとるとかいうのは、ポリシーに反する事で…。」


珍しくゴニョゴニョと申し訳なさそうに言っているが、甘粕は怒った。


「お前、俺が好き好んで、あんな事言ってっと思ってんのかあ!!!」


「お、思ってないです!申し訳ありません!」


夏目が、バッと素早く、直角に頭を下げて謝ると、甘粕は世にも悲しそうな顔をした。

本人は、わざとそれを消しているが、元々は物凄い美形である。

美しい目を潤ませて、寂しそうで、悲しそうな顔つきになると、かなり魅力的なのは確かだが…。


「甘粕さん!すっごく可愛い!!!」


この状況で、身悶えしてそう言う霞はどうなのかという気はする。


「か…霞さん…?」


甘粕が一転して、素っ頓狂な顔になると、霞も我に返った。


「ご、ごめんなさい…。お願い出来ますか?私じゃ多分、お嫌だと思うんです、原田さん…。」


「わ…分かった…。電話を…。」


甘粕は霞から電話を受け取り、原田に掛け、夏目同様、オンフックにした。


「ダーリン!!大丈夫!?どうなの!?具合は!」


「大した事無い。宮田の携帯の…。」


しかし、原田は遮って叫ぶ。


「直ぐにも飛んで行きたいんだけど、宮田の携帯の分析しろって言われたからあ!ごめんね!行けなくて!」


「そ、捜査が進展しないと、落ち着いて寝てらんない。その方が助かる。だから教えてくれ。どうなってる?」


「宮田は警官嫌いってカテゴリーに入るのかな。

要するに、警視庁の採用試験で、ペーパーも、体力測定も問題無かったんだろうに、誰かの策略で落ちたって思ってる、勘違い野郎共で作ってるグループでツイッターやってるの。

結構頻繁にやり取りしてて、ほぼ一日中だから、こいつら無職だね。仕事してても、しょうもないんじゃないかな。」


「成る程。何人いるんだ。そいつらの身元は?」


「6人だね。身元は、今、調べてみてる。」


「そん中に、23区外の人間は居る?」


「居るよ。1人。喜多晃(きたあきら)。ちょっと待ってね。詳細は…。

はい、出た。26歳。高校卒業後、大学入試に失敗して、警視庁を受け出してるから、18の時から5年連続フル出場。

でも、全部落っこってる。最後の時は…。

これ、異例だろうね。

心理テストを担当していた、村井さんて…、あ、科捜研でプロファイリングやってたおじさんだ。

その人が、試験受けさせる前に、書類選考で落とすべきだって言ってて、通ったみたいだよ?」


「村井さんが…?」


村井とは、5課が出来るきっかけになった人物だ。

彼が科捜研で1人でやっていたプロファイリングだったが、村井の定年退職と共に、社会情勢を踏まえて、お試しでという事で、5課が創設されたからだ。

いわば、甘粕たちの先駆者であり、甘粕も太宰も、村井にはよく意見を聞きに行き、世話にもなっていた。


「村井さんに話を聞いてみよう。それで?」


「その最後に書類選考で落とされた直後の今から1年半前から、このツイッターグループ立ち上げてる。

言出屁(いいだしっぺ)はコイツだよ。

で、何回も落ちてる奴らが集まって、誰が悪いとかなんとかと、胸糞悪くなる悪口ばっか言い合ってると。

でえ、なんか段々内部の事調べ出して、本村課長が試験官だったってのまで突き止めてるよ…。

課長になる前だよね。これ。」


「そうだな…。6年前から1年前までって言うと、本村さんは、一課には居たけど…。

ああ、刑事部長に可愛がられてたから、面接官任されてるとか自慢してた様な覚えがあんな…。」


「ふんふん。で、こいつらの矛先は、本村課長になって行ったんだけど、こいつらが入りたかったのは、一課。

だからか、徐々に矛先が一課になって来てる。

事件が起きて、直ぐ解決出来ないと、無能集団とか散々だよ。あったま来る!」


「成る程な…。ターゲットが一課の刑事って言うのも、押田の次が本村さんてのも繋がって来たな…。で、喜多本人に関しては?」


「ちょっと待ってね…。喜多の住所は、府中市だね。

で、えー、無職ですな。親の家に住んでるけど、3年前くらいまでは、近所か親が警察に通報する騒ぎが、6回もあったみたいだよ。喜多の暴力で。

で、現在、親は、近隣のアパートに住んでる模様。喜多から離れたんだね。」


「ふーん…。購入物品で目ぼしい物は?」


「ごめん。ちょっとそこまでは直ぐ返事出来ないわ。速攻で調べて連絡する。」


「分かった。有難う。」


「ー違うでしょ?ダーリン。」


「ぐっ…。」


分かっていても、出来たら避けたかったのだが、例外は無い様だ。


「あ…有難う…。ハ…ハニー…。」


「………。」


また大きな声でと言われるのかと思ったが、今日の原田は違っていた。


「ーまあ、しょうがないよね。怪我酷いんだもん。元気になったら、またいつもの様に愛を叫んでね。」


「ーう…。」


「じゃあね、ダーリン。ちゃんと寝てるのよ?」


甘粕は電話を切ると、どっと疲れた顔で、霞を見て、気分を変える様に、普通に言った。


「村井さんとは、俺が話す。」


「ええ!?ダメよ、甘粕さん!寝てなきゃあ!」


「いや。あの人には世話になってる。俺が聞きに行く。」


そう言って、甘粕は、2人が止めるのも聞かず、ベットに起き上がって、動き出そうとしている。

夏目が小声で霞に聞いた。


「どうします?無理矢理寝かせときますか?」


「ーでも、そんな事しても、人目を盗んで抜け出してしまうわ…。2人で無理させない様に着いて出た方がマシよ…。」


「ー承知しました。」


夏目はそう言うと、甘粕の着替えを手伝いだし、霞は病室を出た。


2人が病室を出て来て、霞が用意していた車椅子に甘粕を載せ、看護婦や医者に見つからない様にそろそろと移動を開始しながら、霞は突然、夏目をギロッと見た。


「何です?」


「無理矢理寝かせとくって、あなたまさか…。」


「はい。気がついたら落とすを、繰り返すしかないかと。」


「やめて!死んじゃうでしょお!?」


甘粕がバッと振り返った。


「霞さんっ。見つかるっ。」


「ご、ごめんなさい…。」


夏目を睨みながら謝ると、夏目はクスリと笑い、ボソッと言った。


「霞さんも好きなんじゃねえか…。何で言ってやんねえのかな…。」


霞には聞こえていたが、何も言わず、微笑むだけだった。















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