捜査依頼は来てないが…
夏目は珍しく昼寝をしていた。
ここは実家で、久々の純粋な休日、朝食を食べて、美雨を抱きかかえたまま寝てしまっていた。
夢の中で夏目は書類の山を運んでいた。
全部未解決の事件だ。
事件が新たに起きなくても、5課にはやる事が山の様に待っている。
友田の事件が終わった後、新しく猟奇殺人事件は起きていないが、毎日やっても、まだ片付かない未解決事件の山が、頭から離れなかったのかもしれない。
そのうず高く積んである書類の山を、慎重に運んでいると、どういう訳だか、その書類が腕の中で、モゾモゾと動き始めた。
抑える側から書類は丸で暴れるかの様に、蠢めく。
まるで、書類自体が意思を持っているかの様だ。
ーなんだ、この書類は…。
不審に思いながらも、そこが夢で、夏目は必死に書類を崩すまいと、満身の力で抑えつける。
更に動きが激しくなる書類。
とうとうその書類が腕から飛び出し、床にばらまかれた途端、太宰の平手打ちが後頭部に飛んだ。
「何しとるの!夏目!」
「すみません…。書類が…。」
太宰はこんな事で怒るキャラだったろうかと思いながら謝ると、聞き慣れた自分の声と同じ、ドスの効いたダミ声が響き渡る。
「何が書類だ!このバカ息子!さっさと用意しろ!今日はドレスを買いに行くんだろうが!」
ムクッと起き上がり、怒鳴っている父を見ると、美雨を後手に隠す様にしている。
「全く朝っぱらから寝ぼけやがって!美雨ちゃん、窒息しちまうだろうが!」
どうも、腕の中で蠢いていたのは、書類ではなく美雨だったらしい。
夏目があまりに力強く抱えるので、苦しくなり、腕の中から出ようとしたが、出られず、もがいている所に、父が来て、美雨を救出し、夏目の頭に平手打ちを入れた様だ。
「ああ…。変な夢見た…。」
美雨は心配そうに夏目の顔を覗き込んだ。
「大丈夫?疲れてるんでしょう。今日はやめよ?」
夏目は春になって、調子の良さそうな美雨の顔色を見ると、ニッと笑って、美雨の頭を撫でた。
「大丈夫。行こう。」
美雨の調子がいい時に動きたいし、夏目の仕事が忙しくて、結婚式も随分先延ばしになっていた。
結婚した後、同居というのが気に入らないが、美雨の身体の事を持ち出されては、いくら永遠の反抗期男の夏目でも、父には逆らえない。
確かに、留守がちになってしまう夏目と2人暮らしよりも、定年を迎え、一応名目上は家に居る父親が一緒の方が安心ではある。
しかし、出掛ける側からまた揉める。
乗る車でだ。
夏目は自分のプジョー205GTI ITSチューニングで行くと言い張り、父は自分のシトロエンC5V6に乗せて行くと言う。
「お前のは乗り心地悪くて、美雨ちゃんの心臓に良くないじゃねえかよ。」
「似た様なもんだろうが。大体、俺はハイドロが嫌なんだよ。」
「俺が運転すんだから、お前には関係無えんだよ。」
「いいから俺の車に乗れ。親父なんかオマケでくっ付いて来るだけじゃねえか。」
「オマケじゃねえっつーんだよ。途中でお前に呼び出しかかったらどおすんだ?ええ?」
終わらなさそうなので、美雨が叫ぶ。
「お父様の車で!」
「なんで。」
夏目にギロリと睨まれても、今更怯む美雨では無い。
「3人で乗るのは、205だと、後ろの人があまりに乗り心地悪いからっ。」
結局、身体の大きさから言って、後ろに乗るのは美雨なので、そう言われては、夏目と雖も、引き下がるしかない。
渋々父の車に乗り、ウェディングドレスを買いに出た。
その頃甘粕は、やっと霞とデートに漕ぎ着けた。
生まれた時から、高校まで住んでいた鎌倉を案内し、ランチを食べていた。
ところが、会話が進まない。
誘ったくせに、何も喋らないものだから、霞が話題を提供するのだが、生来のぶっきらぼうのせいで、すぐに会話が終わってしまう。
ーはあああ…。俺何してんだ…。これじゃ退屈しちまうじゃん…。
「かっ…霞さん…。」
「はい。何でしょう。」
「仕事以外に、何か趣味ってあるの…?」
「ええっと…。趣味仕事にしちゃったからなあ…。そうねえ…。編み物好きです。」
「へええ…。」
意外と家庭的な一面が?と思っていると、意外な事を言った。
「と言っても、只管、編んで行く行為だけが趣味なんです。だから、マフラーしか出来上がりません。」
「そ…そうなんだ…。」
「そうなの。1度、5メートル位のを作っちゃって、家族に何にする気なんだって笑われちゃったわ。」
「は…はははは…。」
確かに何をする気なのか、全く分からない。
「甘粕さんは?」
「俺は…車かな?」
「やっぱりそうよね。お休みの時、自分でいじったり?」
「うん。してる。」
また会話がそこで終わってしまった。
甘粕は、自分の趣味に関して、熱く語るタイプでも無いので、折角水を向けて貰っても、これで終わってしまう。
困ったなあと思っていると、霞が笑った。
「ん?」
「いいじゃありませんか。沈黙が多くたって。私は甘粕さんと一緒に居るだけで、なんだか落ち着いた気分になって、幸せ。」
「そ…そう?」
「はい。」
「うん!そんで!?」
休み明けにトイレで会った太宰に、つい嬉しくて、報告すると、目を輝かせて、そう聞かれた。
「そんでって…、その後また鎌倉を回って、夕飯食って、送りましたけど…?」
「だっ、だから、そうでなくて!そこまで言って貰えたんだから、好きだとか、付き合ってとか!言ったんだろうな!?」
「ん…んな事言える訳ないじゃないですか!何言ってんだあ!」
真っ赤な顔になった甘粕は、そう言いながら、太宰の背中を思いっきり引っ叩いた。
「いだああああい!お前、俺はお前の上司だぞ!」
「忘れる様な事言うからでしょおお!?」
「なんだってそう直ぐ忘れちまうんだよ!」
「仕方ないでしょお!?。課長のキャラですよ!」
「なんだあ!そりはああああ!」
揉めてる所に、夏目が顔を覗かせた。
「課長、マズイ事件です。」
「ん?」
「一課の押田さんが殺されました。本村課長は、意地でも一課でホシ挙げるって息巻いてますが、殺され方がうちっぽいし、本村さんじゃ無理なんじゃないかと、内田さんからご相談がありました。」
オフィスに戻ると、内田から貰った事件概要のコピーが各自のデスクの上に置かれ、こちらで出せるだけの情報は、既に夏目が用意してくれていた。
「流石だのう、夏目よ。ありがとな。」
「いえ。プリントアウトするより早いので、こちらをご覧ください。」
夏目は部屋の壁にある大きなモニターに、警視庁内のシステムから原田に引っ張り出して貰った現場写真を出した。
それは凄惨な物だった。
押田は血だまりの中、仰向けに倒れており、頭部からも血を流している。
そして、その血だまりを作っているのは、頭部よりも、胸の辺りだった。
胸の部分の拡大写真を夏目が出す。
切り裂かれ、血管やその他がグチャグチャと見えるが、何かを抜き取った様な感じだった。
目を凝らしながら、太宰が呟いた。
「ーなんだ…?なんか臓器取ってんのか?」
「そうです。心臓を抜き取られていました。今、柊木先生が司法解剖中です。」
「心臓取るって、何…。また食ってんのか!?」
もう嫌とばかりに太宰が言うと、遺体の写真をじっくり見つめていた甘粕と霞は首を捻った。
「いや、違うんじゃないでしょうかね…。」
「私も同意見。どうしてなのか言って下さい、甘粕さん。」
「ええ?霞さんが言やあいいじゃん…。」
「いいから言って。」
甘粕は渋々意見を述べ始めた。
「ーいや、食うのが目的の、所謂、変態なら、もっと沢山の臓器なりなんなりを持って行くんじゃないかと。
それに、食べる相手がいきなり、一課切っての武闘派で、イカツイガタイのデカってのも、妙です。
遺体状況はかなり酷い。乱暴に胸を開いて、心臓抜き取った感じだし、顔も何度も殴った形跡がある。
足も逆向きになってるって事は、足も捻って、暴行を加えてる。
そして、この猿轡。
恐らく、生きてる間に、この過剰暴行を加えたと考えられますので、食うのが目的というより、怨恨じゃないかと。」
「なるほど。霞ちゃんは?」
「全く同意見です。」
「ああ、良かった。じゃあ、夏目、続けて。」
「はい。今朝、登庁しない押田さんに電話をかけても応答が無い事から、芥川さんが出向き、発見されたそうです。
つまり、現場は自宅アパート。
しかし、昨日はバレンタインデーの日曜日という事で、付近住民は殆ど在宅しておらず、物音や叫び声を聞いたという目撃者は発見出来ていない状況です。
唯一在宅していた、押田さんのお宅の真下の住人は、ドンという音を何度か聞いた気がするそうですが、ヘッドホンの大音量で、なんとか三つ葉とかいうアニメを見ており、分からないとの事でした。」
「なんとか三つ葉なんてアニメあったか…?」
太宰が呟くと、甘粕も霞も首を捻った。
「内田さんのメモにはそう書いてありましたが。」
「まあいいや。車なんかの目撃情報は?」
「大体の死亡推定時刻は、昨夜夕方4時から6時にかけてだそうで、その時間、黒い自転車がアパートのポストが設置されている壁沿いに置いてあったのを、隣家の住人が買い物帰りに見ています。
ただ、自転車がそこに置いてあるのは、よくある事なんだそうで、住人の物かもしれないという話だったので、芥川さんが聞いて回った所、住人に黒い自転車の所有者も、置いた者も居なかったそうです。」
「ホシは自転車移動の可能性が高いか…。」
「今の段階ではその様ですね。」
「夏目さん、お部屋の写真はありますか。」
霞が言うと、夏目は返事をしながら、もう出した。
部屋全体を写した写真が4枚出て来た。
部屋はかなり荒らされている。
「なんか物色した後だな…。失くなってるものは?」
太宰が聞くと、夏目は深刻な顔で答えた。
「携帯電話。それに警察手帳と、警視庁のI.Dです。」
警視庁のI.Dというのは、カードに写真、名前、階級、所属部署が書かれてある、名札の様な物で、警視庁に入ったら全員着ける事になっている。
というか、このカードは電子チップが埋め込まれてあり、これを入り口でセンサーが認識して、警視庁の職員か否かを判別するので、これが無ければ、基本的に建物内に入れない。
又、カードを通すだけで、誰なのか認識出来るので、これで持ち出し禁止の書類や証拠品なども見られるシステムになっている。
警察手帳の方は、技術は要るが、写真を変えてしまえば、悪用可能だ。
それに、携帯電話というのも、非常にまずい。
一課の人間の電話番号は勿論、ありとあらゆる知られては支障が出る番号が入っている。
いずれも、犯罪者の手に渡ったら、非常にマズイものである。
「そらマズイな…。押田のI.Dは?」
「使用不可。及び、使用したと分かったら、即刻逮捕という事にはなっていますが、警察手帳と電話の方は、如何ともし難く。
取り急ぎ、押田さんの携帯に登録されてるであろう番号は全て変える事にはしたようですが。」
「それで夏目はマズイ事件と言い、本村は血眼になっていると…。」
「はい。」
今度は甘粕が質問する。
「押田は日曜日、何してたんだ。上下トレーナー姿だから、自宅にいたのかな。」
「はっきりとは分かりません。状況から言えばそう思えるんですが、内田さんも分かんねえと仰っていました。」
「つーと?正直言うと、押田って、俺が一課の課長辞めるのと、入れ違いに入って来たんだよ。だからどんな奴だか知らねえんだ。」
「あ、そうでしたか。失礼しました。
内田さんの話では、押田さんは、本村さんが注意しても、上下トレーナー姿のスニーカーといういでたちで登庁して来る方だったそうです。
刑事部長の方からも注意された様ですが、それでもそのスタイルを貫いてらして、タンスやクローゼットには、トレーナー上下以外の服は無かったそうなので、外出したのか、部屋に居たのか、格好だけで判断するのは難しい様です。」
「はー、またエライ変わり者だな。」
霞が頷きながら言った。
「変わり者度合いが酷くて、残酷に殺される程、人の恨みをかったというのも、腑に落ちませんが、取り敢えず、被害者をもう少し調べてみてもいいかもしれませんね。」
「そうだね。どうせ足取りだの聞き込みだのは、一課でやってんだろうし。一課の手が回らねえ様な所から始めよう。」
太宰がそう言ったところで、柊木がひょっこり顔を出した。
「お?なんだ?」
「お前ら、どうせ探ってんだろ?今回のヤマ。」
「うん。まあ、丁度手も空いてるしな。」
「本村じゃ無理だろ。俺も検死結果流してやる。」
柊木は、元からそのつもりだった様で、検死報告書も2部作っており、写真も用意してくれていた。
それを太宰に渡し、写真をホワイトボードに貼りながら説明を始める。
「死因はくも膜下出血だ。
傷の順番から行くと、後頭部にスパナの様な物で一撃。
倒れたところで、仰向けにして顔を20回は蹴ってる。
押田は大学時代までずっとボクシングやってて、脳に血栓があった。
それが激しい暴行で一気に破裂して、脳に広がった。
足を捻って複雑骨折させてる時にはまだ生体反応はあったようだが、昏睡状態にはなってた筈だ。
胸を切る時にショック症状で震え出したんだろうな。
胸を切り裂く時の傷が初めの内ガタガタしてんのはそのせいだろう。
だから、直接の死因は顔面への蹴りだが、ホシの方は多分、死んでねえと思ったんだろうな。」
「何故そう思う。」
「猿轡の血だよ。顔を散々蹴った後で、猿轡してる。血が猿轡の下にある。ほれ。」
と、写真を見せる。
確かに、血の上からビニールテープの猿轡をしている。
「まあ、正確には、猿轡したのは、足の複雑骨折させる前か後かは分かんねえけども。
で、下手くそな切開で胸を切り裂き、手を突っ込んで心臓を抜き取って、ハサミなんか使わず、ぶっちぎってると。」
「心臓は現場から見つかってねえんだよな?」
「無えな。」
「医学関係者でも無えと?」
「あり得ねえな。心臓がどれかも迷った節ありだもん。
で、心臓を抜き取った後、つまり死後に、更に腰だの頭だのを蹴ってる。
頭蓋骨の一部は陥没してるし、腰の骨にもヒビが入ってる。相当な力だぜ。
身長は推定187センチ。かなりの大男だ。」
「後頭部の一撃目の高さか?」
「そうだ。押田は180センチ。なのに、上から殴ってる。角度から計算すると、そんな所だな。」
甘粕が腕を組んで呟いた。
「後ろから襲った…。どこで…。どうして気づかれなかった…。顔見知りなのか…。来訪者なのか…。」
「その辺りは幸田に聞きな。幸田も本村をまいたら来るって言ってたぜ。」
「おいおい、そんなしてくれて、ありがてえけど、大丈夫なのか?」
「んな事あ、知らねえよ。けど、本村には無理。」
「なんで。まあ、本村にはあんま刑事の才能は無えけど、内さんとか、他の奴らが居るだろう。」
「本村が内さんだろうが、下の奴の意見聞くと思うか?
それに、奴は保身で躍起になってるだけだ。
I.D.と警察手帳を盗まれ、携帯まで盗まれた。これが悪用されたら、本村の責任問題だ。」
「目的は違っても、ホシ見つけ出すって方向は同じだろう。」
「そうでもさ。
元々、一課はお前が居なくなってから、本村派と、お前を慕う、内さん派の分裂が起きて、ギクシャクしてる。
殺された押田は内さん派だ。
押田の事、ちょっとでも非難する様な事を本村派の奴が言っただけで、喧嘩になる。
この非常時でも、本村は一課纏められねえ。
イライラして余計当たり散らす。
もうメチャクチャだったぜ。」
「うーん…。そうは言われてもなあ…。」
「じゃ、俺は引き上げるぜ。」
「はいよ。ありがとな。」
太宰は溜息交じりに頭を掻いた。
部下思いの太宰としては、やり切れない思いだろうと、みんな察している。
「ーまあ、一課のゴタゴタはしょうがないな…。俺にどうしてやる事も出来んし。で、検死結果から、霞ちゃんはどう?」
「そうですね…。凄まじい恨みの様ですが、この常軌を逸した感じは、顔見知りで、それなりに確たる理由の恨みを持っている人間とは考えられません。
それと、心臓を抜き取った動機を考えていたんですが、犯人は力の誇示の為、抜き取ったのではないかと。
警察手帳、携帯電話、I.D.以外を盗んでおらず、またそれを持って行く為に室内を物色していたという事は、犯人は押田さんが刑事だという事を知っていた事になります。
そして、体格から見ても、押田さんは相当力がある事が分かる。
その人を無残に殺し、痛めつけた上、心臓を抜き取ったのは、俺はこいつよりも強いという意思表示ではないかと思います。」
「なるほどね…。じゃあ…。」
太宰が言いかけた所で、今度は幸田が、いかにも人目を盗んで忍び込んで来た様子で、サササッと5課の部屋に滑り込む様に入って来た。
「幸田…。そんな苦労するなら、いいよ。後でこっそり聞きに行くから…。」
「いや、早え方がいいんじゃねえかと思ってよ。
玄関のたたきに押田の血痕があった。
どうも、ホシは玄関の中に入って、後ろ向きになった押田の後頭部を殴った様だ。」
甘粕の疑問が1つ解けた。
「それで、なんで背を向けたかっつーと、多分、ハンコを取ろうとしたんだ。
玄関の前に置いてある下駄箱風の棚の上に、小せえ引き出しがあって、それが半開きになっててさ。中にハンコがあった。」
「おお!助かるぜ!よく見てたな!」
「だって、本村だもん。見逃しそうじゃねえかよって、いうか、偶々だ。
俺も屈んで立ち上がった時に、その引き出しに頭ぶつけてよ。それで。」
「ああ、成る程な。何はともあれ、助かる。ありがとな。」
「ん。だから、一応、内さん達は宅配便を装ったんじゃねえかって線で、聞き込みしてるわ。」
「本村は?」
「ー実は、現場から押田以外のDNAが見つかったんだ。畳に血痕があってよ。そのDNAの持ち主追ってる。」
「ホシの可能性が高いのか?」
「俺はよく知らねえ。内さんに聞きなよ。」
「おう、そうだな。」
押田については、霞に言われ、甘粕が渋々原田に調べて貰いに行き、あら方分かった様だ。
「押田は、言わば叩き上げです。
神田署で4年間刑事として勤め、3回の受験の末、漸く、警視庁捜査一課に勤務出来ました。
頭脳派とは言い難いですが、服装以外の勤務態度は真面目で、いい刑事だった様です。
先ほど、幸田さんのお話にもあった、容疑者と見られている金山栄司は、中学の時の同級生で、服役後の身元引受人になってやってたので、自宅に金山が来たとしても不思議ではありません。
ついでに金山についても調べて貰いましたが、金山の方は、出所後も仕事は長続きせず、押田が金山の自宅へ行って、金山の親と一緒にしょっ中叱責していた様ですから、まあ、金山が恨みに思ったと考えてもいいんでしょうが…。」
「なんか引っかかったんだな、甘粕。なんだ。」
「金山は人を害する犯罪は犯していません。
人気の無い他人の家に忍び込んで、盗みを働いただけです。
それがいきなり、あそこまでの過剰攻撃を加え、心臓を抜き取るという、猟奇的な行動を起こすとは考え難いんですが。」
「それは俺もそう思うな…。」
「私もそう思います。朧げに見えているプロファイリングと合いません。」
「じゃあ、霞ちゃん、プロファイリングをお願いしようかな。」
「えっ…。まだ大した物はできてないんですが…。」
「いいじゃないの。俺たちの中だけの話なんだから。ほれほれ。」
太宰に促され、霞がプロファイリングを始めた。