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満月の夜 2  作者: 桐生初
15/30

警視庁舐めんな

甘粕は夏目に状況報告を入れた後、雑色不動産に向かった。


「斉田さんのお宅ですか…。

はい。確かに、下宿人募集って、んー、9年か8年位前でしたかね。出しましたよ。

うちの親父と小学校の同級生でね。その縁で。」


「どういった経緯で?」


「斉田さん、奥様亡くされて、その後、二階に娘さん夫婦が住んでたんです。

だから、お風呂、トイレ、洗面所、キッチンも一応付けた訳ですよ。

そしたら、その娘さん、旦那に浮気されて離婚したら、鬱病になっちまってね。

自殺しちゃったんですよ、トラックに飛び込んで。

で、二階に誰か住んでくれねえかなって斉田さんが相談されて、だったら、今時流行らないかもだけど、募集かけてみようかって事になって。

でも、斉田さん、その後直ぐ、脳梗塞で倒れられて、足が動かなくなっちまって。

車椅子の爺さんじゃ、かえって迷惑かけちまうからって、この話も無しに。」


「応募者が来ませんでしたか。」


甘粕は友田の写真を見せながら聞いた。


「1人来ましたよ…。ああ、この男です。もうちょっとハゲてなかったけどね。」


「それで?」


「それが、募集打ち切った後だったんで、もう無いって言ったら、なんで無いんだって食いさがるんで、斉田さんのご事情説明したら、じゃあ、ヘルパーが要るんじゃないですかって言い出して。

いいのかなとは思ったんですけど、看護師だって言うし、なんか凄い心配してる様な、親身な感じで、愛想がいいんで、ついヘルパーさんは来てるけど、1日数時間で、困ってるみたいだとか話しちゃって…。」


友田は変幻自在に相手によってキャラクターを変え、それで信用を得たり、秘密を得たりしている様だ。

サイコパス的なものと言える。

それが出来ない相手が夏目だ。

だから夏目にかかっているのである。

そして、恐らく、斉田老人の状況を知り、ヘルパーの資格を取り、計画的に斉田老人に近付いたはずだ。




甘粕は太宰に電話を入れた。


「友田は事前に斉田さんの状況を詳しく入手していました。

原田に確認して貰った所、ヘルパー二級の資格を取ったのは、斉田さんの状況を不動産屋から聞いた後の様ですし、計画的に斉田さんに近付いている様ですね。

やはり、初めから、解体場所として狙っていた様です。」


「そうか。ご苦労さん。ありがとな。戻って来て、2階の捜査を引き続き頼む。」


「はい。」




幸田が到着し、鑑識を頼んだ後、太宰は再び斉田と話し始めた。

斉田老人は、矢張り、相当気に病んでしまっている様だ。


「情けねえ…。世の中の事に注意向けてとか、ボケねえ様にとか、偉そうな事思って、新聞4紙も取っておきながら、家の二階で、自分が招き入れた男が、女の子を殺してたのも気がつかなったなんてよ…。」


「どうか、その事であなたが苦しまないで下さい。

友田は、あなたなら分からないでやれると思い、計画的にあなたに近づいて、利用したんですから。あなたは被害者です。」


「被害者とは思えねえが…。なんでも協力するぜ。俺でできる事なら。」


「何か、他に気づいた事などないでしょうか。事実を知った今思えばという事でも構いません。」


「そうだな…。さっきもずっと考えてたんだが…。

本当に、奴は肉は食わなかった。

俺が今日はサーロインステーキが食いてえって言うと、1人分のサーロインしか買わねえ。

でも、暫くすっと、上から肉を焼く様な匂いはして来たんだよ。

香草たっぷり使った感じのな。ニンニクとか、ハーブみてえなのとか。

肉、別の安いやつでも買って来たのかなとか思ったんだが…。

人肉ってのは、臭えのかね、刑事さん…。」


「かもしれませんね…。友田の自宅からも、そういったスパイス類や香草類が多く出て来た様です。」


「食ってたんだな…。女の子を…。」


斉田老人は辛そうにそう言って、また話し始めた。


「友田が来ていた期間の事を事細かく思い出してみたんだ。

奴は3カ月おきに月初めの1(ついたち)に来た。

車で来るんだ。うちは空の駐車場もあるし、俺の病院に行くにも、便利だからって事でよ。

で、半月程居るが、その間、時間契約してるヘルパーは来ない。

まあ、必要ねえからな。

で、来て、溜まった掃除だのなんだのを済ませたり、俺と買い物行ってくれたりして、1日目は過ごす。

2日目になると、2時間程度抜けるって言って、外出する。車でな。必ずだった。

本当に2時間程度で帰って来て…。

そう必ず、俺の所に今帰りましたと顔を出して言うんだ。

『買い物したり、家から私物持って来たんで、結構な量を二階に搬入するから、時間かかるかもしれません。それ終わったら、夕食にしますから、何が食べたいか、考えて置いて下さいね。』ってさ…。」


少女を拉致し、運び入れる時間という事だろう。


「それからは普通の生活だ。

朝起きて来て、起きるのやトイレ、身支度を手伝ってくれ、朝食の支度。

俺のその日の予定を聞き、それを忠実にこなす。

でも、俺は、どっちかってえと、ほったらかして置いて欲しいタイプだから、ずっと側に居なくて良いって言ってあるんで、俺の用事が無え時は、掃除洗濯に庭いじりだな…。

こっち側じゃなくて、風呂場側ばっかなのが気にはなったが、実家が田舎だから、実のなる木にはロマンを感じるとか言われりゃ、そうかいと言うしかねえ。

俺は、夜10時には寝て、それから起きねえから、夜中の事はよく分からねえな…。

こんな所で、なんの役にも立たなくて、申し訳無え。」


「とんでもないです。有難うございます。

あの、柿とびわの木がある、庭の横は、何かの工場か倉庫の様ですが、そこの人が庭を見てるって事は無いんでしょうか。」


「無いだろうな。多分。友田が来る前は喫煙所みてえなのが、こっち側の階段の踊り場にあったんだよ。

そしたら、隣の家の奥さんが、そこでタバコ吸ってる奴が、家を覗いてる様に見えるって、苦情言ったんだ。

結構隣は色々うるさくてよ。

タバコの煙が来るとかも苦情言ってたから。

だから、喫煙所も移したみてえだし、こっち側には、あの建物には窓も無え。

近隣住民の苦情には敏感みてえだから、刺激しねえためか、こっち側にあそこの人間は来ねえ様になってる。」


「そうですか…。」


それでも一応、聞き込みはしておくべきかもしれない。

太宰は甘粕に不動産屋の帰りに寄るように指示した。




霞は夏目に新たな指示を出していた。

もう1つの戦利品の有無である。


「お前が普通の状態の女の子に何も出来ねえのは分かった。

でも、だからこそ、食うだけじゃなく、自由を奪って、解体する間も楽しんでるだろ。

お前みてえな変態は、そういうの思い返しながら、また楽しむんだろ。

その為のツールはなんだ。

制服や下着は、食う時のツールだろ。

解体してる時の楽しみを思い出すには、どんなツールを使ってんだ。」


友田は憮然とした表情で、押し黙っている。

青い顔に、冷や汗。

そして微かに震えていた。

霞の言った通り、当たりだーそう夏目は確信した。


「自宅アパートのを捜索してた時より、動揺してんなあ。その戦利品て、斉田さん宅にあんだろ。」


友田が目をギュッと瞑り、夏目から顔を逸らした。


「二階だろうなあ…。やっぱり…。あんた以外、入んねえんだもんな…。」


夏目は、友田の表情を見ながら、ゆっくりと追い詰めながら聞いて行く。

しかし、二階も一課の協力を得て、そこら中ひっくり返して捜索しているが、未だにそれらしき物は発見されていない。

しかし、あれば恐らく、友田の犯行を決定付けられるものだろう。

それは、友田のこの動揺の仕方と、そしていくら夏目には通じないとはいえ、のらりくらりとする余裕すら無い事からも分かる。


夏目の携帯に、太宰からメッセージが入った。


ー流石幸田。二階浴室の配管引っぺがして、ルミノール反応と内臓らしき肉片を発見。


「二階の浴室から出たってよ。

ルミノール反応に肉片が。

あんたしか二階には上がってねえって証言もある。

ほらな。警視庁のマニア舐めてんじゃねえよ。」


友田は震え始め、両耳を覆った。

その手を乱暴に掴み、耳元に怒鳴る夏目。


「戦利品の物はなんだ。写真か!?」


「………。」


「データで保存してんだろ!。どこに隠した!」


友田は泣きそうな震える声でまたブツブツと言い始めた。


「見つからない…。絶対見つからないんだ…。」


「見つけるって言ったもんは、悉く、見つけてるぜ!?さっさと言った方がまだマシだ!」


「見つけられる訳無いんだああー!!!」




甘粕は夏目から送られて来たメッセージを読み、考えながら、斉田家の隣の工場に向かっていた。


ー見つけられる訳が無い所か…。夏目の予想通り、データ化して、USBかなんかの小さい物になってるんだろうな…。


「すみません。警視庁の者ですが。」


責任者に事情を話すと、暫くして、若い男性が出て来た。


「刑事さんのお話聞いて、こいつが妙な事言ってたの、思い出したんで、聞いてやって下さい。」


男性は言いづらそうに話し始めた。


「あの斉田さんちの隣の坂巻って人がすげえ煩いんで、出ちゃダメだって言われては居たんすけど、俺は、坂巻さんちじゃなくて、斉田さんちの柿の木見てたんすよ。

実家思い出して、懐かしくて。

最近実もなってるし、誰か手入れしてやってんのかなって、どうしても見たくなって、表で仕事してる時に、坂巻さんが出掛けたの見えたから、休憩時間にちょっと出たんすよ。

そしたら…。」


「うん。そしたら?」


「俺よりちょっと上かな?あそこで時々斉田さんの面倒見てる男が、木の根元になんか埋めてて…。

それが、なんかドロドロっとした赤いもんとか、白っぽいもんだったから、俺、なんかの死体埋めてんじゃねえかと思って、凄え怖くなって、工場長に言ったら、んな事ある訳ねえだろって言われて…。

まあ、確かに、あの人、買い物だ、掃除だ、庭の手入れだって、日中は凄え働きまくってるし人殺す暇なんか無えかなって考え直したんすけどね。

料理上手みてえだから、魚の内臓とかかなとか思ったりして…。」


「そんな小さい物だった?」


「ーいや…。でっかかったっす…。バケツ一杯にあったもん…。」


友田が内臓や骨を埋めていた裏は取れた。


問題は戦利品の、恐らくは犯行の様子を写したであろう写真だ。


ー見つからない場所…。


甘粕は考え込みながら太宰に報告した後、一緒に二階に上がった。


芥川がこの寒い季節なのに、大汗をかいて、家具の裏側など、家中ひっくり返して探してくれている。


「出すのにそんなに大変でなく、簡単に目につく、思いつく場所でもなく、関連性の全く無い場所で、見つけにくい…。」


甘粕は繰り返し呟きながら、押入れの天袋に目をやった。

そこには何も入っていない。

斉田老人の娘の物は、亡くなってから全て処分してしまったそうで、人を下宿させるのに、必要最低限の家具しか置かれていない。

それに、友田の背は低い。

椅子も踏み台も無い所で、天袋は使えない。

かといって、押入れは、既に芥川や他の捜査員がくまなくチェックしている。

甘粕は小さなキッチンに行った。

シンクの下の棚には全体に手を滑らせても何も無い。

隣の冷蔵庫はどうか。

そう言えば、こういう冷蔵庫というのは、シンクにしっかり固定されているものなのだろうか。

甘粕はそんな疑問を感じ、冷蔵庫を引っ張ってみた。

冷蔵庫はスルッと動いた。

そして、その冷蔵庫を出し、太宰は満面の笑みで甘粕の背中をバシンバシンと叩いた。


USBメモリが、冷蔵庫の裏にセロテープで貼り付けてある。

早速幸田にノートパソコンを借り、見てみると、目を背けたくなる大量の動画のオンパレードだった。

浴室に全裸で横たわっている少女からは大量の血液が流れだしている。

解体前の、血抜きという作業をしているのかもしれない。

ナイフを構えて、カメラに向かって笑う友田が少女の肉を狂気の笑顔で削り取って行く。


「嫌と言うほどの証拠品だ。お手柄だ、甘粕。」


「いや、今回は夏目の働きが1番でしょう。」


「だなあ…。天敵キャラだったとはいえ、ありゃ、夏目にしか出来ねえし、あれで随分追い詰められて口走ってくれたもんな。」


「はい。」


「ん。じゃ、戻ったら、沢山褒めてあげよう。」


映像を解析した所、本命16人の少女、全てが写っており、その全てに対して、友田が危害を加えている様子が写っていた。

又、幸田が執念で見つけた、配管から出た肉片は、本命でない、1番近い所での被害者である、井田智花のものである事が判明した。

柿の木とびわ木の下から見つかった骨は、被害者32人のDNAと全て一致。

こうして、友田は無事、少女誘拐、拉致、殺人、死体損壊容疑で送検出来た。








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