第5話…旅立ち
「いいかユーリ。角は出来る限り出すな。強い力は憧れとなるが、強過ぎる力は恐怖となる。忘れるな」
ユーリが森を出る日の朝。フミノフからそう言われた。
ユーリは黙ってそれに頷いた。自分自身でもこの力に恐怖したのだから他人ならどうか……。考えるまでもなかった。
「ここを出て西に行け。2日も歩けば森を抜けれるだぁ。そこから少し行けば港街があるだぁ。まずはそこでアークライト王国に行く船に乗るだぁ」
「アークライト王国?なぜその国なの?ヘリオット帝国はダメなの?」
「ヘリオット帝国は人種主義の国だぁ。お前も角を隠せば普人種で大丈夫だが、バレたら何されるかわからん。だから種族差別の無いアークライト王国が一番いいんだぁ」
「わかったよ父ちゃん」
「まぁそこからはお前の人生だぁ。どの国に行こうがお前の好きにしろ。がははは」
「ありがとう父ちゃん。まずはアークライト王国に行って頑張ってみるよ。それじゃあ父ちゃん行ってくる」
「おう。行ってこい!世界が嫌になったら帰って来い。俺はあと200年は生きるからいつでも帰って来ていいぞ」
「そんなすぐ帰って来ないよ。とりあえず頑張ってくるよ。んじゃ行ってきます父ちゃん」
ユーリは荷物の詰まったリュックを背負い、槍を持つと家を出た。残されたフミノフはユーリが見えなくなるまで見送ると、静かに涙をぬぐった。
「行って来い。息子よ」
* * *
ユーリは森を走り抜ける。歩き馴れた道とは違う方角のためユーリからしたら全てが新鮮だった。
家を出る不安や、父を一人にする不安。不安は有ったがそれ以上にワクワクが止まらない。
父から聞いた外の事。ある程度の常識や知識はしっかり教えられている。しかし、やっぱり見て感じたい。そうユーリは思っていた。
自然と足が早くなる。
近くを鹿が通った。
そこでユーリはハッとした。
「落ち着け……落ち着け……ふうぅぅぅ。よしっ!」
興奮して注意が散漫だった事で鹿に気付かなかった。これは森で生きていて危険な事だ。
常に狩る側であれ
これもフミノフの教え。ユーリはフミノフに今一度感謝し、気を引き締めて森を抜けていった。
森を出たのは次の日の昼過ぎだった。予定より早く出れたのでそのまま港街を目指す。山を背に海へと続く鋪装された道を歩く。
フミノフが辺境と言うだけあって道を歩く人はユーリ以外居ない。夕暮れ前には港街に着きたいと思うユーリは少し早足になった。
その甲斐もあり空が少し赤くなりだした頃に港街に着いた。
「うわぁぁぁぁぁぁ」
街の入口で立ち尽くし、自身の家とは違う大きな家や道を歩く人、人、人。
他の港街に比べたらかなり少ない人数なのだが、今までフミノフ以外の人間に会った事が無いユーリにはそれでも十分な人数だった。
『アークライト王国行きの最終便まもなく出港しま〜す。お乗りの方はお早めにお手続き下さい』
「はっ!……の、乗りま〜す」
ユーリは港街を走り抜けてギリギリ出港手続きに間に合った。