第4話
力が湧いてくる。
身体の怠さが抜けてからユーリの身体は劇的に変わった。とはいえ見た目の変化は角と目と爪の三ヶ所で他の変化は少ない。
一番の変化は力である。コップを握れば潰れ、ドアも押せば壊れる。フミノフは頭を抱え、ユーリも日に日に強くなる力に恐怖した。
この力がいつか父を傷付けてしまうかもと思い、距離を取るようになっていた。しかし、そんなある日。
「ユーリ。力の制御を覚えてみてはどうだぁ」
「……力の制御?」
「そうだぁ。お前は力を恐れている。力は使う物だぁ。俺の薬だって使い方を間違えれば毒になる。しかし、正しく制御してやれば心強い薬となり助けてくれるだぁ。お前が俺を助けてくれたようにな」
そう言うとフミノフは頭をガシガシと撫でた。
「……でも、どうすればいいか僕……わからないよ」
「それは俺にもわからん。がははは。けど焦る必要は有るのか?ゆっくりでいいんだぁ、勉強と一緒だぁ。積み重ねだ積み重ね」
「……うん。僕……頑張るよ父ちゃん!」
久しぶりにユーリは笑顔になり小屋に笑い声が響いた。
「う゛ぅぅぅぅ」
「ユーリもう少し力抜け」
「気持ちを落ち着かせろ」
「……………」
再び白い空間にユーリは来ていた。
「あなたは力をどうやって制御してるんですか?」
「…………」
三本角の男に近付き、話し掛けるが男は黙ったままユーリを見下ろしていた。ユーリも返事はあまり期待していなかったので落ち込む事は無かった。聞いたのも同じ角を持っているからだった。
ユーリは男から少し離れてゆっくりと身体を動かし始めた。流れるような動きは力の制御を覚えるのにフミノフと一緒に考えたものだ。
ふっと男に目をやると男の角は無くなっており、瞳は黒くなっていた気がした。
そこでユーリは目を覚ました。
「ふあぁぁぁぁ。おはよう父ちゃん」
「おう。おはようユーリ」
いつも通りの朝。12歳となったユーリは力の上昇にも落ち着き制御も少しだが出来るようになっていた。とはいえコップやドアを壊さないようになっただけで、気を抜けばまた壊してしまう。
ユーリはいつもの制御の訓練を終えて、一人で森の中に来ていた。夢に居る男のように角をどうにかすれば元に戻る。又は制御出来るのではと思ったからだ。
最初は角を抜こうとしたが抜ける気配すら無かった。切るにも角は鉄よりも硬く刃が折れてしまった。
「う〜〜〜〜ん。意識して引っ込めれないかな?」
角を触りながら考えるユーリ。それからは角に意識をして動かす訓練もするようになった。
結果が出たのは1年後だった。
毎日の訓練で角を自在に出し入れ出来るようになっていた。
角を仕舞っている時は瞳は黒に戻り、爪も白く普通の柔らかさになっていた。身体能力も大分下がり、大人のドワーフと同じぐらいになっていた。これは人間の大人の2倍ぐらいの力だった。フミノフに比べたら少し弱いぐらいで出し入れ出来るようになってからは常に仕舞っている。
それからの訓練は少し変わり、角有り状態での訓練と角無しでの訓練の2種類をするようになった。
角を出せば本来の力を出せ、いざというとき大切なものを守る力となる。しかし、それは制御出来ればであって、制御を間違えれば逆に壊してしまう。それがユーリは怖かっからだ。
月日が経つのは早いもので2年が過ぎた。
15歳の誕生日の日、フミノフは向かい側に座るユーリにある事を告げた。
「ユーリ。お前も15歳になっただぁ。街では15歳で大人とされとる、お前ももう一人前だぁ。外に興味が有るのは知っとったが、いい機会だぁ。ここを出てお前はお前の人生を生きるだぁ」
ユーリが森を出たのはこれから2日後の事だった。