第3話
走り出したユーリ。
ユーリは今までに無いスピードで熊に体当たりを食らわせた。
「ガアッ!」
熊は後ろ倒れ、槍が深く刺さり握りは途中で折れた。
「はあ……はあ……はあ」
ユーリの息は荒い。目付きは鋭くいまだに熊から目を離さない。ギュッと強く握られた拳から血が流れる。
熊が起き上がろうと動くが、その前にユーリは熊の目の前に凄いスピードで近付き拳を熊の顔面へ叩き込む。
ボキボキと骨が折れる音がはっきりと発せられた。ユーリはそれを気にした様子も無く、次は左の拳を叩き込む。
数秒の出来事だったがフミノフには長い時間にも感じた。
熊の頭は既に原形を留めていなかったが、ユーリの拳が止まる事は無かった。
「や、やめるだユーリ。もういいだよ」
フミノフはユーリに近付きながら声を掛けた。するとユーリの動きがピタリと止まる。
ゆっくりと振り返るユーリの顔にフミノフは初めてユーリに恐怖を感じた。
黒髪の隙間から深紅に染まった瞳がフミノフを射抜く。
ギュッ
「大丈夫だぁ。もう大丈夫だから。ありがとうユーリ。助けてくれで、ありがとう」
フミノフはユーリをギュッと抱き締めて優しく語りかける。
ユーリは徐々に目を閉じていき、完全に目が閉じると眠ってしまった。
「……………ユーリ」
フミノフは腕の中で眠ったユーリを優しく抱き上げ家路についた。
真っ白な空間にユーリは一人立っていた。
「父ちゃん。父ちゃんどこにいるの!!父ちゃ〜〜ん」
声を上げるが返事はない。
「………父ちゃん」
うな垂れるユーリは気配を感じそちらに目を向ける。するとそこには知らない男が立っていた。
腰まで伸びた黒髪を一纏めにしており、額には角が3本生えていた。そして深紅の瞳は強さを感じさせた。
身長は高く2mはあるだろう。鍛えぬかれた筋肉は美しくもあった。
「あなたは……誰ですか?」
ユーリの問いに男は答えない。黙ってユーリを見下ろすだけだった。
「……………うん」
「起きたかユーリ」
ユーリが目を覚ましたのはあれから2日後だった。
ユーリが始めに感じたのは身体の怠さだった。体重が倍になったのではないかという程の重さを感じた。
「調子はどうだぁ?」
「…少し怠いかな。父ちゃんは大丈夫?」
「がははは、お前のおかげでこの通りだぁ。ありがとうな」
フミノフは服を少しめくり古傷のようになっている傷を見せた。フミノフ特製の薬の効果なのはユーリもよく知っていた。
「良かった。父ちゃんが生ぎででよがっだぁぁぁぁ」
ユーリは泣き出してしまった。それを見たフミノフは泣き止むまで優しく頭を撫で続けた。
「所でユーリよぉ。お前目どうしたんだ?」
「目?」
ユーリは首を傾げる。ユーリ自身、目に違和感は特に無かったからだ。
「なんだぁ、自覚は無いのか。ほら、鏡だ見てみろ」
ユーリはフミノフから鏡を受け取り、顔を見た。するとユーリは驚いた。黒色だった瞳は深紅とも呼べる色に染まっており、僅ながら角も伸びていた。更に、鏡を握った爪も黒く鋭くなっていた。
「…………」
ユーリは声が出なかった。