第2話
「おっおぉぉ。なんでぇ泣いてるだぁ!!腹へったか?肉食うか?」
赤子を森の中で拾ったドワーフのフミノフは家である小屋に連れて帰ってきた。しかし、赤子は泣き出し子育ての経験の無いフミノフはあたふたしていた。
「ど、どうしたらいいだぁぁぁ」
フミノフの子育てはこうして始まったのだった。
「おぉぉぉ!!なんか頭に生えとる!!病気か?」
「山羊の乳は旨いか。もっと飲んで早く大きくなるんだで!!………うわ!吐いた!!病気か!?あ、これ酒だわ。がははは」
「おおぉぉ!立ったぁ!!ユーリが立った!!」
◇◇◇10年後◇◇◇
「父ちゃん。鹿捕ってきたよ」
順調に育ったユーリは フミノフを父と呼んでいた。左の額にあった角も伸び、黒髪の前髪を掻き分け白い角が少し出ている。フミノフに無い角を気にしていたが…
「がははは。気にしすんな。お前は俺の息子だってのは変わらん」
フミノフはそう言うだけだったのでユーリは聞くのをやめた。
「おおぉぉ。おかえりユーリ。いつも通り処理を頼んだぞ」
「うん。わかってるよ」
ユーリはフミノフに様々な事を教わった。言葉から文字の読み書き。狩の仕方や戦い方、そして森の外の事。
ユーリは物覚えが良かった為、フミノフは嬉々として教えた。しかし、フミノフはある大切な事を教えていなかったのに気付くのはかなり後の事。
「父ちゃん。今日は何作ってるの?」
「今日はなぁ、解毒薬だ。毒キノコとか毒蛇に噛まれた時に使う薬だ」
「スゴいよ父ちゃん!!そんな薬も作れるのか!!」
フミノフはドワーフ特有の手先の器用さを活かし、薬を作っている。この森は辺境にあり、薬になる薬草が多く群生しているのでこの森に住を構えた。極度の人見知りからという事はユーリには内緒にしている。
数年に一度森を出て近くの村に薬を売りにも行っているが、数人以外はまともに話せないでいる。
「父ちゃん!!教えて!!」
ユーリは目を大きくしてフミノフにお願いした。
「がははは。わかったわかった。それじゃあ薬草を採りに行くぞ」
フミノフは立ち上がり、ドアの横に立て掛けてある太い槍を握り外へ出た。それにユーリも付いて行く。隣に立て掛けてあった自分の槍を持って。
「これが解毒薬の大本となる草のヒリルク草だぁ。紫色の茎と赤い葉が特長だぁ。普通は毒を作るのに使う草だぁ」
フミノフは一束の草をユーリに見せて教える。そして次々と草やキノコを採取してユーリに特長などを教えていった。
「ユーリ動くな」
「…………熊だね」
ユーリはスーーと音を立てないようにしゃがみ気配を消す。フミノフもしゃがむと目を細め、槍を握る手に力を入れた。
数分の静寂。
「……………ふん!」
フミノフは近付いて来た熊に向けて槍を力一杯に投げつけた。
「グアァァァァ!!」
「……ちっ!浅かったか。ユーリそのまま隠れでろ。あいつの相手はまだ早いだぁぁぁ」
フミノフはそう言うと熊に向かって飛び出した。
フミノフはドワーフである為、身長は高く無い。せいぜい150cmぐらいだ。そして熊は2m弱あった。
ユーリはフミノフと熊の戦いを隠れて見ていた。手負いの熊は強かった。素手のフミノフはどうにか熊の背中に刺さる槍を抜こうとするがなかなか隙が無い。
熊の爪を避け続けるが俊敏性に欠けるフミノフは徐々に血を流し始めた。
「ガアァァァァ」
「うっがはぁ!」
熊の強烈な一撃がフミノフの胸に突き刺さる。
「父ちゃぁぁぁぁぁぁん!!!!」
ユーリは飛び出した。普段は黒い瞳を真っ赤に染めて。