第1話…プロローグ
「ごめんなさい………本当にごめんなさい」
月明かりに照された森で、布に包まれた赤ちゃんを抱えた女性は泣きながら何度も何度も赤ちゃんに向かって謝っていた。
「生きて。………生きてさえいてくれたらそれだけでいいの。あなたを守れない母を恨んでもいいわ」
涙を拭った女性はゆっくりと赤子の額に手を当て、そこにある小さな角を根本から引き抜いた。
右の額から血が流れる赤子は痛みから大きな声で泣き出した。女性は張り裂けそうな心を抑えながら傷の手当てをする。
手当てを終えて赤子の額にキスをする。
「……さようなら。私の可愛い息子」
女性はぎゅっと抱き締めると自分の首から首飾りを外し赤子の首に掛けた。
鬼神の角
女性の首飾りはそれを材料に作られていた。女性と赤子は鬼人の一族で女性はその長の娘であった。娘の結婚祝いに長から貰った物だった。
「鬼神様の加護がありますように…」
最後に祈りを捧げ、紙を取り出し地面に広げた。その紙には複雑な模様が描かれており、女性がその中央に血を付けた。
すると模様が光輝く。
「我が神よ。願いを聞き届けよ」
『…………なんだ?』
どこからか声がしてきた。
「感謝します。願いはこの子を私達の手の届かない場所に連れて行って欲しいという事です」
『………双子の忌み子か』
「はい。…双子の兄弟は不吉の象徴と言われ、片方は殺すのが掟です。ですが、私はこの子に死んで欲しくありません。なので……私達の手の届かない場所に……」
『……偽善だな』
「…はい。わかっています」
『だが……私は嫌いではない。お前の願い聞き届けた。対価は、《今後お前は子を成す事は出来ない》だ』
「わかりました。それでこの子が助かるなら」
『………助かるかはわからないぞ。ただ鬼のいない世界へ送るだけだ。保証は出来ない』
「わかりました。この子は強い子です。私は母として信じるまでです」
『……母は強いな。では送………そうだ。この子の名前はなんだ?送る世界でもその名前になるようにするぞ』
「名前は…………悠里。悠里です」
『悠里か、良い名だ。では送ろう!対価を糧に我が友の神が作りし世界へ』
光が一層強くなる。
「生きて…悠里」
光が収まるとそこに居た赤子は消えていた。
『……願いは叶えた。もう一人の子を大切にするのだぞ』
そう言うと紙は光を無くした。
「ありがとうございました」
女性は頭を下げ、抜いた赤子の角を大事に握り締めて里に戻った。
「戻ったか。赤子は始末したか」
里では白髪の年老いた男性が待っていた。
「はい。これが証拠の角です」
女性は赤子の角を取り出し見せる。
「うむ。確かに赤子の角だ。御苦労だった、もう家に戻ってよい」
それだけ告げると老人はその場を後にした。
残された女性は角を持ったまま家に戻り、それで新たな首飾りを作り首に掛けた。女性は生涯付け続け、墓までこの首飾りを持って行ったという。
◇◇とある森の中◇◇
「なんでぇこんな所に赤ん坊が居るんだ!!」
一人のドワーフが赤子と出会った。