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岩な神様  作者: アマラ
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 山中の道沿いに、一つの岩があった。

 木々の根が絡み突き出したそれは、ときに人や獣が雨宿りする事も有るほど大きなものだ。

 旅をするものの中には、その姿に神聖を見出し、手を合わせるものも居た。

 ただ静かに鎮座していただけの岩は、拝まれるうち本当に神聖を帯びるようになる。

 植物が多く、生気の濃い土地だったからであろうか。

 はたまた、主である動物のいない土地であったからだろうか。

 岩は何時しか、そのアタリを治める神聖となって行く。

 ただの岩だったものが、所謂「神」と呼ばれるものになり、長い月日が流れる。

 何時しか人は、岩の近くに集落を作るようになっていた。

 家をつくり、畑を耕し、獣を狩る。

 それまであまり変化の無い世界にいた岩にとって、人の暮らしはあまりに早すぎるものであった。

 驚くほどの速さで変化していく人間達を、岩はいつの間にか興味を持って見守るようになる。

 そんなこととは知ってか知らずか。

 里の人間達は、岩を「おいわさま」と呼び、朝晩と拝んでいた。

 毎日のように拝まれ、岩も知らず知らずのうちに力をましていく。

 何時しか岩は人の姿を真似た化身を作るようになり、里の近くへと足を伸ばすようになっていた。

 だが、「神」である岩の姿を見ることが出来るものは、誰もいなかった。

 そう。

 その日までは。




「おっちゃま、はだかんぼーだ」


 小さな子供にそういわれ、岩はゆっくりとそちらに顔を向けた。

 しばし観察した後、片手を振ってみせる。

 子供はふしぎそうな顔をしながらも、ぶんぶんと手を振り替えした。

 これは困った、と、岩は思った。

 どうやらこの子供は、自分のことが見えるらしい。

 もしかしたら、神を見る才のある物なのかもしれない。

 流の神に聞いたところでは、巫女とかいうのがそういう力が有るのだとか。


「おっちゃま、からだ、すけてます。しんでるんですか」


 どうやら子供は、岩を幽霊か何かかと思ったらしい。


「いや。私はあそこにある、岩だ」


「おいわさま、ですか」


「そう呼ばれている」


 普通ならば信じられないところなのだろうが、子供はそれで納得したらしい。

 感心した様子で、しきりに頷いている。

 そして、岩の身体をじっくりと見回し、再びふしぎそうな顔を作った。


「おっちゃま、ついてないです。おっちゃまじゃなくて、おばちゃですか」


 岩の身体には、男を示す特徴も、女を示す特徴もなかった。

 人の顔はしているが、男とも女とも取れない形をしている。

 岩にしてみれば、歩いてなにかに触れるのに都合がいいから人の形をしているだけであって、性別など意味をなさないのだ。


「男でも女でもない」


「そしたら、おべべはどっちのをきるんですか」


「服か。着なければならんのだろうか」


「ふくをきないと、かかさまにおこられます」


 真剣な顔で子供に言われ、岩はにわかに悩んだ。

 着なければならない理由は、とくにない。

 だが、着てはいけない理由も、とくにない。

 折角、初めて人間と話したのだ。

 その人間が着ろというのだから、着てみても良いではないか。


「そうか。分かった」


 岩は以前はなしたことがある、「ながれ」の「神」の衣服を思い出し、自分の姿に重ねてみた。

 何もきていなかった岩の身体を瞬く間に布が覆い、白装束姿へと変わっていく。

 それを見た子供が、きゃっきゃと両手を打ちながら騒いだ。


「おっちゃま、すごいです! すごい! ようじゅつですか!」


「恐らく、似た様なものだろう」


 何が楽しいのか、岩にはよくわからない。

 ただ、子供は実に楽しそうな様子であったので、なぜか岩も少しだけ心が柔らかくなるような感覚を覚えた。




 これが、しばらくのときを共に過ごすことになる一柱と一人の出会いであった。


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