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二章 碕沢隊の戦い(7)




 碕沢によって、縦横無尽に振るわれる綺紐は、オーガにとって目に見えぬ恐怖というよりなかった。

 いつどこから攻撃がくるのか分からないのだ。

 まるで防ぎようのない災害である。

 かわすこともままならいし、ろくに近づくことすらできない。

 何とか前進し、距離をつめようとしても、風のようにさらり退かれ、逆に後退しようとすれば、波のように圧力をかけて押し寄せてくる。

 オーガ・バロンも討たれ、指揮官のいないオーガ部隊は個々の判断のみで戦うしかなかった。

 彼らは蟻地獄にはまっていた。

 碕沢は目の前の戦いに集中している。

 オーガ部隊のもろさにも気づいていた。

 それはオーガ・ヴァイカウントが近くにはいないということを示している。

 後方にいたのだろう。

 実際のところオーガ部隊の半数を叩けたとしても、まだ数の上では碕沢隊のほうが劣勢である。

 オーガ・ヴァイカウントは冷静にそれを見極めているだろうか?

 それとも勝勢の勢いを見せる碕沢隊には勝てないと判断し、勝利を早々に諦め撤退するか。

 いずれにせよ、後方を襲撃している兵士たちに任せるしかない。

 そして、碕沢は彼らなら充分にその役割を果たせると考えていた。

 碕沢は一体一体オーガを斃していく。

 逃さぬよう確実に仕留める。

 後の戦いで少しでも有利になるように……。


 碕沢は、第三軍団との戦いで生き残っているオーガの総数を多くとも四千程度だと見通している。

 実際は、二、三千にも満たないのではないか。

 すぐに追撃できる数はさらに知れているだろう。

 キングが来るとなると、別だが……。

 第三軍団も自分たちの同数程度の被害をオーガに与えているだろうと碕沢は考えているのだ。

 だからこそ、確実にオーガを仕留めることを優先した。


 碕沢は思い込みによって行動していた。

 客観的ではなく、自らを基準として考えるという、生き者にとって自然な行為をおこなっていた。

 それは指揮官としても戦士としても致命的になりかねない過ちであった。


 戦場では、優勢の判定が前方と後方で冗談のように正反対になっている。

 一兵士として戦うことを選択した碕沢に全体像を見ることはかなわなかったのである。



 碕沢隊本隊が崩れそうになっていた時、後方から援軍が現れた。

 冴南が指示して向かわせた部隊である。

 だが、数が少ない。

 盛り返したのは、わずかな間だった。

 冴南の弓矢と、遅れてエルドティーナも攻撃を加えたが、後方での戦いの趨勢を変更するまでには至らなかった。

 碕沢隊本隊はついに喰い破られ、なだれ込むようにオーガ部隊が穴をひろげていった。

 すでに押しとどめる術はなく、碕沢隊の陣列はぱっくりと二つに割れた。

 中央で踏んばろうとした者たちは斬撃に倒れ、その遺体はオーガの巨体に踏み荒らされることになった。

 オーガたちは森へと走り去っていく。


 碕沢隊はオーガの逃走を許した。

 その後、追撃が行われ多少オーガに被害を与えたが、それはごく短い時間だった。

 碕沢がすぐに中止の命令を出したのだ。

 オーガ・ヴァイカウントはとっくに退却しており、あまり深追いしすぎると、逆に反撃にあいかねない。

 碕沢やサクラはいいが、兵士たちはすでに限界に達していた。

 追撃は無謀な行為でしかなかった。


 碕沢隊の連戦は終わった。

 撃退したという事実を見れば、勝利に終わったと言えるだろう。

 だが、碕沢隊の被害に目を向ければ、隊長である碕沢は勝利を喜ぶことなどできなかった。

 三十人に近い死者をだし、残りも全員が重軽傷者になっていた。

 ちなみに軽傷で済んだのは、最後の追撃に加わったエルドティーナの指揮していた部隊のみである。

 碕沢隊は一日にして戦闘力を失ってしまったのだ。


 碕沢はサクラに偵察を指示した。

 近くにオーガの大部隊はなく、また、撃退したオーガ部隊も周辺にとどまることなく、大きく退いたことが確認された。

 碕沢は死者を集め、エルドティーナに火葬してもらった。

 エルドティーナの術力もほとんどなく完全に燃焼させることはできなかったが、魔物に食い荒らされることはないだろう。

 碕沢はギルトハートから教えられたポイントに向かって移動を始めた。

 行軍速度は、負傷者がいるためにひどく遅いものとなった。

 だが、碕沢隊が襲撃を受けることはなかった。









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