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二章 ギルトハート大隊の戦い(11)




 ――第四軍団の援軍が訪れる約束の期日まで、あと一日。


 退却から数えて六日目。

 中天を太陽が越えた頃、オーガの再攻撃が始まった。

 前日までと勢いが違う――むろん、これは先の攻撃が緩かったということを意味しない。

 全軍をあげての攻撃であり、オーガがギルトハート大隊の陣地を蹂躙するつもりであることが見てとれた。

 オーガの攻撃が分厚さを増していた。


 一方、それに対するギルトハート大隊の戦力には衰えが見られた。

 サクラという個人が戦いから脱落している。

 それ一つをとっても戦力は大幅に落ちていた。


 また、碕沢の活躍も早朝に見られた超人のようなものではなくなっている。

 ただし、大隊長の命を受けて、大隊に生じる穴を埋めるように合理的な働きを彼はしていた――老将バラッグと似た動きである。

 理にかなっているが、兵士の指揮を鼓舞するものではなかったということでだ。

 ギルトハート大隊の戦力は実力以上のものから、もとからそなわっていた実力を発揮するという状況に変化していた。

 それはギルトハートが想定していた戦いになったということでもある。


 夜になり、オーガの攻撃がやんだ――散発的な夜襲は行われた。

 六日目のオーガの攻撃をギルトハート大隊は犠牲をだしながらも何とか防ぎきったのだ。

 第一防衛線の維持もできていた。

 だが、矢を始めたとした投擲道具は底をつきつつあった。

 また、直接戦闘も各所に生じており、負傷者が続出している。

 現状、武具も兵士も補充することはできない。

 減少した戦力のまま次の戦いに挑まなくてはならなかった。

 オーガにも大きな損害を与えている。

 本来ならば、オーガの死体を空堀から処理しなくてはならないのだが、その重労働にあてる人員がいなかった。

 兵士は休息を欲していたのだ。

 ギルトハートは結局オーガの死体の処理を命じることをしなかった。

 第四軍団の援軍まで後一日である。

 ギルトハートは第二防衛線――最終ラインまで退けば、ぎりぎり耐えることができると読んでいた。

 そして、彼の読みは半分当たることになる。

 彼の読みが当たったことは、彼の有能を示すものだった。

 また、彼の読みが外れたことは、決して彼の無能を示すものではない。



 七日目の朝。

 第四軍団の援軍はまだ到着しない。

 周囲をかこむオーガの数は間違いなく減っている。

 それでもなお、ギルトハート大隊を圧倒しているのもまた間違いのない事実だった。


 オーガの総攻撃が始まった。

 昼前に、ギルトハート大隊は第一防衛線を破棄して、丘の上部にある第二防衛線にまで撤退した。

 第一防衛線と同じように濠と木の柵がそこには用意されている。

 だが、大きな違いもあった。

 投擲武器がないのだ。

 戦える兵士も減っている。

 濠と柵、さらに防御する場所が減ったことを利用して、ギルトハート大隊は粘り強く戦いを続けることになった。



 碕沢と冴南、さらにエルドティーナ、バラッグ、また大隊長自らの活躍もあり、ギルトハート大隊は七日目もオーガの総攻撃を耐えぬいた。

 補充されたベテラン兵が支柱となって戦線を何とか支え切ったのだ。


 オーガは夜通し攻撃を続行することをしなかった。

 散発的な夜襲さえもなかった。

 理由は分からない。

 魔人にも体力の限界があるということだろうか。

 いずれにせよ、夜襲を受けないという事実はギルトハート大隊にとって非常にありがたいことであった。

 なぜなら、すでにぼろぼろであったからだ。

 日暮れが後一時間遅ければ、戦線は破綻していたかもしれない。

 それほどの損害を今日の戦いでギルトハート大隊はだしていたのだ。


 ギルトハート大隊ではある懸念がもたれていた。

 第四軍団の援軍の遅れだ。

 本来ならば到着していなければならない。

 到着の遅れにより、ギルトハート大隊は損害を大きくしていた。


 第四軍団はすでに着陣しており、翌朝オーガの背後から攻撃をしかけるのではないか、との予測がギルトハートの副官などからでていた。

 懸念しておきながらの楽観である。

 楽観がなければ、厳しくなるばかりの戦いと向き合うことができないのだ。


 楽観による計画は進む。

 残念ながらオーガによって包囲網を築かれているために、ギルトハート大隊と第四軍団は連絡がとれないという状況である。

 明日には、第四軍団の攻撃が始まるはずだ。

 だとしたら、オーガに乱れが生じた時に、ギルトハート大隊も討って出なければならない。

 挟撃をするのだ。


 だが、そのような余力がギルトハート大隊にはない。

 ギルトハート大隊の加勢が無くても第四軍団が苦戦することはないだろう。

 数で圧倒しているし、戦力も充分に整っているのだ。

 だからといって、友軍の勝利を指をくわえて見ているだけというのは、どうにも納得のいくものではない。

 新たに突撃部隊を編成して、攻撃に加わるべきではないか、などという意見まで出ていた。


 七日目を戦い抜いたことで、ギルトハート大隊の幹部には妙な躁状態が見られた。

 第四軍団からの伝令で七日目に到着するとあったという事実を彼らは絶対のものとして捉えている。

 そう考えるしかなかったのだ。

 第四軍団が何らかの理由で大きく遅れているとなったら、彼らは全滅するしかないのだから……。


 ギルトハートは何も言わなかった。

 彼はただ思索にふけっていた。

 楽観どおりであるのならいい。

 だが、現実が異なる道を歩むというのなら……。



 八日目、太陽が夜を完全に撤退させた時間帯。

 ギルトハート大隊の陣地からは周囲が一望できた。

 援軍がついに到着した。

 多くの影が周囲を覆い尽くしている。

 それはギルトハート大隊に歓喜ではなく、絶望をもたらすものであった。

 なぜなら、援軍はギルトハート大隊ではなく、オーガのものであったからだ。

 数千を超すオーガが丘をぐるりと囲んでいた。

 ギルトハート大隊の兵士たちはただ呆然とそれを見つめていた。

 彼らは死と直面していた。









 二章は終わりです。

 次の更新までしばらく間が空きます。

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