必殺技(紅葉視点)
包帯が巻かれた右足がズキズキと疼く。紅葉はそれを我慢して練習を続ける。
ルナの厳しい視線が感じられる。
ルナから鎖鎌を貰った日から約二週間・・・・・紅葉は寝る間も惜しんで練習に励んだ。
ルナは鬼のようで少しでもヘマをすると怒られた。そしてルナの予想通り、右足に鎌があたり紅葉は痛い思いをした。だが怪我するのを怖がっていてはダメだと紅葉は分かっていた。ルナはやる気がないと
分かると何処から持って来るのか拷問道具を出してきて、どれを使って欲しいか、と聞くのだ。物凄い笑顔で。
鎖鎌は紅葉にピッタリ合っているとルナが言っていたが、まさにその通りだと紅葉もここ最近実感していた。ルナの使うような恐ろしくデカイ鎌は怖くて使えない。かと言って小さい鎌ではやる気さえもわかない、鎖鎌はその中間で一番使いやすい。
「ヒュン!・・・・・ヒュン!」
鎖を振り回すと二つの鎌が空気を切り裂く。その音は紅葉はスッカリ聞き慣れている音だった。
「・・・・疲れました~・・・・」
紅葉はグッタリと床に倒れ込む。
この日も休まず特訓を続け、今は夕焼けが辺りをオレンジに染めている。
ルナは必ず夕方になると屋敷に帰って行く。紅葉はその事を不思議に思っていた。しかし聞くタイミングも無い。紅葉はゴロンと寝返りをうち天井を見上げ、
(明日こそ質問してやります・・・・・!)
と、どうでもいいやる気を出す。このやる気をぜひ鎖鎌の特訓にも活かして欲しいものだ。
その時、音も無く雷蛇が姿を現した。
「わっ!」
紅葉は驚いて声を上げ上半身を起こした。
「ビ、ビックリしました~・・・・」
「そんなに、驚く事か?」
雷蛇は小さく首を傾げる。
紅葉はコクコクと頷いた。
「そうか、悪い事をしたな。」
雷蛇は苦笑し軽く謝罪する。
「そうですよ~・・・・今度からはいきなり現れないで下さい~・・」
紅葉もそう言いながらも笑ってしまう。
紅葉は雷蛇を憂羅以上に慕っていた。紅葉は、憂羅よりこの蛇の妖怪の方が正直好きだったのだ。少々気難しい所はあるが、根は優しい。いつも紅葉の事を気遣ってくれるし、何より嫌味や文句を言わない。紅葉はそんな所を慕っていた。
「どうだ?特訓の方は?」
雷蛇は質問を投げかける。
「え~と~・・・・使うのは怖くなくなったし、完璧に操れるんですけど~・・・」
「けど?」
雷蛇は紅葉の歯切れの悪い言い方に眉を寄せる。
「はい~・・・・・・実は~・・・・必殺技が完成しなくて~・・・・」
紅葉はえへへと笑う。
雷蛇は顎に指をあて考える。
「必殺技か・・・・・。ふむ・・・・確かにそれがあれば、戦いを有利に進められるだろうな。」
「はい~・・・・。ルナさんもそう言って教えてくれてるんです~・・・・。でも~・・中々出来なくて~・・・・・」
紅葉は俯きため息を漏らした。
「ルナさんが~・・・この頃イライラしてるんです~・・・・。きっと私が上手く出来ないからだと思います~・・・・」
「いや、違うだろう。」
雷蛇は紅葉の言葉を否定した。
「何でですかっ!?」
紅葉は勢い良く顔を上げ聞き返す。
「メイドがイラついているのは炎孤のせいだろう。」
「あのナルシ狐ですか~?」
紅葉は少し目を丸くする。
炎孤はたまに波莢神社に雷蛇に戦いを挑みに来る事がある。「今日こそは君を倒してみせる!」と、カッコイイ事を言いながら、いつも雷蛇に5秒で片付けられている。
前に魔奈里が面白半分で、油揚げを外に投げたら取りに行くか試した事があった。予想通り炎孤は魔奈里が投げた油揚げを物凄い勢いで追いかけて行き、爆笑された。それを聞いた鏡水もルナも笑い転げていた。その時から炎孤は「間抜け狐」「アホ狐」などのあだ名を付けられる事になったのだ。
憂羅はそれを聞くと笑わず「呆れた」と言っただけだった。憂羅は滅多な事では笑わないし、いつも何を考えているのか分からない。紅葉は憂羅をそういう人物だと思っていた。
「メイドは炎孤が気に入らないんだ。タダでさえ鬱陶しいのに最近はますます面倒になってきているみたいだからな。」
「そうなんですか~・・・・」
紅葉はほっとした。
(私にイラついてるワケじゃないんですね。・・・良かった~・・・・)
そう思いつつも、自分が必殺技を使えないのもルナを悩ませている理由の一つなのではと考えると紅葉の心は重くなった。
「うう・・・・雷蛇さん~・・・・私、ずぅっと必殺技が出来なかったらどうしましょ~・・・・」
紅葉はつい弱音を吐いてしまう。雷蛇は静かに言った。
「一生必殺技が出来ないなんて有り得ない。いつかは使えるようになる。」
「いつかって~・・・・いつですか~・・・・」
「それは貴様の努力次第だ。」
雷蛇の冷たい言葉に紅葉はションボリする。
「雷蛇さんは~、いつ使えるようになりましたか~?」
「何がだ。」
「必殺技ですよ~」
紅葉は雷蛇を見上げた。その瞳は少し潤んでいる。
雷蛇はそんな紅葉を見て小さくため息を漏らした。
「聞きたいか。」
「はいっ!とっても!」
紅葉は雷蛇に期待の目を向けた。
雷蛇は迷っていたが、紅葉の期待の視線に負けて畳みの上に座った。
「退屈になったら言え。すぐに止める。」
雷蛇はそう紅葉に念を押し、話し出した。懐かしき昔を。