第61話 デウス・エクス・マキナ
角を曲がった瞬間、兵士風の男達の、左側の男の首から血が噴き出した。声を出す暇もなく、驚いたような、理解できていないような、何とも形容し難い顔で崩れ落ちる仲間に声をかける事も叶わず、もう1人の男は口を抑えられ首にナイフを突きつけられた。
「大声を出さず俺の質問に答えろ。ファームってなんだ?」
誰が発したかも分からない声に戸惑い、地面に染み込みきらなかった血で自分のまわりに血溜りをつくりながら次第に色を失っていく仲間を目だけで見つめながら辟易している男の目の前に、仲間の命を刈り取った鋭利な日本刀がつきつけられた。鋭い切れ味のせいか、血はそれほど付着していない。
「……お前達は誰
「もう一度言う、ファームってなんだ?」
少し緩められた手の隙間からかろうじて出した声は冷たい、小さな声で遮られた。
「後5秒だけ待つ。」
「待ってくれ、俺は新米で何も知らないんだ!!」
男は小さな震えた声で自分が何も知らないと主張する。
「3…2…1…、」
男の言葉を無視して進んだカウントダウン、数が少なくなるにつれて首に当てられたナイフが皮膚を押し、切っ先と接する部分から一筋の血が流れた。
恐怖心に支配された男は目を堅く閉じて歯を食いしばった。
「0。」
カウントダウンが終わった、と同時に首からナイフが離れ男の太股を深々と突き刺した。
「がぁっ!?」
「5、4、3……」
情報を聞き出すまで殺すわけにはいかない。しかし主導権を相手に渡すわけにはいかない。その為、アルがとった『最良』の選択。
「待て!待ってくれ!!話す、話すから止め――ぐッ!?」
「声は小さく。じゃなかったか?新米テロリスト」
アルは
「話す」と言った男に深々と刺さったナイフの柄を掴んで左右に動かした。
「分かった、分かったから止めてくれ!!………地下では…『ファーム』では『デウス・エクス・マキナ』を育てている。俺が知っているのはそれだけだ!本当だ嘘じゃない!」
「ありがとうございます。ごめんなさい。次はきっと、幸せになって下さい。ごめんなさい、さようなら。」
「……え!?」
男が人生の最後に発した言葉は単語でも何でもない、自分の状況を理解しきれない男の喉から反射的に出たただの音だった。首から血を吹き出して倒れる男を、アルとハルはただ、見つめていた。