第59話 行こう。
走り始めて数分、2人は木の残っているギリギリまで近づいた。木の上に登り、アルは双眼鏡を取り出して遠くを、ハルは近くを見て敵の存在を確認する。
その時、建物の近くの塹壕の土が少し盛り上がり、そして開いた。
「…うわ!地下から出てきた!?」
アルが双眼鏡を覗きながら小声で驚き、同時に無線機のスイッチを押して状況を説明する。
「敵を視認。人数4人、建物から約5mの位置、塹壕には普通地下から入るのか…巡回し始めた。…塹壕は所々繋がってる。建物からの監視は無し。以上。」
「了解。こっちも確認した。狙いつけとくから安心して」
「私たちはもうすぐ潜入出来るから連絡待ってて、通信終わり」
アルは通信を終えた無線機から手を離し小さく溜め息をついた。
「…俺達も行くしか無いか…いい?ハル君」
「はい!行きましょう!」
アルが敵の存在を確認して一番近い塹壕まで走り、飛び込んだ。
「うわ!?思ったより深いな…ハル君、大丈夫だった?」
「はい、けど…上の様子は分かりません……」
ハルが少し悲しそうに言った。塹壕の深さは約1.5m、平均かそれ以上の身長の大人が屈めば敵からは見えず中からの視界を損ねない高さに掘られている、しかしハルにとっては高すぎるらしく背伸びしても頭の先も出ない。
「…あー……背なんてすぐ伸びるよ…」
背が高いアルが頭が塹壕からはみださない用にしゃがんで、直立しているハルに言った。
「……そう…ですよね!!」
「そうだよ!それに今は敵に見つからずに普通に動けるから逆に有利だし!」
「……そうですよね!!!じゃあいきましょう!今すぐいきましょう!!」
アルに背中を向けて目を服の袖でゴシゴシと擦って上で確認した敵の位置まで速足で歩く。アルは屈んだまま急ぎ足でついていったが速足で歩き、アルよりも身軽なハルについていくのがやっとだった。