第58話 忘れ物
無線での通信に失敗して無言で走ること約30分、アルがバイクを止め双眼鏡を覗いた。
獣道に木が少なくなりだし道も一応、と言った感じではあるが草が抜かれ土を固めた道になっていた。木々の間から600m程向こうに緑に塗られた2階建ての建物が見える、中心に何があるかは見えないが、円形で、屋上には機関銃が据え付けられていて建物の周り200mは円形に木が伐採され遮蔽物が何も無く所々に塹壕が掘られている。
「ふー…大体この辺だね、親父達はもう配置についてるだろうから俺達も急ごう。行くよハル君、和秋また後で。モモをヨロシク」
バイクのエンジンを切ってアルが2人に話しかけた。森に響いていた小さな反響音が消え、代わりに森特有の木のざわめきが聞こえる。
「わかった、任せといて。そっちもしっかりね。ハル、アルをヨロシク」
和秋はサイドカーに積んだ荷物を降ろして背負いながら言った。和秋が手に持った荷物は細長くとても大きい。
「……俺…一応この中で一番先輩なんだけど…」
「そうだったね、ごめん。じゃあアルをヨロシクね、ハル。待たしちゃ悪いしもう行くよ」
アルは和秋の言葉に不満を口にした。それに対して和秋は自分の荷物を全て持ちアルに謝った後、もう一度ハルに声をかけて走り始めた。
「ワザとだなあんにゃろー……まぁいいや、帰ってからシメる。行こうハル君」
そう言うとアルは苦々しい顔とも笑顔とも取れる顔で歩き出した。
「うん、――あれ?…これ…」
ハルが後部座席に吊りさげた自分の装備を詰めた鞄を手に取った時、サイドカーの出っ張りに引っ掛かった分厚いペンダントを見つけた。銀で造られたそれはシンプルで、どことなくそっけなく、そして美しい。
「おーいハル君、どったの?」
「あ、ごめん。なんでもない」
なんとなく手にとってペンダントを眺めていたハルはアルに声をかけられ半ば反射的に何も入れていない胸ポケットに入れた。