第56話 眉間のシワが戻らない……
「っあー!!あの顔と口調!疲れたー!!やっぱり普段と違うようにって神経使うねぇ、ねぇハル君?」
春樹と慎吾と別れて1分程して2人の姿が見えなくなった時、アルが左手で自分の頬を軽く引っ張りながらサイドカーに乗ったハルに声をかけた。
「そうですね、皆は普段通りの口調だったから大丈夫だったけどアルさんは大分キャラ作ってたから……お疲れさまでした。」
「普段があんなだからね、倒れたまま聞いてて笑いそうになったよ」
ハルが労う様な笑みを浮かべながら言ったのに対して後ろのシートに座った和秋は舌を出して両手を上げて降参のポーズをする。
「るせぇ、倒れてただけのヤツにゃあ分かんないよ。それに…ほれ、親父見てみ?」
指差した先には勇護が運転するバイクがある。サイドカーにはモモが後ろにはかなたが乗っている。
「…?別にいつもと変わらないけど?」
和秋はいぶかし気に言う。
「その位置からは見えないか……よし、この位置から見てみ、」
少し加速して前に出る
「……」
無言でバイクを運転する勇護は左手で眉間をマッサージするように揉んでいた。
「な?眉間のシワが戻らなくなってる、親父は普段あんなだからなぁ…ま、普段と違うことするってのは難しいって事だよ。」
「アル、あとどのくらいで着くの?」
和秋が露骨に話題を変える。
「……親父はいいのかよ…まぁ別にいいけどさ……到着はまだだよ、40分はかかる。向こうでは時間も無いし打ち合わせしとく?」
「大丈夫、ちゃんと覚えてる。それに打ち合わせは全員でしないとあんまり意味ないしね。それより…あの2人大丈夫なのかな……」
和秋が不安そうに眉を下げた。