第55話 質問
「あの……よろしく…お願いします。」
春樹がおずおずと挨拶を返す。
「さて、自己紹介も済んだし…教えてくれる?今本隊はどこ?もう出発したの?あ、それと無理に敬語にしないでいいから。」
「……はい…まだ拠点に居るはずです。たしか11時に『香南』に着くようにって聞いたから9時くらいに出発だと思います。」
「今は…7時30分か……急がないと…」
今まで黙って倒れていた和秋が横になったまま左手の腕時計を確認して言った。右手で腹部を押さえている。
「和明!もう大丈夫なの?」
「うん…なんとか大丈夫そうだよ、『母さん』。」
一息ついてフラフラと立ち上がり春樹に近付く。春樹は脅えて少し体を硬くしたが安心感が勝っているらしく表情に安堵がうかがえる。
「話は聞いてたよ、春樹君。僕達は急ぐからもう行くけど最後に聞かせてくれない?……君達の親は…もしかして実の親じゃない、それに君達は銃を撃つ訓練をろくにしてない、違う?」
春樹の目の前に移動した和秋がきつく結ばれた縄をほどきながら静かに聞いた。
「!?……なんでそれを?」
春樹は目を見開いて和秋を見つめる。その目を真っ直ぐに見て2つ目の質問をした
「実の親なら、ろくに訓練をうけてない子供に敵を殺せなんて言わない、逃げろって言う。ねぇ、今まで育ててくれた人や『third root』の人は大事?」
「…あの人達は人殺しだ。それに…僕らは……虐待されてた…それに捨てられた。行く当てもないんだ…だから…大事では…無い…」
悲しそうに縄のほどかれた手で膝を抱える。
「そうか、行く当てが無いならいいとこ紹介してやる。ココでじっとしてりゃあ俺らの仲間が来る、そいつらにお前らのコト伝えといてやるからそいつらに頼れ。また俺らの基地で会おう。」
勇護が座りこんだ春樹の肩に手を置いて力強く言った。眼には涙が溜まり声は震えている。
あっけにとられた春樹はただポカンとした顔で勇護やその周りにいるかなたや和秋、アルを見上げている。
「俺達はもう行くから、後は自分達で考えて、自分達で決めるんだ。じゃあな」
アルはまだ眠っていた慎吾を縛っていた縄をほどくと木の根元に放りながら言うとバイクに歩み寄ってエンジンをかけた。