第54話 蜷川春樹
「…え……合い言葉…?…仲間……なの!?」
『ニーズヘッグ』と言う言葉を聞いた少年はアル達を睨みつけていた目を丸くした。怒りで激しかった口調も幼くなる。
「お前ら…『third root』の人間なのか!?ならなんで撃った!」
アルがさも合い言葉を知っていた風に話を合わせ怒っている演技を続けながら少年に詰め寄り胸ぐらを掴み問い詰める。
「ひッ!!?ごめんなさい!お父さんにこの辺で武器持ってる人は敵だから攻撃しても構わないって言われたから……」
少年は敵だと思っていた人間が仲間だった事に安堵し、同時に仲間を攻撃した罪悪感を感じている。安堵感から口が軽くなり少なくとも死に対する恐怖が消えた事でアルに対して恐怖を覚えていた。
「アル、離しなさい。私達は仲間よ、そしてそこで倒れてるあの子も仲間。……ねぇ私達本隊に合流したいの、作戦はまだ始まってないよね?あ、その前に、アナタのお名前は?」
アルは怒ってではなく演技で小さく舌打ちして手を離した。
「春樹、蜷川春樹です……弟は慎吾…」
春樹と名乗った少年は目に涙を溜め声を震わせている。
「ゴメンね、怖がらないで。春樹君。私は八坂かなたっていうの。で、さっきから黙ってるのが八坂勇護、怒鳴ってるのが八坂梓、そこで倒れてるのが八坂和秋、で、介抱してるのが泉百恵、合い言葉を言った彼は柊陽菜、本名だよ。アナタ達は仲間だから。よろしくね。あ、あと和秋は大丈夫。傷は浅かったから、梓が大袈裟に言っちゃってゴメンね?」
かなたは和秋の苗字だけを偽って自己紹介をした。本名を教える事で親近感を湧かせ、自分が撃った人間の傷が浅かった事を知らせ安心させ、自分達を完全に『仲間』として認識させようとしている。