第36話 私が神だ!
滑走路に進み出たプロペラタイプの飛行機、染赤は低いエンジン音を響かせ、少し高くなった太陽の光を浴びて青く輝いている。
「あ〜。こちらアオ聞こえてますか?どうぞ〜」
緊張感のまるでない声で飛行士が無線機のスイッチを押しながら喋る。
「こちらアル、聞こえてますよ〜。どうぞ」
「こちらハル、僕も大丈夫です。どうぞ」
「こちらモモ、私もオッケー。どうぞ」
「こちらカズ、大丈夫。どうぞ」
「オーケー、無線機は全部良好ね。新型は初期不良が怖いけど今回は優秀ね!さすが開発部!」
葵が頷きながら嬉しそうに言った。
「前の任務で使った旧式は不便だったけどね〜」
アルが首についている無線機のスイッチから指を離してボソッと小言を言う。アルの小言はエンジンから発せられる爆音とプロペラが回転することでおこる風切り音で誰にも聞こえなかった。
「よっし!じゃあ出発だ!!10秒後には離陸するから喋らないように!舌噛むからね!!『葵、行っきま〜す!!』」
「……離陸前にふざけるなよ゛!?」
葵は2つあるエンジンレバーを手前に一息に引き、今まで踏んでいたブレーキを一気に離した。回転数を上げたプロペラが空気を後ろに押し出し急激な加速をした後、重たい機体がゆっくりと地上を離れた。
「はい離陸〜。え〜、当機は只今から南に進路をとり、目的地に着くまでに1度南部基地に給油の為に着陸、一泊します。翌日トラブルが無ければ午前8時に出発、南部基地にはだいたい午後3時には到着予定です。質問ある人〜、無いよね?よし、じゃあ適当にくつろいでてね。後、離陸時に注意を無視して喋って舌噛んだバカな弟に一言、飛行機に乗ってる時は私が神だ!!」
民間機のような気の抜けるアナウンスを無線を使い流し質問の有無を聞き質問タイムを強制的に切った後、舌を噛んだ和秋に無茶苦茶なコトを言って話を終了した。
染赤は順調に高度を増し、基地から遠ざかり戦場に向かって行く。