第32話 生活感は自然に出るものだ。
「アル、まだ本名教えてなかったの?」
モモはアルを見ながらため息混じりで言った。
「えっ!?アルさん…本名梓って言うんですか!!?」
『アル』があだ名と言うことは直接本人から聞いていたものの本名はまだ聞いていなかった。と言うよりは、もう本名を聞くこと自体を忘れていた。
「うわっ!!ミスった!!口滑った!あー、もう!!やっちゃったよ!恥ずかし!!!」
アルは自分の名前を気に入っていないのか恥ずかしがり頭を抱えた。
「いぃじゃん、別に。ハルくんはもう立派な仲間でしょ?」
モモは少し怒ったようにアルを睨んだ。
「そりゃそうだけどさぁ…梓だよ、アズサ。男なのにあずさ。」
バツが悪そうにうつ向いてブツブツと誰にでもなく文句を言う。
「いいじゃないですか、良い名前だと思いますよ?」
「どーも、けどねぇなんか嬉しくないんだよなぁ…」
「いいじゃん、梓。じゃ、明日早いから私はもう寝るね。ハルくん、ベースとアンプ置いといていい?」
ワザとアルの事を『梓』と呼んでモモが言う。
「あ、はい。いいですよ」
了承。
「あ、じゃあ俺も。明日からの任務が終わったらまたハルくんの部屋で練習しよう。」
「……了解です。けどあんまり僕に期待しないで下さいね?」
「なに言っちゃってんの、かなりいいセンスじゃん、すぐ上達するよ。じゃ、みんなおやすみ。また明日」
「じゃ、俺も行くわ。ハルくん、ウキタケ、おやすみ。」
「はい、おやすみなさい。また明日、頑張りましょう。」
2人が出ていった部屋には2本のエレキギターとベース、3つのアンプがスタジオのように配置されている。ハルは愛しそうにその楽器を眺めてからベッドに向かった。枕元ではウキタケがすでに眠っていて、少し驚いたがハルは穏やかな気持ちで怖がることなくベッドに横になった。
余談だが、アルのプロフィールは名前の部分がマジックで塗り潰され隣に手書きで『アル』と書かれていたらしい。