第3話 移動中
「よっ」
青年が空薬莢を麻袋に入れ終えて
振り向いた少年に声をかけた。
「…アルさん、もう終わったんですか?」
アルと呼ばれた青年は首を左右に振って答える。
「んーにゃ、ポイント変えようと思ったんよ。ハル君もだろ?」
少年、ハルは頷く。そのすぐ後、
アルが何かに反応してスコープを覗き、
少し驚いた顔をしてその場で銃を構えて、
そして撃った。
苦い顔でハルを見て、言った。
「まだ生きてたぞ、相手には出来る限り苦痛を与えるな。」
アルは鼻唄を歌っている時の顔でも、
ハルに話しかけた時の優しい顔でもなく、
どこか悲しそうに、ハッキリと言った。
ハルはアルの蒼と赤の双眼に見つめられ、
泣きそうな顔になった。
アルはハッとして
「おっと、ごめんさ。ちょっと俺もピリピリしてったから。」と誤魔化した。
苦笑いした青年は
先天性白皮症と後天性の虹彩異色症を併発している、
そのため、日本人だが真っ白な肌に銀髪、右目に蒼い瞳と左目に赤い瞳を持っている。
軍の中でもかなり珍しい存在だ。
そして虹彩異色症が発症した時に、
原因はわからないが耳が異常な程敏感になったらしい。
因みに右目は虹彩異色症になった時に色盲になっている。
「さっきは音を気にかけることが出来なかった。アイツ無線機を握ってたぞ。早く動こう。」
少年は目を伏せて済まなさそうに
「はい。」
とだけ言って黙り込んでしまった。
次のポイントまでの道のりが随分遠く感じる。
「ハルって本名なん?」
沈黙を破るいきなりの質問にハルは少し驚いた後に、
「違います。……アルさんは本名…じゃありませんよね?」
違う。とだけ言って本名を教えなかった所をみると言いたくないらしい。
「おうよ、アルなんて名前の日本人なんているわけないっしょ。
アルってのは先天性白皮症から来てんの。」
アルはそんな事を気にせずにハルの質問に答えた。
ハルはアルに顔を向け不思議そうに
首を傾げる。
「どういう意
「アルビノ、白皮症の学名だよ。
それで、アル。アルビーナ=オッド。
オッドってのは虹彩異色症、
つまりオッドアイから来てんの。ちなみにコレ、逃しちゃった外国の敵サンにつけられた有難〜くない名前。ま、戦場で本名使うよりはいいから使ってる。じゃさ、何で髪赤いの?もしかして染めた?」
ハルは少し戸惑った後
「血で…染まりました。元々は黒です。」
と言った。
「わりぃ」
「いえ」
また会話が途切れ、2人は静かに歩いた。