第19話 いや、初めから見てましたよ。
「ちょい待ち!」
「なに?」
「後ろは乗れないよ?」
「…なんでよ?」
あからさまに不機嫌な声でモモが聞いた。
「ハル君も来る。後ろは無理。OK?」
「やだ」
口を尖らせてアルを睨む。
「ワガママ言わない、お姉さんでしょ!」
アルがなぜかお母さん口調で言った。
「……だいたいさ、…本当に壊れてる?モモの『エボニー&アイボリー』ってじいちゃんの傑作じゃん。昨日の任務前にも一緒に行ったし…ねぇ?」
腕を組み目を細くして自分より頭1つ分小さいモモの顔を覗き込む。疑いの目。
「そ、んなコトあるワケないじゃない?」
詰まったことを誤魔化すように普段とは違うとってつけたような落ち着いた口調で答えた。
「ふぅ……しょうがない、ハル君に相談したげるよ」
ため息をつきながらも笑顔でモモの頭をワシワシと撫でた。
「やた!アル大好き!!」
モモがアルに抱きついて嬉しそうに言った瞬間に2人に背後から声がかかった。
「あのー、終わりました?」
振り返ったアルの目に地面に直に座ったまま首を傾げるハルが映った。
「うぉ!?いつからいたの?」
アルとモモは本気で驚いている
「えーとですね…『おはよ。ロードレーサーの部品どっか変えた?』のくだりからですね。」
「……それ初めじゃん!!!うわハズイ!!来てたんなら教えてよ!!」
「あ、すみません。男女が仲良く話をしている時に話しかけるのはどうかなと思いまして。…話しかけて良かったんですか?」
「いや…まぁその…兎に角、今度からは変に気つかわなくていいから!あー本当に…ハズイ」
2人はうつ向いて本気で恥ずかしがった。
「気をつけます。それはそうとモモさん、自転車貸してくれます?」
「え?」
「後部座席乗るんでしょう?」
「あ、いいの!?ありがと!!」
「はい。」
「じゃあハル君。3、4分ここで待ってて、モモの銃取ってくるから。」
「了解です。モモさんの部屋では2人ですけど急いで下さいね?」
ハルはいつもより少し丁寧な口調でそう言うとロードレーサーの隣に座りこんだ。待たされた事を少し怒っているのかも知れない。アルとモモはまた顔を赤くして
「勘弁して下さい。」
と言いバイクに跨って遠ざかって行った。