第10話 本部長室で
ズルズルズル………
家の中で2人の人間を引きずって歩くモモとすれ違った人は別段驚くわけでもなく、
「おっ、アルと新入りの子、戻って来たんだ。」と言ったり
「家族を絞め殺すなよ。」などと冗談を言ったりした。
2人を散々引きずって歩いたモモは[おっちゃん(WPM本部長)]と書かれたふざけた標札が吊り下げてある部屋にノックもせずに入った。
「お疲れ様。アル、陽菜。」
「…私は?」
「心配だったのはわかるけど、次からはもっと優しくね」
そう優しく言った初老の男性は読んでいた書類から顔をあげた。
「…はい。」
少女は有無を言わさずアルとハルを絞めあげた少女と同一人物とは思えない程、素直に頷いた。
「まぁ気絶した人から報告を聞くわけにもいかないし、2人を医務室に連れていってくれないか?」
「その前に聞きたいんだけどいい?」
「なんだい?」
「おじさんの部屋から怒鳴り声が聞こえたんだけど…なんで?」
渋い顔をしてから少女を見つめ、諦めたように首を振り
「……任務地だった街がまるまる爆発したんだ。テロリストの多い街だったから何年も前から少しずつ地下に埋めていたんだろう。比較的小型の物を、噂もたてない用に、慎重に。そして個人の避難用と称した地下シェルターにかなり大型の物を。
「彼」が戦いの中でたまたま地面に露出していた物を見つけなければ、最悪の事態も有り得た危険な状況だった。」
と、詳しく説明した。
「…情報が……足りなかったのね?」
モモは驚いた顔をした後にTシャツの裾を握り締めて静かに泣いた。
「まったく。何年もかけて自分の街に爆弾埋めるなんて変なヤツらだよなぁ。一般市民だった人には気の毒なことだよ、ま、テロリストの方が多いような街だったけど……普通何年も前から地面に埋まってた爆弾の情報なんて
ある方が変なんだって、わかるヤツなんていないよ。
そんな事に責任感じるくらいならさ、
帰って来てすぐ人を気を失うまで絞めあげた事に責任感じてよ。」
いつの間にか目を覚ましたアルが座ったまま腰に手を当てて伸びをしながら言った。
「おっちゃん、後で報告書出すから医務室行っていい?」
「そうしなさい。あぁそれと
「彼」もいつも通り医務室にいると思うからお礼をね。」
「了解。あんがと。それと、通信機越しでもハル君ビビってたから、ま、一応報告ね。」