冬の話
あえて書いてない所があります。その辺りは想像で埋めてみてください。気が向けば書きます
「はぁ~。なんだか外が異世界に思えるね」
自動ドアをくぐるとそこは桃源郷だった。……まぁ、普通にコンビニなんですけど。
女性店員の甲高い「いらっしゃいませ~」に顔を歪めながら、結城が若干視線を俺からズラして不満をこぼした。
「ホットスナックの混ざった匂いが気持ち悪い」
「若干店員見ながら言うの止めてよ」
「おでん鍋の蓋閉めろよ。不衛生だろうが」
「止めてってば」
店員さんの苦笑いが気まずいのですかさず結城を連れて奥のジュースコーナーへ。
学校からの帰り道に俺が(土下座寸前まで)頼み込んでコンビニ寄った、という経緯から結城は初めから機嫌が悪い。理不尽に他人に噛みつくぐらい機嫌が悪い。
「あんな頼み方した後で聞くのも何だけど」
「じゃあ聞くな」
取りつく島もない。うぜぇ、って言ってくれないぐらい怒ってる。恥ずかしい。
「そんなに怒んないでよ。ほら、アイス奢るから」
「何で寒い中で冷たいもの食うんだよ」
「寒いからこそのアイスでしょ?逆に俺は暑い中でアイス食べたくない」
「ここでマトモな理由言わなかったらシメるからな」
「いや、怖いって。機嫌悪くなりすぎだよ。そんなにあの頼み方嫌だったの?」
「その話はするな」
かなり嫌だったらしいです。
アイスコーナーまで移動する。やはり冬の間はあまり売れていないようで、数日前に見たときとほとんど品数が変わっていなかった。包装紙に氷の粒が目立つ。
そして店員さんの視線が痛い。
「それで、アイスの話なんだけどさ。今回はちゃんとした理由があるんだよ」
「いつもあってくれよ」
「夏は暑いからアイスがおいしいとか良く言うじゃん?まぁ、その気持ちも分からなくはないんだけどさ……溶けるじゃん?アイス」
「……あ?」
「夏だとすぐアイス溶けるじゃん?急いで食べないと、特に棒付きとかタチ悪い溶け方するじゃん。カップアイスもすぐに溶けた液体でタプタプになるしさー。俺焦って食べるっていうのが嫌でさ。っていうか、別に冬に食べてもおいしいじゃん、アイス」
「あー、まぁー……そうだな。持って帰るにしても急がされるな」
俺のアイス理論に結城の溜飲が幾分か下がった様だ。そんなに俺がまともな事言うのが珍しいかな。
しかし、店員さんの視線は未だに痛い。「早くなんか買って帰らないかなー」って感じで首筋がチクチクする。
「じゃあ、私パプコな」
「おー。分かってくれた」
「どうせアイス以外奢る気ないんだろ?」
「しかしパプコですか……」
「なんだよ」
「俺チューブタイプのアイス好きじゃないんだよね」
「こだわりがうぜぇ」
やや控えめな「ありがとうございましたー」を経て、冷気の痛い外へ出る。
寒空の下、白い息を吐きながらアイスを食べる。ちなみに俺は雪美大福を選んだ。
「パプコと大福一個ずつ交換しない?」
交換は他意無く思いついた事だが、おもしろい事を後から思いついた。
大福を結城に「あ~ん」で食べさせよう。された事はないけれど、する事の方がレアだ(さらにレアな「あ~ん?」ってされた事なら有るけど)。
「いや、いいよ。半分やるよ」
「え。遠慮しなくても」
「元々あげるつもりだったしな。腹壊しそうだし」
俺の腹の心配もしてほしいかな。
季節は巡りますし、過去話以外は順番に時系列は進みますが、基本的に年はとりません