結城視点「留守番電話」
遅れたのには事情がありまくってるのですよ。
数学の課題を終わらせて一息ついた時、克巳に用事を思い出した。
携帯電話を手にとり、電話帳から一宮克巳の番号をコールする。
……六コール目にも克巳は出ない。
念のため時計に目をやるも、まだ九時過ぎ……お風呂か何かだろうか。
と、諦めて切ろうとしたタイミングで向こうが電話に出た。
「もしもし?出るの遅れてごめん。ちょっと用事してた」
「それはタイミング悪かったな。後でかけなおすか?」
「と、電話に出たと見せかけて実は留守番電話です。ピーという発信音の後にメッセージをどうぞ」
「妙に手の込んだ事を……」
克巳の安定した変人具合に脱力しつつ、「ま、あいつらしいか」なんて納得しってしまった自分にも呆れてしまう。
さて、それじゃあメッセージだけ残しておくか。
「さぁ、いきますよ?今からピーって言いますよ?」
早くしろ。
「吹き込む文考えた?心の準備はオーケイ?」
早くしろよ。
「じゃあ、カウントダウン……あ、いやちょっと待って。俺の心の準備が」
早くしろって。
「よおし。三!、二!、一!!……やっぱ短いな。十カウントでいくか」
あぁぁぁぁぁぁ!!!うぜぇ!!
知らぬ間に始めていた貧乏ゆすりが、いつの間にか地団駄になっていた。慌てて足を止める。
怒ってはだめだ。これからの用事を考えると平常心でいたほうがいい。……正直、ここまで来たら通話を切りたくなってくるが。
「一、零。ピーー」
念のため深呼吸をして、今一度気持ちを静めた。何気ない感じを装う。
「もしもし。こんばんわ、藤野結城だけど。あのさ……来週の日曜予定あるか?もし、暇なら……えっと……」
「暇なら?」
「ちょっと映画に付き合って……ん?」
今、私が喋ってるのって留守番電話だよな?
「もしもし?」
「聞こえてるよ?あ、こっちの声が聞こえないのかな?」
「聞こえてるけど、いや、何でお前……。あぁ、やっぱいいや。それより、電話に出たんなら「もしもし」くらい言えよ。びっくりしたじゃねぇか」
「?。最初に言ったじゃん」
「は?…………お前いつから居た?」
「最初からだけど……え、留守番電話云々は全部冗談だよ?」
「……」
「適当に付き合ってくれてるんだと思ってたんだけど、まさか本当に留守番メッセージだと思って聞いてたの?」
「……」
「どおりで。いつもみたいに、「うぜぇ」って来ないから不思議に思ってたんだよね。……あ、もしかして、今顔赤い?」
「うぜぇ!!」
携帯電話を力の限りベッドに叩きつけた。