雨
中身のある話はたま~に書ければいいと思います
ある日の放課後。俺と結城は生徒玄関に立ち尽くして外を見ていた。
「俺、雨が好きなんだけど、結城はどう?」
「今嫌いになった」
「だよねー」
今日の天気は雨だった。強くも弱くもない雨がしとしとと降っている。午前中から雲行きが怪しかったのが、午後になってとうとう振り出したのだ。傘を差す人や合羽を着た人の中に、ずぶ濡れになりながら走っていく人がちらほら見える。
「濡れて帰る?」
「先に傘持ってるか聞けよ。持ってないけどよ」
そして運悪く二人とも傘を忘れてしまっていた。雨はしばらく止む様子は無い。それでも三十分ぐらい待つことにした。
しばらく二人でぼーっと雨を眺める。同じ景色に飽きて目を瞑ると、雨の音が聞こえるだけになった。意外と音が耳に心地良い。
やがて音を聞くのにも飽きてきて、今度は隣にいる結城に目を向けた。すると、やはり結城も退屈しているらしく、不機嫌そうな顔をしていた。それはそれで、「雨を憂う金髪美人」って感じで絵になっているけれど、当の本人は不機嫌なのだ。
「しりとりか、雨の日のメモリアルごっこ。暇つぶしならどっちがいい?」
「後半のやつ何?」
「雨の日のメモリアルっぽい事をします」
「……」
「……」
「……しりとり」
「りんご」
「鮴」
「理科」
「管理」
「リス」
「推理」
~中略~
「……料理」
「利売り」
~中略~
「………倫理」
「吏」
「……性質の悪い追い込みするのやめない?」
「これがしりとりのやり方だろ?」
「…………雨、止まないね」
「露骨に逃げたな」
不毛なしりとりが終わっても雨は止む素振りすら見せなかった。
ふと時計を見ると、もう三十分以上が経過していた。人が大勢いた生徒玄関も、いつしか俺と結城だけだ。
「しゃーない。誰かに傘借りるか」
「貸してくれる人いるかな?」
「そーじゃねぇよ」
結城は傘立てにあった傘を二本抜き取った。一本はビニール傘で、もう一本は紺色の傘。そしてその内のビニール傘の方を差し出してきた。
「……それは違うんじゃないかな?」
「大分前からあるっぽいし、平気だろ?」
「こうゆう時は一本だと思う」
「お前は濡れて帰れ」
ビニール傘は傘立てに戻された。そして、結城は紺色の傘を差して帰ろうとする。
「いや、取るのもよくないと思うよ?」
「だからって濡れて帰るのも嫌だろ?」
「そしたらその傘の持ち主が濡れて帰る羽目になるじゃないか」
「そいつもテキトーな傘借りるだろ」
「いやいや」
「めんどくさいなぁ。……」
結城は何かを考え込む素振りを見せると、そのまま紺色の傘を差して外に出てしまった。そしてこちらに振り返って一言。
「入ってくか?」
「是非」
迷う余地が無い。善も悪も関係ない。
「即答かよ。……やっぱ濡れて帰れ」
「何で!?」
乙女の心は空模様とはよく言うけれど、結城の心は天気より難しいと思った。
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