再び
「…なぁ、本当にこんなの着るの?」
「何をおっしゃいます!アブソリュート様の晴れ舞台ですよ、これくらいは当たり前です。」
俺は今、女の子の人形遊びに使われる人形のような気分に浸っていた。
次から次へと着させられていく洋服たちは皆目も当てられぬくらいきらびやかなもので、恥ずかしくて仕方がない。
…首元、開きすぎじゃない?
「あぁ、アブソリュート様ったら背が小さいから合うものが限られてくるのよね。」
「シークレット・ブーツが必要じゃない?」
「ダメよそれは!胴と足の長さが合わないわ。」
…なにげ失礼だし。
この真夏に何重にも重ねられた洋服を着た俺は、かなり暑い。一枚一枚は薄くなっているものの、こうも重ねられれば塵も積もれば山となるんだな。
もう何時間もこうして好き勝手にされて、最初は抵抗したものの、こういう熱の入ってしまったご婦人たちには通用しない。
ただされるがまま、人形になるしかないのだ。
「あの~…俺、こんなカボチャみたいなパンツ嫌だよ。」
だが始終黙って好き勝手にされているわけにもいかないことになってきた。
肩から流れる裾に被さり、腰から太股を覆うのはどこぞの王子様の定番スタイルだ。
青の生地にはっきりとした銀色の縦縞が眩しい。
「そうですか?とても可愛らしくてよ、アブソリュート様。お似合いなのに…」
「いや、でもさ…別に内輪だけの顔合わせなんだしこんな仰々しくなくてもいいような…」
「ダメです!女性とのデートは第一印象が大切なんですから。」
「だからただの顔合わせ…」
はぁ。
何を言っても彼女たちは俺にこのカボチャのパンツをはかせたいらしい。
しゃべりながらもトンボの羽のようにテキパキと動く彼女たちの腕は、最早誰にも止められない。
「後でクロードに違う服を選んでもらおう…」
結局、クロードに爆笑されながらも普通の濃紺の正装着に着替えた。
途中テキパキご婦人たちに見つかり、首元の白いスカーフとあってもなくても意味のない長ったらしいマントを着させられたが、先程のなんちゃってお伽話の国の王子様よりマシである。
シークレットブーツではなくいたって普通の慣れない黒革のブーツをはいた俺は、再びいつぞやの扉の前に立っている。
一ヶ月も経たないうちにこの扉の前に立つなんて初めてだ。
どんどんと暗くなる気持ちを、なんとか奮い立たせなければ。
「南国の女性の話を?」
俺の様子を少し離れたところで見ていたクロードが、今日は天気がいいですね、というような軽さで話しかけてきた。
見た目は俺より少しだけ年上なだけなのに、こういうところが大人だよな。
俺はいつもお前のそういうところに感謝してるよ。
「これから俺の奥さんに会うのに、それは失礼だろ?」
「余計なお世話でしたね、失礼致しました。」
ぐずっていた足をようやく動かし、金色に彩られた扉を潜った。