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弱っている彼にプロポーズしてみた

作者: 前田奈穗
掲載日:2026/03/20

お読みくださりありがとうございます。

前田奈穗と申します。

こんな日常の逆プロポーズも素敵だなぁという作品。

お楽しみいただけますと幸いです。

「んん……」


 風邪を引いた彼の看病をしていたはずなのに、うっかり隣で寝てしまった。


 ──今、何時だろう。


 体を起こそうとしたら、ぐいと何かに強く引き戻された。


 振り向けば、薄く開かれた彼の目がゆらゆらと揺れていた。


「あれ、起きていたんですか」


 ──どこにいくんだ。


 その目が雄弁に問うている。風邪のせいか、いつもより潤んできらきらしていて、どことなく幼い。


「時間が見たかっただけですよ」


 体に回された彼の手に、あやすように自分の手を重ねると、少しばかり腕の力が緩んだ。


 上体を少し起こして時計を見る。


 寝ていたのは30分ほどだった。


 彼は女に巻きついたまま、まだうつらうつらしている。


 心配もありながら、こんなに無防備な彼を見るのは初めてで、母性本能のような愛しさが湧き出てきた。


「お水持って来ますね」


 小さな子どもに諭すように言って、女がベッドから降りようとすると、


 どん。


 急に、後ろから何かに当たられた感覚がした。



 少しして、慌てて起き上がった彼が、自分を後ろから抱きしめたのだと理解した。



「あの、お水……っていうか大丈夫ですか、そんな急に動いて」


「いらない」


「え?」



 ──水、いらないから、ここにいろ。



 掠れた、懇願するような声。堪らなくなった。


 普段はどちらかといえばクールで無口。好きだとかかわいいだとか、言ってもらったことは一度もないかもしれない。


 それでもこの人は、確かに自分を必要としている。


 強く力を込められた腕。


 彼は、迷子の子どものように俯いていた。



「結婚しましょうか」



 なかなか言い出してくれない彼に少しばかりやきもきしながら、してもしなくても、どうせずっと一緒にいるとは思っていた。


 でも彼にとって、これが何かの証くらいになったらいい。


 気が滅入った日でも、一人で目を覚まして穏やかに笑えるように。



「する」



 小さく呟かれたその声はやっぱり少し幼くて。混じり気のない彼の本心に、胸が鳴った。



「約束ですよ」


「……うん」



 胴に回る彼の手。その小指に自分の小指を絡めれば、小さく握り返された。





お読みくださりありがとうございました。

評価、ご感想などいただけますと大変嬉しいです。


※作者は現在、長編も連載しています(2026/03/20ごろ完結)


『失恋を買わせてほしい。六百万で ――春な忘れそ――』

余命宣告を受けた少年と虐待される少女の物語。


https://ncode.syosetu.com/n9616lw/

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