弱っている彼にプロポーズしてみた
お読みくださりありがとうございます。
前田奈穗と申します。
こんな日常の逆プロポーズも素敵だなぁという作品。
お楽しみいただけますと幸いです。
「んん……」
風邪を引いた彼の看病をしていたはずなのに、うっかり隣で寝てしまった。
──今、何時だろう。
体を起こそうとしたら、ぐいと何かに強く引き戻された。
振り向けば、薄く開かれた彼の目がゆらゆらと揺れていた。
「あれ、起きていたんですか」
──どこにいくんだ。
その目が雄弁に問うている。風邪のせいか、いつもより潤んできらきらしていて、どことなく幼い。
「時間が見たかっただけですよ」
体に回された彼の手に、あやすように自分の手を重ねると、少しばかり腕の力が緩んだ。
上体を少し起こして時計を見る。
寝ていたのは30分ほどだった。
彼は女に巻きついたまま、まだうつらうつらしている。
心配もありながら、こんなに無防備な彼を見るのは初めてで、母性本能のような愛しさが湧き出てきた。
「お水持って来ますね」
小さな子どもに諭すように言って、女がベッドから降りようとすると、
どん。
急に、後ろから何かに当たられた感覚がした。
少しして、慌てて起き上がった彼が、自分を後ろから抱きしめたのだと理解した。
「あの、お水……っていうか大丈夫ですか、そんな急に動いて」
「いらない」
「え?」
──水、いらないから、ここにいろ。
掠れた、懇願するような声。堪らなくなった。
普段はどちらかといえばクールで無口。好きだとかかわいいだとか、言ってもらったことは一度もないかもしれない。
それでもこの人は、確かに自分を必要としている。
強く力を込められた腕。
彼は、迷子の子どものように俯いていた。
「結婚しましょうか」
なかなか言い出してくれない彼に少しばかりやきもきしながら、してもしなくても、どうせずっと一緒にいるとは思っていた。
でも彼にとって、これが何かの証くらいになったらいい。
気が滅入った日でも、一人で目を覚まして穏やかに笑えるように。
「する」
小さく呟かれたその声はやっぱり少し幼くて。混じり気のない彼の本心に、胸が鳴った。
「約束ですよ」
「……うん」
胴に回る彼の手。その小指に自分の小指を絡めれば、小さく握り返された。
お読みくださりありがとうございました。
評価、ご感想などいただけますと大変嬉しいです。
※作者は現在、長編も連載しています(2026/03/20ごろ完結)
『失恋を買わせてほしい。六百万で ――春な忘れそ――』
余命宣告を受けた少年と虐待される少女の物語。
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