第4話
side 宮崎ハジメ
下駄箱まで、赤穂と並んで歩いた。
饒舌なタイプじゃないのに、彼女は途切れないように話題を投げてくる。部活のこと、学校のこと、赤穂の些細な日常。
相槌を打ちながら、ひとつだけ引っかかった。
――なぜ、赤穂は僕を好いている。
僕は普段から無愛想だ。合評でも遠慮なく駄目出しをする。未熟な一年の赤穂が一番食らう。
それでも彼女は、こうして近づいてくる。
間違いのない好意。男女のそれが混じっているのも分かる。
だからこそ、僕は気づかないふりをする。
恋は、もっと長い時間の中で育つものだ。
出会って一年も経っていない僕らの間に、そんなものが生まれるはずがない。
赤穂の想いは、勘違いだ。
――だから。
同居人である、あの後輩に抱いているこの気持ちも、彼女自身に向けたものじゃない。僕らは、まだ出会って一ヶ月しか経っていない。
下履きに履き替え、外へ出る。
校門の近く、背中を預けて空を見上げている人影がいた。
沢田マリ。今日も学校の中では一度も遭遇しなかった同居人だ。
追いついた赤穂が、小さく言う。
「あれ、あの子……」
どちらも一年生だ。廊下ですれ違ってもおかしくない。
だが校内で僕と沢田の繋がりが見えたら面倒だ。僕は歩調を上げて、校門前を通り過ぎようとした。
「あの」
沢田の声。
僕は息を吐いて、振り向いた。
「……なに?」
「無視するなんて、ひどいですよ」
沢田が、ぷぅと頬を膨らませる。可愛い、なんて思ってる場合じゃない。
僕は隠そうとしているのに。
「あれ、知り合い、なんだ……」
赤穂の声が落ちる。
僕は頭を掻いて、視線を泳がせた。言い訳を探す仕草そのものだった。
「ああ、えっと……。なんて説明したものかな」
出身中学も違う。部活の接点もない。生徒会でもない。
下手な嘘は、後で自分たちの首を絞める。
考えあぐねていると、赤穂が背を向けた。首だけ振り向いて言う。
「それじゃあ、あたし先に行きますね」
そのまま去っていった。
勘違いしたらしい。後でフォローが要る。うまい弁解も考えなきゃならない。
……それより先に、確認だ。
僕は溜息をひとつ落として、沢田に向き直った。
「で、僕を待ってたの?」
「はい。これ」
沢田はポケットから、折りたたまれたカラフルなチラシを出した。
開いて見せつける。近所のドラッグストアの広告だ。
「トイレットペーパーの特売。お一人様二つまで。一緒に行きましょう」
「……あのさ。家事をやってもらってる手前、断りにくいのは分かるけど。僕、別段お金に困ってない。それ、前にも話したよね」
「いえいえ。それはそれ。これはこれです。困ってないから節約しない、は別問題ですから」
言っても無駄だ。
沢田は沢田なりに、恩返しをしようとしているのだろう。無下にもできない。
「しょうがないな」
悪態を一つだけついて、僕らはドラッグストアへ向かった。
「その……さっきの子、彼女ですか?」
道中、いの一番に飛んできたのはそれだった。
僕は首を横に振る。
「いいや。部活の後輩だよ。残念ながら」
横目で見た沢田は、どこかむっとしている。
……言い方が悪かったか。僕のつもりは「期待する話じゃなくて残念」だった。でも今のは、別の意味にも聞こえる。
だから沢田が嫉妬している――なんて。
意識しすぎだろ。
「その……さっきの子、『軽い』って、噂ですよ」
沢田の機嫌は、さっきより明らかに悪い。
僕は反射的に言った。
「関係ないだろ」
赤穂を悪く言われた気がして腹が立った。
見た目だけで言うなら、噂が立っても不思議じゃない。でも、いい子だ。僕はそう思っている。
沢田の言い方には、棘があった。
たかだか部活の後輩でも、知っている人間を貶されて気分がいいはずがない。
「関係、ありますよ」
沢田が呟く。
僕は返事をしなかった。
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