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屋上から飛び降りた幼馴染によく似た後輩が、僕の家の転がり込んできた〜自殺に至る、四つめの理由〜  作者: 秋夜紙魚


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第25話

side 黒澤サチ


「こんにちは」

「え?」


 午後の校舎。

 下駄箱で上履きに履き替えた、その直後だった。


 知らない声が背中に刺さる。

 振り向くと、女子生徒が一人。


 通学カバンを肩にかけ、両手はカーディガンのポケット。

 明るすぎる茶髪は、たぶん染めてる。


 でも、小さな顔にぱっちりした目。

 美人と呼ばれてもおかしくない。


 見覚えがあった。

 少し前、宮崎先輩と一緒に歩いていた子だ。


 あの時。

 嫉妬みたいな感情に負けて、わたしは先輩に失礼なことを言って怒られた。


 だから、この子とは目が合いづらい。

 わたしは少しだけ俯いた。


 下駄箱にいるのは、わたしと彼女だけ。

 用があるのは、わたし――それは分かる。


「あ、あの……」


 彼女は答えない。

 ただ、じっと見てくる。


 逃げたいのに、足が動かない。

 押しの弱さもある。でも、それだけじゃない。


 惹きつけられる何かが、彼女の声にあった。


「――宮崎先輩」

「っ」


 心臓が、とくん、と鳴った。


「……あたしね。高校に入ったら、何か変わるかもって思ってた」

「え?」


 何の話だろう。

 でも、彼女はわたしから視線を外し、遠くを見るみたいに続けた。


「あたしの両親、ろくでなしでさ。酒癖悪いし、すぐ殴る。で、酔いが醒めると、ごめんねって……」

「……」

「許しちゃうあたしも、相当だと思う。けど、生活は高校に入っても変わらなかった。――変わらないはずだった」


 彼女の視線が、廊下の端へ流れる。

 不自然に置かれた机。平積みの冊子の山。


「文芸部の部誌。手に取ったのは気まぐれ。適当にめくっただけ。普段、本なんて読まなかったのに、タイトルに引っかかった」

「……」

「それが、あたしと宮崎先輩の出会い」


 横顔が、思っていたのと違う。

 派手さじゃない。あたたかい声だった。


「それから読書が趣味になって。何冊も読んで。文芸部のドア叩いた」

「……」

「先輩に惹かれるの、当たり前だった。あの作品の親なんだって思うだけで、意識したし。見てれば、素敵なところ、いくらでも見つかった」


 そこで彼女は、ようやくわたしを見る。


 わたしは息を整えて、言った。

 言わなきゃ、終わらない。


「……で。だから、何なんですか。わたしにそれを話して、どうしたいんですか」


 彼女は微笑んで、悲しそうにそっぽを向いた。


「……あたし、ずるい女だから」

「意味、わかんない」

「――あたし、宮崎先輩がすきなの」

「っ」


 わたしに向けられた告白じゃないのに、胸が跳ねた。

 同時に、正体の分からない楔が、心に打ち込まれる。


「黒澤さん。貴方は、どうなの?」

「どう、って……」

「女の子ってね。感情の矢印が、ぼんやり見えるの。貴方だって、あたしの気持ち、分かってた。違う?」

「……」

「――あたしは、先輩の事がすき」


 もう一度。

 その言葉が、わたしの中を荒らす。


 心臓が、どくん、どくん。

 息が浅くなる。


「わた、」


 言っていいのか、迷った。

 これからわたしがすることを考えれば、答えなんて――。


 でも、身体も心も、嘘をつくのを拒んだ。

 吐き出せと叫んでいた。


「わたしはっ――」


***


「人に迷惑ばかりかけやがって」


 月島の進路相談は、いつも説教に変わる。

 鬱憤晴らしに付き合う気はない。


 罵声は慣れてる。

 聞き流せばいい。


 ――でも、一つだけ無理だった。


「まったく、兄妹そろって」


 違う。

 わたしと、あの人を比べるな。


 気づいた時には立ち上がって、先生の胸倉を掴んでいた。

 呼吸が乱れる。


 反論しようとした、その瞬間。

 教室のドアが開いた。


 宮崎先輩だった。


 先輩はわたしの腕を引いて立たせる。

 止めに入ろうとした月島を睨み返し、言い切った。


「彼女を馬鹿にするな!」


 ――兄みたいだ。

 なのに、あの時みたいに怯えない自分がいる。


 それが悔しくて、腹が立って。

 涙が勝手に溢れた。


 校庭に出た途端、雪が降り始める。

 待っていたみたいに、静かに。


「ホワイトクリスマス……」


 声が漏れて、わたしは先輩に笑いかけていた。

 自分でも、信じられない。


「……なあ、黒澤」


 手のひらを広げて雪を受けていたら、先輩の声。

 ぞくり、と背筋が凍る。


 先輩は、じっとわたしを見ていた。

 知っている。どこまでかは分からないけど――。


「知ってた、んですね」

「今日、知ったよ」


 先輩は静かに笑い、右手を差し出した。

 意味が分からず固まるわたしに、先輩が言う。


「行こう」

「どこへ、ですか」


 分かってる。

 先輩がわたしの正体を掴んだなら、わたしの目的も――。


「わからない?」

「っ……わかりません。言ってください。……お兄ちゃんの、宮崎先輩の口から」


 わたしは無意識に、その呼び方を使っていた。

 マリに指摘されたこともある。


 でも、もう違う。

 先輩の小説を読んで、分かった。


 先輩は一歩近づき、わたしの腕を取る。

 そして、わたしが欲しかった言葉を、はっきり言った。


「東雲ユウカの所だ。彼女はまだ、生きている」


**************************************


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