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屋上から飛び降りた幼馴染によく似た後輩が、僕の家の転がり込んできた〜自殺に至る、四つめの理由〜  作者: 秋夜紙魚


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第24話

side 黒澤サチ


 探すなら、先輩の部屋しかない。

 家の掃除を任されているわたしは、ずっとそう当たりをつけていた。


 この家で先輩は一人暮らしだ。

 両親は遠くに住んでいるらしい。


 理由は知らない。

 でも、普段使っているのはリビングと自室だけ。隠すならそこしかない。


 ――そして、マリから決定打をもらっていた。

 宮崎先輩が、もう一人の自殺者――東雲ユウカと知り合いだという確証。


『彼の携帯に、ウイルスを入れたの。ウイルス、というほどのものでもないけどね』


 わたしが欲しいのは一つ。

 東雲ユウカの居場所。


 真夏の悲劇で死んだのは兄だけ。

 東雲ユウカは生きている。そこだけは間違いない。


 なのに、今どこにいるのかは分からない。

 マリでも掴めなかった。


 だから、虱潰ししかない――そう思っていた。

 でも唯一の目撃者、宮崎ハジメが彼女の知り合いなら話が変わる。


 この家のどこかに、繋がる何かがあるかもしれない。

 そう思って、押入れを開けた。


 中は服が少し。

 けれど奥に、分厚い本が積まれていた。


 卒業アルバム。

 小学校と中学校、二冊。


 わたしは唾を飲み込む。

 兄と東雲ユウカと先輩は、同じ校区で育った。小中も同じ――マリの言葉が蘇る。


『可能性だけど。宮崎先輩は、ただの目撃者じゃないかもしれない』


 確証はない。憶測だ。

 でも、胸の奥で予感だけが育っていた。


 視線が机に滑る。

 真白高校の夏の文芸部誌。先輩の小説。


 飛び降りの目撃と、無関係なはずがない。

 まずは、と小学校のアルバムを開いた。


 六年二組。

 すぐに二つの名前を見つける。東雲ユウカ。宮崎ハジメ。


 先輩は、今の顔を幼くしただけだった。

 ただ、写真の表情は少し明るい。卒業写真だから、かもしれない。


 そして東雲ユウカは――わたしの想像と違った。

 肩口のショートボブ。快活そうで、よく似合っている。


 勝手に、もっと暗い人だと思っていた。

 その瞬間、ずきりと頭が痛んだ。


 針が刺さったみたいな、妙な違和感。

 正体は、まだ分からない。


 ページをめくる。

 二人が一緒に写っている写真が多い。


 笑っているユウカと、呆れ顔の先輩。

 でも時々、わたしの知らないくらい優しい顔の先輩もいた。


 最後の寄せ書き。

 そこにも当然、東雲ユウカの文字があった。


「……はは。わかんないよ、これ」


『Let’s do this!』


 丸い字のすぐ近くに、プリクラが貼ってある。


 頬を赤らめた先輩。

 ピースで笑うユウカ。


 恋人だとか、そういう決定打はない。

 でも確実に、二人の距離は近い。


 続いて中学のアルバムを開いた。

 ――そこで、息が詰まる。


 同じように並ぶ顔写真。

 なのに、どちらの顔にも影がある。


 なによりユウカが笑っていない。

 小学校の満面の笑みとは、別人みたいだった。


 写真の枚数も明らかに減っていた。

 学年人数が増えたから、と片づけたいのに、それでも少なすぎる。


 寄せ書きのページは、むしろ人が多い。

 クラスのほとんどが書いている。


 でも内容は短い。

「頑張って」「負けるな」――別れの言葉として、変だ。


 そして。

 どこにも、東雲ユウカの文字がなかった。


 アルバムを戻す。

 次に本棚を漁った。


 封筒が出てくる、なんて都合のいいことはない。

 得た事実も、まだ兄の自殺に直結しない。


 途方に暮れかけた、その時。

 ひとつ、手が止まった。


「……パソコン」


 独り言が、やけに響いた。

 心臓がどきりとする。


 わたしは先輩の椅子に座り、開きっぱなしのノートPCの電源を押した。

 すぐにパスワード画面が出る。


「……そりゃ、そうか」


 機種は少し古いけど、設定は普通だ。

 先輩が詳しくないと言っていた以上、なおさらここで躓く。


 当てずっぽうも無理。

 何桁かも分からない。


 呆然としたまま、五分ほど。

 携帯が短く震えた。


 マリからのメール。

『パソコン調べるなら役に立つかも』

 添えられていたのは、四桁の数字。


 たぶん先輩の携帯の暗証。

 まさか――と思いながら打ち込む。


 画面に「ようこそ」。

 ひらがなが出た。


「……神か、あいつは」


 息を吐いて、デスクトップを見る。

『冬 部誌』と名付けられたファイルがあった。


 開く。

 先輩が今書いている小説。


 タイトルは――『小さな正義の味方』。


 読み始めて、すぐに背中が冷えた。

 昨晩、先輩に言われた言葉を思い出す。


『設定が似てるね』


 似てる、なんてものじゃない。

 わたしの構想と、骨格が同じだ。


 盗作? 違う。先輩がそんなことをするはずがない。

 なら、この一致が意味するものは。


 さらに思い出す。

 先輩は、こうも言った。


『僕も経験談を元にしてたから、びっくりした』


 答えは一つしかない。

 確かめるために、わたしは一気にスクロールした。


 そして――声が漏れる。


「……え」


 先輩の小説は、わたしの“その先”を書いていた。

 わたしのプロットの、『後』まで。


 仲が良かった二人の別離。

 その理由と、そこから繋がる“今”。


 読み終えて、呆然として。

 気づけば最初に戻って、また読む。


 それを、何度も繰り返した。

 そのたびに、胸の中で形になっていくものがあった。


 真夏の悲劇は、突然起きた事故じゃない。

 ずっと昔から続いてきた物語の――終焉だった。


 そして、そんな結末へ導いた一番の咎人が、誰か。

 わたしの中で、名前がひとつに定まっていく。


 罪には、罰が要る。

 被害者の妹として、わたしが裁く。


**************************************


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