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屋上から飛び降りた幼馴染によく似た後輩が、僕の家の転がり込んできた〜自殺に至る、四つめの理由〜  作者: 秋夜紙魚


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第18話

side 黒澤ユキ


「俺、キミのこと――好きなのかもしれない」


 翌日、屋上で告げた。

 彼女は鳩が豆鉄砲みたいな顔をして、「馬鹿みたい」と吐き捨てた。


 ……うん。馬鹿みたいだ。

 自分が一番わかってる。


「返事、もらってもいいか?」


 黙る彼女に促すと、「ありえない」と一蹴された。


「ノー。好きって気持ちは、時間をかけて、一緒にいて、やっと抱くもの。……とっても尊いの」

「一目惚れって言葉もあるだろ」

「現実にない。あったとしても、容姿が気に入っただけ」

「それじゃ、だめなのか?」


 彼女は詰まった。


 容姿だって魅力の一つだ。

 彼女の言い分も、一理ある。彼女にとっては、それが正しい。


 でも、俺の気持ちが嘘かと言われると違う。

 理由なんていらない、とアカネちゃんも言っていた。


 ――もっとも。

 俺は、見た目に惹かれたわけじゃない。だから余計に、困る。


「……ってことでさ」


 身構える彼女に、なるべく優しい顔を作る。


「名前、教えてくれない?」


 静寂。

 そして、小さな笑い声が漏れた。


 押し殺したみたいなそれが、だんだん大きくなる。


「そ、そうだね。ふふ……自己紹介すらしてなかった」


 彼女は笑いながら言う。


「俺は、ユキ。黒澤ユキ」

「東雲ユウカ、よ」


 つられて、俺も笑った。

 屋上に笑い声がこだまする。


 ひとしきり笑って、俺は思い出したように言った。


「この間さ。未来がどうとか、言ってたよな」


 ユウカは迷ってから、頷いた。

 それから俺をまっすぐ見た。


「冗談で済まそうと思ったけど……気が変わった。本当だよ」


 彼女は背を向け、いつものように金網に指をかける。

 空を見上げたまま、淡々と続けた。


「突然、来るの。不意にフラッシュみたいに目の前が暗転して……気づいたら、数分前とか数時間前に戻ってる」

「未来を見るっていうより、過去に戻る……って感じ?」

「うん。たぶん、そっちの方が近い」


 無茶苦茶な話だ。

 でも、信じたいと思った。


 歩み寄るのは、近づくための最初の一歩だ。


「馬鹿みたいって思う?」

「思わない」


 俺がそう言うと、彼女は小さく「そっか」と呟いた。


「ねえ。本当に、わたしが好きなの?」

「たぶんね」

「……ならさ。わたしと心中とか、できる?」


 考える暇もなく、俺は頷いていた。

 ユウカは表情を変えない。


「……嘘」

「嘘じゃない」


 俺は今まで、好きだと言える相手がいなかった。

 大事にしたいと思ったのは、妹だけ。


 でもそれは「妹だから」じゃなくて、「兄だから」だ。

 辛い境遇の彼女を支えたい――そうすれば、空っぽの自分も埋まる気がした。


 だから、踏み出す。

 自分から進まなきゃ、何も手に入らない。


 昔、名も知らぬ誰かに教わったことだ。


***


「やあ」


 いつものベンチ。

 いつものようにアカネちゃんが待っていた。


「……どしたの、その顔」


 じっと見られて、俺は苦笑で誤魔化す。


 彼女は何か察したのか、肩を落とした。


「今日は無理そうだね」

「今日から、無理。が正しい」

「彼女でもできた?」


 昨日の流れからの推測だろう。

 でも告白は、振られた。


「そうだといいんだけど」


 俺が笑うと、アカネちゃんも快活に笑った。


「残念」


 それから、急に真顔になる。


「……いつもより元気ない?」


 俺は一歩下がって、息を吐いた。


「まあな」


 さっき、店長にバイトを辞めるって伝えてきた。

 突然でも、店長はいつも通り受け入れた。


 昨日、俺はユウカの誘いに乗った。

 心中しよう、ってやつだ。


 彼女は言った。

「死んだら、死ぬ前に戻るのかな」

「そのまま死ぬのかもしれないね」って。


 一人で死ぬのが怖いんだと思った。

 冗談半分だったとしても、俺は頷いた。


 ……ただ、それだけだ。


「会うこともなくなると思う」

「学校でも?」

「うん」


 だから、挨拶しておこうと思った。

 数は少ない。


 最近つながってる友達は、アカネちゃんと西川くらい。

 あとは、家の……妹だけ。


「あとさ。迷惑かけるかも、学校全体に」

「……何するつもりなのよ」


 訝しむ目。

 でもアカネちゃんは、あっさり言った。


「まあいいわ。じゃ、ばいばい」


 手を振って、背を向ける。

 寂しさはある。でも、こういう明快さは嫌いじゃない。


 俯いていると、遠くから声が飛んできた。


「あのさ」


 顔を上げると、絶妙な距離で立ち止まったアカネちゃんがいた。


「赤穂アカネ」

「え?」

「……だから。あたしの名前」


 沈黙。

 そこでやっと気づく。


 俺、こいつから自己紹介を受けてなかった。

 ミカの紹介で呼んでただけで、苗字は今初めて聞いた。


「赤穂、アカネちゃん」

「うん」


 とびきりの笑顔。


「忘れないでね!」


 今度こそ、走り去っていった。


「忘れないよ」


 拾う者のいない独り言を落として、俺はベンチに座る。

 携帯を取り出し、着信履歴の一番上にかけた。


 挨拶はだいたい済ませた。

 セフレのほとんどにも声をかけたし、ヒスって引っ掻かれた相手もいた。


 頬の傷は、その勲章だ。


 最後に残った二人のうちの一人。

 俺の中で、一番大きい相手。


 三コール目で出た声が、笑った。


『珍しいね。どうしたの?』


 シミュレーションしていた言葉は、全部飛んだ。

 このまま切りたい、って弱い声が囁く。


 でも、それだけは駄目だ。


「声、聞きたいって思って」

『え?』


 だから、素直になる。


「俺は、お前のこと守れたのかな?」

『……』


 返事はない。

 守れてないから、今がある。


 そう思った瞬間――彼女が、かすれる声で言った。


『――守ってくれたよ。……忘れたの?』

「……どうかな。結果として、悲しませたけど」

『そんなっ、の……』


 語尾が小さくなる。

 違う。俺が言いたいのは、皮肉じゃない。


 必死に掘り起こして、出てきた言葉を投げた。


「明日、お前の足枷をなくせるよ。じゃあな……サチ」


 俺は通話を切って、携帯の電源も落とした。

 向こうが何か言いかけた音は、無視した。


 死ぬつもりだなんて、言えなかった。

 言うべきじゃないとも思った。


 完璧な答えじゃない。

 でも、今までのすれ違いよりは――きっとマシだ。


「さて」


 大事な人への挨拶は、だいたい終わった。

 残りは、あと一人。


 あいつは明日も学校にいる。

 だから直接会おう。


 そう決めて、夜空を見上げた。


**************************************


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