表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
屋上から飛び降りた幼馴染によく似た後輩が、僕の家の転がり込んできた〜自殺に至る、四つめの理由〜  作者: 秋夜紙魚


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

17/36

第16話

side 黒澤ユキ


 学校で月島に言われた内容は、電話の続きだった。

 新しい情報はゼロ。聞き直した自分に腹が立つ。


「月島教諭の言うことを聞くのは癪だが、一理ある。もう、やめたほうがいい」


 いつの間にか、横で一部始終を聞いていた西川が言った。

 声はいつも通り平坦なのに、妙に急いている。


 俺が黙ると、西川は真正面から目を合わせてきた。


「昨日。家族と食事をして、帰りの車の中で見た。キミが女の子と歩いているところ」


 喉が詰まった。

 見られたのか。あそこを。


「駅前から少し離れたあのあたりは、ホテル街だ」


 言い切る。逃げ道を潰すみたいに。


「キミがそういう依存症だってことも、通院して治療していたことも、前に聞いた。……結局、功を奏さなかったことも」


 西川は目を逸らさない。


「どうしても、というなら。特定の相手をつくって、きちんと場所を選んだほうがいい」


 一拍。

 それから、さらっと続けた。


「キミの家は四六時中家族がいる。例えば……私の家なら、両親は共働きで帰りも遅い。うってつけだと思う」


 真剣な顔だった。

 だから俺は、見返せなかった。


 鞄を掴んで立ち上がり、そのまま教室を出た。


 西川に性欲を感じないから、じゃない。

 あいつは大事な友達で、壊したくないだけだ。


 下駄箱まで来て、時間を確認する。

 昼前。午後六時なんて、まだ遠い。


 ……でも、いいか。

 俺は来た道を引き返して、階段を上った。


「よお」


 屋上の扉は開いていた。

 あの女子生徒は、この間と同じ体勢で校庭を見下ろしている。


 俺が声をかけても、驚かない。


「午後六時以降ってのは、何かイベントでもあるわけ?」

「……別に」


 そう呟いて、彼女は俺の横を素通りしようとした。

 帰る気だ。


「待てって。俺、鍵持ってないんだよ」


 彼女は、これみよがしに溜息を吐いた。

 手には、古びた鍵。


 ――なんで持ってる。

 そう思ったけど、聞かなかった。


 俺は先に校舎へ入った。

 別に屋上に来たいわけじゃない。……たぶん。


 気づけば、俺たちは付かず離れずで下駄箱まで降り、校門まで歩いた。

 そして、彼女が俺と違う方向へ曲がろうとした瞬間、俺は呼び止めた。


「なあ、聞いていいか?」

「……なに?」


 声も表情も薄い。

 苛立ちも喜びも、見えない。


「俺たちさ。どこかで会ったこと、あるよな?」


 彼女は固まった。

 次の瞬間、ぽん、と手を打って――深々と頭を下げた。


「……ナンパ? ……ごめんなさい、無理です」

「違う違う。俺にも好みのタイプあるから」


 即否定した。

 冗談でもなく、そういう話じゃない。


「ほんとに。記憶に引っかかってんだ。確かに会った気がする」

「……」


 彼女は俺をしばらく見て、やっと小さく頷いた。


「うん」


 肯定。

 向こうも、同じ違和感を抱えてる。


「やっぱり」

「でも……すみません。わたしも、思い出せないです」

「そっか。引き止めて悪かった」


 俺は頷いて、道を譲った。


 彼女は何も言わず、歩き去っていく。

 後ろ姿を見ても、何も湧かない。


 それでも喉の奥に、魚の小骨みたいな違和感だけが残った。

 二度目の邂逅は、それで終わった。


***


「どうしたの?」


 夕方のバイトを終えて店を出ると、アカネちゃんが待っていた。

 今朝、勤務先を教えたんだった。


「別に」

「釈然としない顔してる」


 図星だった。俺は落ち着かない。

 さっき、店長に頼んでシフトを変えてもらった。


 俺はこれまで希望を出したことがない。空いてる時間に放り込まれるのが常だ。

 なのに夏休みだけは、午前と午後に分けてほしいと頼み込んだ。店長はあっさり承諾した。


 表向きの理由は「日中に学校へ行く用ができるかもしれないから」

 でも本音は違う。


 屋上のあの子が決めた「午後六時」というルールを守るためだ。

 日勤フルだと、六時ちょうどに学校へ行けない。だから午後の出勤を十九時半にずらした。


「まあいいや。それよりさ、また行こうよ。あそこ、結構集中できたんだよね」


 昨日と同じ誘いだと分かった。

 けど今日は先約がある。


 俺はスマホを取り出して見せた。


「悪い。今日は予定ある」


 このあと、そういう関係の女と飯に行く約束をしている。

 アカネちゃんは「残念。予定が狂ったなー」とぼやいた。


「デート?」

「ああ」

「そっか。なら仕方ないね」


 本当に残念そうな声だった。

 昨夜が有意義だったのは俺も認める。アカネちゃん相手だと、余計な欲が湧かなくて楽だ。

 それでも今日は、欲求を満たせる方に気持ちが傾いた。


「嫉妬してる?」


 冗談で言うと、彼女は目を丸くした。


「まさか。こう見えて一途なのです。キミは、あたしのタイプと真逆」


 胸を張る。

 一途な子が男とラブホテルに行くのか、とは口にしない。


「ま、用事あるなら引き止めても仕方ないね。ばいばい」


 アカネちゃんは踵を返した。

 俺も軽く手を振って、待ち合わせ場所へ向かった。


**************************************


応援コメント、レビューが励みになりますので、お時間があれば是非。


☆評価もお待ちしております!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ