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屋上から飛び降りた幼馴染によく似た後輩が、僕の家の転がり込んできた〜自殺に至る、四つめの理由〜  作者: 秋夜紙魚


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第13話

side 黒澤ユキ


 午後一からのバイトを終えて店を出た。

 騒がしかった駅前は、もう落ち着いている。観光地でも、所詮は田舎だ。


 駅の大時計は、二十一時半を回っていた。

 改札横のコンビニで珈琲を買い、ベンチに腰を落とす。


 今日は月島に呼び出されて、屋上の妙な子に会って、そのままバイトへ直行。

 時間がなくて、制服のままだ。


 夜にここで長居はしたくない。

 いまの俺が補導でもされたら、噂が「事実」になりかねない。


 紙コップを傾け、残りを一息で流し込んだ。

 捨てる場所を探して視線を泳がせ――そこで、目が合った。


 少し離れた場所。駅の壁にもたれて駄弁っている、若い女の子が四人。

 その中の一人、金髪に濃い化粧。いかにも「遊んでます」って感じの子が、こっちを見ていた。


 知り合いだ。今回は、ちゃんと覚えてる。


 視線を返すと、ミカちゃん(苗字は知らない)が軽く手を振った。

 俺も手を振り返す。


 するとミカちゃんは、残りの三人を連れて、ぞろぞろこっちへ来た。


「ミカ、知り合い?」


 黒に近い茶髪の子が、ミカちゃんに聞いた。

 ミカちゃんは「うん」と頷いて、俺を上目遣いで見た。


「友達、かな」


 嘘じゃない。

 俺も曖昧に頷いた。


 ミカちゃんが俺の腕をぽんぽん叩く。

 男受けしそうな笑顔を、わざと作って。


「久しぶりじゃん、ゆっくん。最近忙しかったの?」

「あー……夏休みは補修とか、色々」


 前に会ったのは梅雨の頃だった。

 二、三ヶ月は空いてるはずだ。


「ゆっくんの学校、偏差値高いもんねー」


 ミカちゃんが、茶髪の子を指で示す。


「あ、アカネも一緒の高校だっけ?」


 アカネ。

 俺の学校の一年か。そりゃ面識もない。


「最低限勉強してたら、補修なんて無いと思うけど」


 口調も目も、あからさまに冷たい。

 歓迎されてないのが分かる。


 それでも他の二人は、わりとノリがいい。

 質問が飛んで、適当に答えて、場をつなぐ。


 その間、アカネのスマホが鳴った。

 彼女は少し距離を取って、通話を始める。


「久しぶりだし、ご飯行こうよ」


 ミカちゃんが言った。

 一人は「いいじゃん」と乗り気で、もう一人は微妙な顔をして立ち上がる。


「今日、そういえば用事あるんだった。わたし帰るねー」


 その子はさっさと去っていった。


「あれ?」


 戻ってきたアカネは、逃げるタイミングを失っていた。

 結局、ずるずる俺たちに付いてくることになった。


 駅近のファーストフード店。

 二階席で、ハンバーガーにかぶりつく。


 会計は全部、俺が払った。

 ミカちゃんが当然みたいに俺の後ろに立ってたから、そういう流れになる。


 チェーン店だ。痛い出費じゃない。

 残り二人分も、ついでに払った。


 席について、軽く自己紹介。

 ミカちゃんと同じ高校がサキちゃん。


 俺と同じ高校の一年が、アカネちゃん。

 やっぱり、さっきの子だ。


「それでさー、担任の平川ってのが、マジむかつくやつでさー」


 ミカちゃんはポテトをつまみながら、ゲラゲラ笑って話す。

 サキちゃんも「わかるー」と頷く。


 俺も真似して相槌を打った。

 アカネだけは黙って、スマホをいじりながらシェイクを飲んでいる。


 たぶん、いつもこうなんだろう。

 こういう子は時々いる。たいてい、一番身持ちが固い。


 俺の頭の中は、もう下品な算段でいっぱいだった。

 ミカちゃんを誘うか。サキちゃんでもいいか。――そんなこと。


 だから今は、機嫌を損ねないように取り付く。

 俺にとっては、お茶の子さいさいだ。


 ミカちゃんみたいな子は、とにかく話を聞く。

 頷くだけじゃ足りないから、適当に感嘆も混ぜる。


 サキちゃんみたいな子には、たまに話を振る。

 それで十分、回る。


「……きもちわる」


 小さい声。

 でも、聞き逃さなかった。


 アカネの呟きだ。

 ミカちゃんとサキちゃんは気づいてない。矛先は、たぶん俺。


 ニコニコして、頷いて、合いの手を入れるだけの機械。

 客観的に見りゃ、確かに気持ち悪い。


 でも、プライドなんて元からない。

 俺は何も聞こえなかったことにして、また笑って頷いた。


 どうでもいい話に、どうでもいい相槌を打ちながら。


***


「それじゃあねー!」


 結局その日は、飯を奢らされて終わりだった。

 二人きりで……みたいな展開は、来なかった。


 笑顔で三人を見送りながら、心の中だけで叫ぶ。

 くそ。残念。


「はぁ……」


 俺は駅前のベンチに戻ってきた。

 誰かに連絡する気にもならない。遅い時間だし、どうせ返ってこない。


「ねえ」


 声。女の声。

 俺は反射で、笑顔を作って顔を上げた。


 ――アカネちゃんだった。さっき別れたはずの。


 俺の笑顔を見るなり、露骨に顔をしかめる。

 そして、わりと大きめに。


「きもちわるいね、貴方」

「……どうしたの?」


 罵倒はスルーして聞くと、アカネちゃんは無表情のまま俺の隣に座った。

 距離は、ちゃんと空けて。


 言いたいことがある。そういう座り方だ。

 俺は黙って待った。


 アカネちゃんは小さく頷いて、こっちを見る。


「さっき、ミカ誘おうと思ってた?」

「バレてた?」

「ま、あれだけ気持ち悪かったらね」


 容赦がない。

 続けて、息を吐くみたいに言う。


「顔の作りはいいっぽいけど、あれじゃ顔しか見てない子しか釣れないよ。ミカはそういうタイプだけど、いま彼氏いるし。誘っても乗らないと思う」


 なるほど。

 だから、あの空気だったのか。


「そっか。忠告ありがと」


 俺は軽く笑って――つい、口が滑った。


「じゃ、アカネちゃん、今晩どう?」


 言った瞬間、やべ、と思った。

 すぐ訂正しようとして――


「いいよ」


 あっさり返ってきて、俺の方が固まった。


「……へえ」


 この中で一番めんどくさそうなのに。

 でも、次の一言で納得する。


「セックスはしないけどね」

「あー……」


 世間知らずってやつか。

 男の頭の中を、甘く見てる。


「キミが一番無理だと思ったよ」

「正解。あたし処女だし」

「あー……俺、処女はちょっと」

「だから、セックスはしないってば」


 その言い分でラブホまで付いてくるなら、意味ないだろ。

 俺は、無理強いはしない。しないけど。


「どうせ暇なんでしょ?」


 アカネちゃんは淡々と言う。


「それに、ラブホテル。ちょっと入ってみたかったし」


 俺は深く溜息を吐いた。

 まあ、今日はもう、これ以上は無理だ。


 立ち上がって、顎で促す。


「……付いて来て」


 アカネちゃんは素直に立って、俺の後ろに付いた。


 あとでちゃんと、世の中ってやつを教えとく。

 変な意味じゃなくて、ほんとに。


**************************************


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