動いた者
7話です。
よろしくです。
翌日、私とマギアは彼の服を買うために、近くのショッピングモールへと向かうことになった。おじいちゃんの服をこれ以上クロップド丈にするのは申し訳ない。
「カンナ、寄りたいところがあるんだが、いいか?」
ショッピングモールに行く前に寄りたいところがあるらしい。
「いいけど、どこに?」
「それはな、権蔵さんのところだ」
刀鍛冶の権蔵さん。一昨日、大剣を鍛えてやると約束していた。
「おっ! お前この間の彼氏君じゃねえか! 例の件か?」
「その通りだ。これを頼みたい」
そう言うと、背中から大剣を降ろし、権蔵さんの工房の台の上に置いた。
「やっぱりな……こいつは……見たことがねえな……」
見たことがない? どういうことだ。
「こいつを構成している鉱石だ……鉄に似ているが違うな……おもしれぇ! お代は要らねえから少し貸してくれ! 必ず鍛えてやる!」
「いいのか? 無償でやってくれるならありがたいが」
「いいってことよ! 俺も色々いじくりてえから迷惑料と思ってくれ!」
「願ったりだ! 感謝する!」
店を出た時、解放されたようにマギアが言った。
「いや~背中が軽いな!」
「あれ、重そうだったもんね」
「そんなに重くはないぞ……確か、9kgぐらいか……」
いや……それは十分重いだろ……。
ショッピングモールまでの道中で、気づいたことがある。
制服を着た警備員の数が増えた気がする。
「見張りの数が増えたな……」
「うん……」
日常との違いは、目に見えて分かった。
「ここがショッピングモールか……凄く大きいな……」
ショッピングモール……祭角一丁目の商店街の店が軒並み潰れた要因。素直に言うと好きにはなれない。
「そうだね……早く買うもの買って帰ろう……」
「……ん、ああ……」
マギアにはXXLサイズの服を買った。
初めて、こんなサイズの服を買っただろう。この先もきっと買うことはない。
「似合ってるんじゃない?」
「そうか? ならそうだな!」
私には正直、服のコーデとかは分からない。現に私の服もマネキンの真似だ。
そうだ……この前消費したグミの補充をしなければ。
「マギア、もう一つ寄るところあるけどいい?」
「構わない! 行こうか」
菓子コーナーでグミを取り、レジへ向かおうとした時、違和感に気づく。
人の流れが減っている。
いや、違う。
減っているのではなく――逃げている。
その時、店の奥の方から声が聞こえた。
「来るなっ……俺に近寄るじゃねえ!」
声のする方に行くと、痩せ細った男が警備員相手に暴れていた。
足下には数人倒れている。
「すぐに終わらせる! そこに居てくれ!」
気づけば、マギアは走っていた。拳が空気を押し、男をぶち抜く。
殴られた男はラックに激突した。
「……安心しろ……本気では殴っていない……」
男が立ち上がる。
「……なんなんだよ……お前は……」
「俺はマギア……」
「名前は聞いてねえよ……俺は……俺は生きる為にやってんだ! 邪魔すんな!」
男がマギアに向かっていく。
「甘いっ!」
マギアのカウンターが決まった。綺麗に鳩尾に拳が入り込む。
血が滴り落ちる。
「ッ……!」
その血はマギアのものだった。
拳が触れた瞬間、男の腹から鉱石が“生えた”ように見えた。
「へっへへ……お前が悪いんだ……」
「ヒューマ持ちか……」
恐らくは硬化系か……いや、違う……どうする……この拳はもう使い物にならない……今は距離を取らなくては……
「……クソっ……やるなら……もう……やらねえと……お前が邪魔するから悪い!」
その時、男の体から石礫が放出された。
「……鉱石! 避けろ!」
無数に散らばる石礫は、相手を選ばない。
マギアは避けられそうだったが、倒れている警備員を庇い、複数箇所に裂傷を負った。
「やられたな……これでは……うまく動けない……」
マギアの足には大小複数の礫が刺さっていた。
「……悪いな……俺が生きる為に死んでくれよ……」
マギアが殺される……私は何もできない?
あのマギアが押されている相手に、私が勝てるわけがない。
でも――
「……悪いが……俺は死ぬわけにはいかない……やるべきことが残っている……」
男がマギアに近づく。
……嫌だ……嫌だ……
マギアを失うのは――
嫌だ!!
その時の私は何をしたのか覚えていない。考えてもいなかった。
身体が、マギアを助けたい一心で動いた。
世界が、一本の線になった。
気づいた時には、男の右腕があり得ない方向に折れ曲がっていた。
血管が焼けるように痛い。
耳鳴りがして、心臓が暴れている。
速すぎて何が起こったのか分からない。
身体が少しも動かない。
静寂を切り裂いたのは男の叫び声だった。
「なっ?……痛ええええ!!……は? なんだよ……お前もかよ……痛えよ……」
男の腕の鉱石が剥がれている。恐らく、私が壊したのだろう。
「……カンナ!」
マギアが私の方に寄ってきた。
「大丈夫か!? 無茶をするな!!」
どの口が言っているのだろうか。
しかし、状況はまだ危険だ。男はまだ動けそうだ。
私もマギアも、まともに戦える状態ではない。
「あ……」
男が何かを呟いた。
視線の先に何かがいるのか。
その時だった。
パチッ――
空気が弾けるような音がした。
凄まじい衝撃が走り、裂けた空気の振動が遅れて耳に届く。
男の右肩の鉱石が砕け散った。
「対象、制圧。やれ」
銃火器を携帯した武装集団が男を取り囲んだ。
「ひっ……やめてくれ……殺さないでくれ!」
男は身体に纏っていた鉱石を保持できないのか、外装が崩れていく。
「カンナ……動けるか……逃げるぞ……」
「ごめん……無理……」
マギアは無言で私を担ぎ上げた。
遠くで「作戦完了」の声が響く。
二人とも傷だらけだった。
嫌というほど、私は“社会の変化”をこの身で知った。
戦闘回のカロリー消費が凄い。




