噛み合う歯車
18話です。
炎帝編ももう終わりです。
「――……終わりだ」
まだだ……死んでたまるか……カンナとの約束があるんだ!!
その時、胸に感触があるのを感じた。投げナイフだ。
ジョセフが戦闘前に渡してくれたものだ。
俺はそれを力任せに投げつけた。
ナイフは炎帝の顔へ一直線に飛んでいく。
ナイフは炎帝の顔を浅く切り裂いた。
驚いたかのように顔に手を当てる。
その隙に大剣を掴み、その場を離れた。
痛みなど今は気にしてたまるか。そんなことどうだっていい。
今は勝って約束を守るんだ!!
「フフ……久しぶりだな……傷を負ったのは……名を聞こう」
「マギアだ……」
「マギアか……覚えておこう……貴様というヒューマを……」
そうか……それは悪いことをしたな……
「悪いな……俺はノーヒューマ(人間ではない)だ!!」
「何?」
声と目で分かる。動揺している。
ノーヒューマに手こずっていた事実が相当堪えたか……。
――射程距離だ!!
振り下ろされた大剣を避けるほどの距離もない炎帝は、腕で受け止めた。
踏ん張りが効いておらず、威力は低い。致命打には届かない。
しかし、炎帝の顔は怒りに満ちていた。
「貴様はノーヒューマ(人間ではない)か!! くっ……ここで……焼き殺してくれる!!」
咄嗟に距離を取る。
……炎を先ほどから出さないのは何故だ。
溜め……違う。溜めじゃない。
呼吸だ。
次の攻撃で見るべきは口元だ。
来る……吸う……撃つ……
――大きく息を吸った。
当たりだ!!
狙うタイミングは二つ。
大きく吸った後。
もしくは、息を吸った瞬間。
だが、今の炎帝には隙がない。
「…………おのれ……私がノーヒューマ如きに手こずるとは!」
怒りを煽るか……。
「俺の仲間もノーヒューマだ!」
「俺の仲間はお前のヒューマ集団を倒した! 雷雲もだ!」
「なっ……き……貴様! 私を愚弄するか!!」
息を吸う。炎を撃つ。怒りで直線的だ。いける――!!
その時だった。
炎が目の前に迫る。
何ッ?
勢いで躱したが……左肩を焼かれた。
「私から冷静さを奪おうとしたのだろう……無駄な努力だ……」
「そのような動きは何千回も見てきた……ノーヒューマを焼くときにな……」
今のは……俺の最高で最速の動き……。
届かないなら……万事休すか……。
「終わらせよう……」
再び炎が迫る。
マギアは大剣で受けることしかできなかった。
幾度も炎帝の炎を受けてきた大剣は限界に近い。
熱で外装が溶け始めている。
まずい……何かないのか!! この状況を打開する何か!!
「……助けてくれて……ありがと……」
「道具に頼るうちは、まだまだだ」
「道具ってのはな、力しか持ってねえ奴に振られるのが一番嫌いなんだよ」
「お前の剣は……重いだけだ」
「“技術”を見た、成長したんだよ」
「“力”だけじゃねえ。“技”も乗る」
……あれだ!!
死ぬ気で、あの時の動きを再現しろ!!
炎を振り払う。
溶けかけた大剣は弱々しく、それでも炎帝に牙を向ける。
頭の中で敗北が何度も繰り返される。
権蔵さんの言葉。柳さんの技。
二人の技術。カンナとの約束。
――全部、乗せる。
炎帝の呼吸が戻った瞬間、マギアは飛び出した。
どう動いたかは覚えていない。
柳さんの歩法を真似たつもりだった。
不格好だったろう。
不完全だったろう。
だが、それでよかった。
その動きが炎帝の目を惑わせた。
見慣れぬ軌道。
分身したかのような錯覚。
炎が揺らぐ。
「取ったっ!!」
横薙ぎ。
確かに捉えた。
血を吐く。
それでも炎帝は倒れない。
「私が……ノーヒューマに……負けるだと……ありえない……ノーヒューマの力如きに!!」
思想で立っている。
「力だけじゃない」
「俺の全てが……“技術”が乗ったノーヒューマの一撃だ!!」
「私の40年が……こんな小僧に!!」
「俺の“技術”は人間が数百年以上かけた力だ!! たかが人間一人が勝てるわけがない!!」
その一撃は十分だった。
炎帝がよろめき、崩れる。
「……殺せ……私を殺せ……」
その眼は、まだ死んでいない。
「ああ……言い残すことはあるか」
「私が……死んでも……ヒューマ(人間)は死なぬ!」
「ああ……人間は死なない……俺たちの誰かが生きる限り……」
大剣が振り下ろされる。
炎が消える。
――だが……お前のような人間は、止めなければならない。
マギアはその場に立ち、目を閉じた。
祈るように。
戦場にはノーヒューマ(人間)が立っていた。
松とジョセフの歓声が響く。
勝者――
『ノーヒューマ(人間)』
炎帝は作中最強格として書きました。




