偶然の必然
16話でーす。
雷雲はその動物的な直感で、気配を感じ取った。
揺らぐ大気の奥に、動くものがいることを。
そこに立っていたのは――
殺したはずの女だった。
「な……馬鹿な……俺様の……雷を……」
――炎帝直近の部下『雷雲』――
彼のヒューマは自前発電ではなく、待機電位差を利用した攻撃である。
攻撃には溜めが必要で、速射はできない。
落雷時には暗雲から軽い放電が起きる。
彼のヒューマを受けて、生き残った者はいない。
その気になれば、雷で狙撃を行うなどの芸当もできるが、出力が上がり、気が立っているならば話は別だ。
狙いがずれることも多い。
一方、カンナのヒューマ『充電』は、感電することにより外部から電気を取り込み、貯めることができる。
彼女の最大出力、電気抵抗力、貯蔵量は、
“受け止めた電位差と流入電荷量”に比例して上昇する。
彼女は“電位差”を取り込むのではなく、
“電荷”を再配置する。
雷の電圧は数千万〜一億Vと言われている。
雷雲の雷は超高電圧である。
しかし、持続時間は極短でマイクロ秒である。
これは一つの賭けであった。
カンナはヒューマの特性を理解していた。
しかし、日常には雷に匹敵する電圧は存在しない。
彼女は準備をしていたのだ。
その電圧に肉体が耐えうる準備を。
雷雲を煽ることで、雷を撃たせるタイミングを誘発。
出力が上がり、コントロールが乱れた雷は肉体を狙い撃ちすることはできない。
逃げ回っていた際には、倒壊した家屋から釘などの金属を拝借し、靴の下に落雷前に敷き詰めた。
金属は逆に電流を集中させる可能性があるが、カンナは一点集中を避けるため金属を“点”ではなく“面”で配置し、足裏の電位を均一化。
これは身体を通すのではなく、自分を“避雷針の一部”にするためであった。
そして足裏全体を瞬間的に等電位化し、体内へ落ちる経路を潰した。
さらに自身の身体に電気の流れを事前に作っておくことで、電流が通り抜ける回路を即興で構築。
体の表面を滑るように、心臓を避けて電流が通過した。
フラッシュオーバー。
本来なら致命的な現象。
だが彼女はそれを“制御”した。
その結果、僅か0.001秒にも満たない雷雲の一撃を我が物としたのだ。
彼女の出力、抵抗力、貯蔵量は被弾時の比ではない。
「嘘だろ……ありえねえ……」
「……賭けだったよ……五分五分の……生きて帰れるかどうかの……記憶すら飛ぶところだったよ……」
これは本当に命がけの賭けだった……。
私の身体も無傷ではない。
鼓膜は破れ、皮膚は焦げ、回路に使った血管はボロボロだ。
しかし、この雷を受けなければ、私は雷雲にいずれ負けていた。
死ぬならせめてと、私は賭けに出た。これが結果。
「そんな偶然が! あってたまるか!!」
「偶然じゃない……これは私が掻き集めた結果だ」
「……じゃあ……また殺してやるよ!!」
――35%――
これはカンナの肉体が耐えることができる範囲での最大出力である。
それをカンナは勘で設定した。
その動体視力と身体性能は――
――ドゴォオォン――
落ちる雷を見極め、避けることすら可能にした。
見える……避けられる……。
今の私ならば……この一撃も……
通る!!
流れるように加速した彼女の身体は輪郭を消し、雷雲を捉える。
雷雲には、踏み切る音が遅れて聞こえただろう。
空を切った彼女の脚は鉄パイプを跳ね飛ばし、雷雲の腕を砕いた。
「てめっ……くそ……速っ……!」
そして周囲には、先ほど雷雲が生成した積乱雲が低位置に存在し、倒壊した建物はカンナのみが走れる加速装置になっていた。
膝が笑う。
視界が二重になる。
それでも踏み込む。
「あなたは目先のことしか見えていなかった!だからっ……見えているものは私の方が上だ」
閃光が積乱雲の中を駆け回り、雷雲に迫る。
闇雲に落とす雷は制御を失い、閃光を迎撃することはできなかった。
雷雲はその場を機敏に動くことはできなかった。
自らが作り出した足場が足を引っ張る。
そして、積乱雲から雷が落ちると同時に、振り下ろされた閃光が雷雲の顎を砕いた。
――ドゴゴオォン――
その姿は、見る者によっては落雷そのものだった。
「……にっ……勝ち……」
勝利を誇る笑顔には幼さがあり、震えるピースサインは、確かな勝利の確信だった。
しかし、その脚、肉体は限界に達していた。
両雄が倒れ、その戦場には生き残ったスラムの人間しか存在しなかった。
その場の誰も歓声を上げなかった。
しかし、この場の勝者は存在した。
『勝者 スラム』
能力説明をくどくないために頑張りました。
理系の人から見たら笑える文章だと思います。




