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Huma Gear  作者: 近藤海月
『炎帝編』

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13/19

遠雷

13話です。


あの騒動の後、街の住民たちは何事もなかったかのように日常へ戻っていた。

人が一人焼死したことを理解しながらも、笑顔を振る舞い、生活を続けている。

その不気味さと気持ち悪さのせいで、頭がおかしくなりそうだった。

胃液がこみ上げ、身体が限界に近いことが分かる。

私は急いで、この街から出た。


「ッ!カンナ!大丈夫か!?」


戻ってきた私を見て、マギアが支える。


「大丈夫……ちょっとだけ休ませて……」

呼吸を整え、身体を正常な状態へ戻す。

そうしなければ、狂ってしまいそうだった。


「……いいか……」

「うん……もう大丈夫……」

「何を見たんだ……」

「……街は至って正常だった……人が……炎帝のヒューマを見た……人が死んだのに気にしていなかった……」

「炎帝の……ヒューマか……これが“正常”になってしまっているのだな……」


「一つ、昔話をしてもいいか……」

「大丈夫だけど……」

「俺は炎帝と戦ったことがある……正確には……蹂躙だったがな……」


「炎帝の炎は俺たちの逃げ場を一つも作らなかった……一人、また一人と焼き殺されていった……俺はそこから逃げることしかできなかった……」

「その時に思い知ったんだ……ある噂を」

「噂って……」

「その噂は『ヒューマを究めた者は“神”と呼ばれる』という内容だった」

「奴が『炎神』と呼ばれていたのは聞いていたが……あの時の奴は想像以上だった……俺たちにできるのは……殺されないよう祈ることだけだった……」

人を超えた者が“神”になる。

ヒューマを究めれば、神になるか……皮肉な言葉だ。


「すまないな……こんな暗い話をしてしまって……」

「いいよ……そうだ、他にもそんな“神”はいるの?」

マギアは少し考えるように視線を落とした。


「神か……確か、水龍は『水神』と呼ばれ、炎帝と同程度の力を持つと聞く……あとは雷雲らいうんか……いや……既に『雷神』か……」


「水神は炎帝と敵対関係にあるが……雷雲は炎帝の直参の幹部だ」

「あんな奴が他にも……」

炎帝の力が強大であることを、改めて思い知らされた。


「……よし……ノーシティに戻ろうか……カンナも疲れているだろ……」

「暗いね……あっちの方……雨でも降るのかな……」

「そうかもな……早く帰ろう……さあ、乗ってくれ」

マギアとカンナはセントラルタウンを後にした。


――炎帝の私室――

炎帝はセントラルタウンの全てを牛耳っている。

しかし彼の部屋には、必要なものしか揃っていない。

「炎帝様……見事な演説でした……私、美園みその、感動いたしました」

「そうか……水を持ってきてくれ……」

「かしこまりました……」


秘書が退室する。

炎帝は椅子に服を掛けた。

隠れていた肌には、軽い火傷が残っている。

コンコン、とノックの音。


「炎帝様、ご所望の品です」

「助かる……君は……私の思想に賛同してくれているのだな……」

「……ええ。この美園、炎帝様の志にお仕えする一心です」

「……ノーシティと呼ばれる場所を、ヒューマでなくそうと考えている……あそこは膿だ……膿は取り除かねばならない……」


「膿が消えれば……あとは水龍を殺すだけ……そうすれば……この街だけでなく、社会も安定する」

「素晴らしいお考えです。誰が参加するのですか? その、ノーシティを消すのに」

「雷雲を使おうと思っている……」

「『雷神』様ですか! あの方は貴方様の後継者としても話題ですね!」

炎帝は遠くの黒い空を見て言った。


「雷雲、奴は器ではない。ただのヒューマだ……」

炎帝の視線の先、山に暗雲が立ち込める。


――ドゴォオン――


「へっへっへ! 見たか? 俺様の一撃を! あの大木を真っ二つだ!」

「さすがです!」「素晴らしいヒューマ能力!」「いよっ! 雷雲様!」

その時、空気が変わった。

周囲の視線は、雷雲の名を呼んだ者に集まる。


「てめぇ! 俺様のことは『雷神』って呼べって言ったよな!!」

その者は顔を青ざめさせ、地に伏せた。

「申し訳ございません!!」


しかし、雷雲の表情は憤怒に染まっている。

「許せねえよな!! 死ねっ!!」

雷雲が手をかざすと、上空に暗雲が形成された。

その者を残し、周囲は離れていく。

雲が育ち、閃光が走る。


――ドゴォオン!!――


雷は光の線を描き、部下の身体を沿うように落ちた。

「うぎゃあああ……あ……あうう……」

不幸中の幸いか、即死は免れた。

しかしそれは、余計な苦しみを与えただけだった。

誰も近づかない。

触れれば、次は自分が撃たれる。

やがて、その身体は痙攣を止めた。


「見たか? 俺様の雷撃!! へっへっへ……俺様は水龍にも劣らない……なぜなら炎帝に選ばれたヒューマだからな!!」

「そのとおりです!」「参りましょう!」

「そうだな!! 最後に一発だけ落として帰るか!!」


――ドゴォオン――


「遠くで雷が鳴っているな……」

「そうだね……かなり遠い……」

カンナたちは既にノーシティへ戻っていた。


「マギア……私……今、炎帝を倒したいって……思っている」

マギアは一瞬驚き、そして静かに言った。

「……正直に言うと……その考えには賛同できない……奴に挑むということは……命を無駄にしてもいいということだ」

「それでも……私は……誰かを虐げてできている世界は許せない……この気持ちが何なのかは分からない……でも……私は私の気持ちに嘘をつきたくない」

マギアはゆっくりと、その言葉を咀嚼した。


「……そうだな……俺もだ……こんな世界は変えたい……協力してくれ、カンナ」

「うん」


私の中にあったのは、正義心や反逆心ではないと思う。

その正体が分かるのは、もっと後のことだ。

だが、この選択は間違いではない。

  「私は」

  「俺は」

  

 「炎帝を倒す」

帰り路もマギアがカンナをおぶって帰りました。


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