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Huma Gear  作者: 近藤海月


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1/4

非日常

始めましてです。

ジャンルをSFにするのか、文芸にするのかで20分ぐらい悩みました。


ーーーーーーーーーーーーー


"Yes, it's morning!" or "Oh no, it's morning..." depends on your perspective. - Wayne W. Dyer


(「よし、朝だ!」というのも、「あーあ、朝か…」というのも、あなたの考え方次第だ。<ウェイン・W・ダイアー>)


ーーーーーーーーーーーーー


ーいつもと同じような朝が始まった。いつもの時間に家を出て、いつもの駅まで歩き、いつもの改札をくぐり、今日も準急に乗る。

いつもと少し違うところはあれど、私の日常のルーティンは変わらない。


ーー〇〇駅での事故により運行が遅れてしまい申し訳ございません。ーー


定型文のようなアナウンスが耳に流れる。

事故なんかで私の日常は崩れることはなく、今日も機械のように学校へ向かわないといけない。

変わらぬ時間割に変わらぬ交友関係、そんなこんなで一駅二駅と電車が揺れる。

この準急の末端の号車の席は私以外が使っているのを見たことがない。

過疎という言葉が、妙に現実味を帯びてきた気がした。

もう着く頃合いだろう。

8時42分、私が電車を降りる時間だ。


後はいつも通りに改札をくぐってやけに遠い学校まで歩くだけだ。


そう、いつも通りに、この日もそのつもりだった。

思えばやけに警察を見かけた気もする。

そういう日常が崩れる吉兆はあったのだろう。

私が観測していないだけで。


その時、目の前が割れた。

割れた。いや、ヒビが入ったのだ。空間に亀裂が刻まれた。


何かが割れたような空間から人の手が出てきた。


咄嗟の出来事に人は反応できないとよく言うがあれは本当だ。私はその現象を前に立ち尽くした。


そして空間から声がした。

「オラッ!!」

手を中心にパリンとガラスが割れるように空間が砕けた。


そこから人が現れた。

大きさで言うと190cmほどだろうか、私の身長が162cmだから、30cmぐらいの身長差は感じられた。


「何だ?ここは?おい!嬢ちゃん、ここはなんて場所だ?」


喋った。

……いや、喋るか、人だし。

心は冷静だったが思うようには声も出ず、思考だけが回っていた。


「チッ!だんまりかよ…まぁ…いいや、見たところ平和そうで金もありそうだな…治安がいい顔をしてるぜ」


大男は恐喝をしてきた。金を渡せば見逃してもらえるのか、私の声は外に出ず、代わりに足がくるりと180°回転し背中を見せ、逃げ出してしまった。


「あっ!!てめぇ!逃げんじゃねえ!!」


走り出したのはいいが、どこに逃げればいい、私ではあの大男には勝てないのは分かっている。それに今止まっても痛い目に遭うことも想像に難くないし、何より怖い。

大男がどれぐらい足が速いかは不明だが、比べるまでもなく、私の方が遅い気がした。


走り始めて分かったことがある。これは無理だ、すぐに追いつかれる。幸い足の速さは同じか少し遅い程度のようだが、凄まじい威圧感と恐怖感に今にも吐きそうだ。


怒号が聞こえるが何を言っているのか分からない。

でも耳には入らないが、声が肌に直接突き刺さってくるような恐ろしさがある。


誰もいないのか?助けてくれる人は、こんなにうるさいやつが騒いでいるのにおかしい。

もう!!私とコイツしかこの世に存在しないのか。


道は分かるのに、どこにいるかは分からない。何でこんなに冷静でいられるのだ?私は。

くそ、自分の限界が来ていることが理解できるのが腹立たしい。足が重いし、冷たい空気が肺を襲う。

理不尽だけを体感できている。


あ、

冷たい…

また世界が180°回転した気がする。

こけた。

これは追いつかれるな、…あ、終わったな。

それを理解したのはコンクリの冷たさを体感したからだ。

今から立つのに私の足が言うことを聞くわけがない。

私のことは私が一番知っている。


「ハァ…ハァ…やっと…追いついたぜ……手間かけさせやがって……」


大男も疲れているようだけど、私も同様だ。逃げたことで怒りを買っているはずだし、この一連の流れも更に追い込みをかけている。


「……ふぅ~……よし…じゃあ…やるか…」


大男が値打ちをするような目でこちらを見ていることが体感的に分かる。

グフグフと言う気持ち悪い笑いはこの後の出来事を安易に想像させた。


大男がこちらに歩いてくる。

一歩、一歩、距離が近づく度に心臓が耳から飛び出てしまう。息を整えられない…これは走ったからではない。走ったのも関係あるだろうが……要因は目の前だ。


その時だった。

空気が変わる。


それは非日常の再来だった。

それは、私に“見えてしまった”。

また、ヒビが空間に入る。

ピシピシと亀裂が走る。

2度目の出来事は考えずとも分かる。

また、理不尽がやってくるのだ。

「嘘…嘘……いやだ…」

初めて声が出た。理性的な声ではないと…分かる。

反射という本能が事象を否定したがっている。

ヒビが広がる度に絶望が歩いてくる。大男も現象を前に動けていない。


逃げなくては…逃げないと…逃げろ…私。

理性を上回る本能的な恐怖が私の身体を支配する。


その時が来たのが分かる。

時間にすると10秒程度だったが、私からすれば10分にも永遠にも感じられる時間だった。


空間を引き裂いたのは鉄の塊だった。

空気の金切声を初めて聞いた。思わず耳を塞いだ。

バリンと破片が飛び散ったように思えたが、何も周囲には飛んでいない。


私が鉄の塊と錯覚したのは大剣だった。

これまた大男と同じぐらいの男が現れた。

男は私の方を一瞥した。

その澄ましたような顔は私に安心感を与えたような気もする。全てはあの大男のせいだが。


動かなかった大男が動いた。

「てめぇは!!さっきのイカれ野郎!!」

大男は激昂し男の方に拳を握り向かった。

鉄の塊――大剣は大男を捉えた。

そうとしか思えない。

事実として大男は大きな音ともにコンクリに打ち付けられていたのだから。


コンクリが砕けた衝撃が響いた。

私には見えていなかったが、それでも分かった。

この男は強い。私が少し安心してしまうほどに。


瓦礫の中から大男が飛び出てきた。

「クソ!!んあ!てめぇ!そんな目で見やがって!俺を舐めてんじゃねえぞ!!」

男の眼は見えないが、冷たい眼をしているのだと推測できる。

砕けた瓦礫が浮いている。

瓦礫はまるで磁石に引き寄せられる金属のように大男の腕に纏わりついた。

「こっからは本気だ!!ぶっ殺してやる!!」

大男は癇癪を起こしたかのように壁を殴った。

ドゴォと鈍い音が静寂の中で主張する。

この空間で喋っているのは大男だけである。

厚さ180㎜以上はある鉄筋コンクリートの壁に穴を空けた。

そして砕けた瓦礫がまた腕によって巻き取られる。

「てめぇを殺した後はそこの女だ!!」

無茶苦茶だ、こっちを名指ししてくるとは、元はといえばそっちが襲ってきたのだろう。


戦いが始まる前の緊張感に巻き込まれた私は唾を飲み込むタイミングを逃していた。

思考は依然として冷静だが、身体は異常だと察知している。


「…ゴクッ……」


大剣の男がいた床が弾けた、大男がそこを殴ったのだ。

破片がこちらに飛び散ってくるが目の前の現象に気を取られていた私には些細なことだった。

私の中では、彼がどこに消えたという話題で埋め尽くされている。


「どこだ!出てきやが」

壁だと、私には思えた。見えたわけじゃない。ただ、観測できただけだ。たまたま目に入ったがその後の事象を観測することはできなかった。


壁から飛び立った彼は恐らく大男に攻撃を行ったのだろう。

何をしたのかは不明だが、彼が大男を攻撃した。この事実も大男の肉体が立証していた。

「…クソっ……こいつ……ちょこまかと…」


大男がふらつきながら言っている。大男も大剣の彼を捉えていなかった。


その時だった、鉄の塊、改め大剣は空を舞い、大男の脳天にめりこんだ。その動きは素早かったが静止画のようにくっきりと明確に見えた。

大男は膝から崩れ落ちるように倒れた。

頭は大剣が当たったところが凹んでいる。

それを見ているだけで、痛みが想像できる。


彼は大剣を担ぎ背中に固定した。

そしてキョロキョロと周りを見渡して再び私のことを見てきた。

「なに?」

思わず声が出てしまった。しかも結構機嫌の悪い時のような低い声で。

無愛想だし申し訳ない。

しばらくして、彼は何かに気づいたかのような顔をした。


「…あ……大丈夫かい?……その…立てるか?」

心配をされた…どうやら助けてくれたようだ。

「……あ…えと…助けてくれて…ありがと…」

彼は私の言葉を聞いてから少し黙ったように見えた。

「……!…ど…どういたしまして…!へへ…」

そう言いながら彼は棒立ちを続けていた。

「…手を…」

私に手を差し伸べてきた。私は迎えるように受け取る。

「…ん……ありがと」

言葉を返すと彼は

「へへ……へ…」

と変な笑い方をしていた。

変な笑いの裏側で、サイレンの音と共に現実が近づいている。


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