3話 発言権多すぎ。私、女なんですけど?
会議が始まった。
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普段の会議は、ほとんどおじさんたちが大声で喋って終わりだ。
若い社員はうんうん頷いてればいい。
女なんて特にそう。
資料を配ってお茶を出したら、あとは愛想笑いしてれば十分。
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なのに今日は違った。
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「次の企画案について、意見があれば。」
課長の声に真っ先に手を挙げたのは、
隣のチームの女上司だった。
四十手前、バリキャリで独身。
いつもはおじさん連中に睨まれて、
空気を読んで黙ってるのに。
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「私はこう思います。」
きっぱり言い切って、資料をめくる音が響いた。
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そしたら、他の若手男子も「それいいですね」とか、
「僕はこういう案も」とか言い出す。
あれ?
空気を読むって概念どこ行った?
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私はもちろん黙ってる。
モテる女は会議では空気。
何も言わなくても可愛ければ許される。
そういうもんだと思ってた。
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でも今日は、何かが変だ。
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女上司が発言しても、誰も潰しにかからない。
普段なら「いやそれは~」って、
古株おじさんが声を被せて潰すはずなのに。
誰も潰さない。
逆に「詳しく教えて」って追加で質問してる。
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なにこれ。
この会社、いつからこんなに空気キレイになったの。
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とか思ってたら――
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「君はどう思う?」
私だ。
課長が、私に向かって言ってる。
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……え?
何も考えてない。
資料なんか読んでない。
読む必要なかったから。
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「えっと……」
ヤバい、黙るのはまずい。
こういうときは――
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私はそっと目を潤ませて、
セクハラ部長をチラッと見る。
これでいい。
「ほらほら、可哀想だろ?若い子に無茶言うな」って、
庇ってくれるはずだから。
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なのに。
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「資料の二ページ目を見れば何か出てこないか?」
……は?
助けてくれるんじゃなくて、
ヒントをくれるの?
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部長の顔は妙に真面目だった。
いつもの鼻の下のばしおじさんじゃなくて、
やたらシゴデキなダンディおじさん。
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え、誰?
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慌てて資料をめくる。
どこ? 二ページ目?
とにかくそれっぽいことを言わないと――
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「えっと、ここの予算案を、もっとSNS広告に回せば……若い層に刺さるかなって……」
私が絞り出すと、課長が頷いた。
「なるほど。それも一理あるな。」
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……助かった。
もうムリ。
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会議が終わった頃には、
私は頭の中がぐるぐるで何も残ってなかった。
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はぁ……やっとランチだ。
長すぎ。
会議、長すぎ。




