1話 不細工君が生意気だ。
OL、23歳。
大手広告代理店勤務。まあまあ美人。で、まあまあモテる。
要するに、人生イージーモードってやつだ。
今だって28歳の主任と付き合ってるし。
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その日もいつもの電車に揺られてた。
ちょっと眩暈がしたけど、すぐに治った。
あれ? なんだろ、空気が澄んでる気がする。
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会社に着いて、自販機へ寄り道。
コーヒーでも奢らせてやるか。
同期の不細工くんがいた。
彼女いない歴イコール年齢って噂の男だ。
モテない男はちょっと笑顔を向ければすぐ財布を開く。
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「おはよー!」
わざと甘い声を出して近づくと、
不細工くんはビクッとして、でもすぐ目を合わせてきた。
あれ、目を逸らさない?
いつもならモジモジするくせに。
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「おはよう。今日は会議あるから遅れないようにね」
「うん、ありがと~。……あ、財布忘れちゃった」
ちょっと困った顔を作ってみる。
いつもの流れなら「買ってあげるよ」ってなるはず。
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「それは大変だね。……これでしょ?」
ガタン。缶コーヒーが落ちてきた。
よしよし。
「ありがと~! 助かっ…」
「後で120円返してね」
……え?
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「え、ケチくない? 細かい男はモテないよ?」
いつもならこれで笑って「いーよいーよ」って言うくせに。
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「付き合う相手の性格によるんじゃない?」
不細工くんは少し眉をひそめて、私を見下ろした。
そしてそのままスタスタと行ってしまった。
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……は?
なにこれ。
なんか空気が、違う。
私のモテ力、通じないの?
いやいや、まさかね。
でも、会社に入った瞬間から、妙に空気が澄んでる気がして。
まさか……いや、そんなはず――