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09 怪異と出会いと8

 使用人たちはこちらへ視線を投げかけたが、さすがにあからさまな値踏みの視線が寄越されることはなかった。ただ、ヒトである四人が何故この青年に連れて来られたのかはわからないだろう。瀧たちだって、何かの策略ではないかと思っている。ただのヒトの大学生をハメて何の得があるのかはともかくとして。

 先ほどの鳥神族(とりがみぞく)の女性のうち、ひとりが戻ってきた。


「用意整いましてございます。食事だけは今用意しております」

「うん」


 さすがに支度が早いのは、元々が整っているからなのだろう。

 荷物は各自ボロボロのボストンバッグやリュックがひとつ。四人はそれだけを持って邸宅――大豪邸の中へと案内されていく。

 何度か廊下の角を曲がり、屋敷の奥へと案内され、玄関付近とは内装の雰囲気が変わったあたりで、四人は一部屋に通された。


(わぁ……これで客室なんだ……)


 モダンな和風の部屋で、部屋の中まで靴で入れる。部屋の真ん中を突っ切る廊下は広縁まで続き、そこで左右に分かれているのはバスルームなどと寝室らしい。

 広縁からは外に出られると言われたが、もう日が暮れかかっているせいもあり、とてもそんな気持ちにはなれない。


「……なあ。俺たちはもしかして、怪異よりめちゃくちゃにヤバい体験をしているんじゃないか……?」


 部屋に入って左側には四人掛けと二人掛け、ひとり掛けのソファとその間を埋めるような広いテーブル。右側は小上がりで、和風の寛ぎ空間だ。

 ホテルだとしても、この広さは泊まったことがない。縁がない。はしゃぐより「やばい」ということが四人の頭を占めていた。


「どうするよ……」

「助けてくれた相手が高位神族で、しかもその彼の忠告を一回スルーした挙げ句にもう一度助けてもらって大豪邸に連れてきてもらったこと言ってます?」

「そう」


 思ったより真面目な顔で真岡に頷かれてしまった。疲れてはいるが、ヒトとしては本当に厄介な、まずい状況にあるからだ。


「二位の熊神と犬神と鳥神と狐神が傅く相手っていったら、それより高位ってことだろ……」

「まあ、竜神か……それより上ってことになりますよね……」

「それより上って……」

「マジの天津神じゃねえか……嫌だぞおれは……竜神でも嫌だ……」


 西山が頭を抱える。全員が嫌に決まっているから溜息しか出ない。

 ヒト・獣人・神族の三種族は基本的に不可侵ではあるが、支配関係がないわけではない。獣人とは争える場合もあるが、神族は純粋な支配階級だ。獣人とヒトの生活を左右すると言っても過言ではない。産業や金融のトップは、まず間違いなくどこかの神族だから。

 他にも、神族の手を煩わせたという理由で投獄することだってできる。

 それがわかっているから、ヒトは――庶民は特に、神族のことを敬遠するのだ。


「そういえば」


 ふと瀧が呟く。


「あの人の着てるもの、倭風(わふう)じゃなかったですよね……?」


 表現するなら、大陸の神族風とでもいうような。大陸のことは詳しくないから、テレビや授業で知る限りの知識だ。

 だが瀧の呟きは、その場の全員の口を黙らせるには充分だった。


「…………」

「…………」

「…………」

「……考えるのを止めよう。とりあえず、ありがたいと思っておくことにしよう」


 真岡の言葉に、三人は疲れたように頷く。

 食事をする前に身綺麗になろうと、脚どころか体が伸ばせて余裕がありあまるほど広い風呂に入る。さっぱりすれば、ほんの少しは気持ちも上向くものだ。

 食事はそれからすぐに運ばれてきた。ヒトの、何の力もない庶民相手だというのに、大学生の感覚では食べきらせる気がないほどご馳走にもほどがあるご馳走だった。主に肉料理が多かったのは、こちらが若い男だということを考慮されていたのかもしれない。

 胃を膨れさせた後はさすがに疲労と緊張に負け、全員がすぐに就寝した。


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