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08 怪異と出会いと7

「……君たちは、今までも何かに巻き込まれてきたのか?」


 声音には呆れが混ざっているが、怒っていたり不快だったりというマイナスの感情はなさそうで、そこだけはホッとした。


「いえまあ……むしろ今回が怪異の当たり年というか……」


 去年シロに頼むような事件がなかったわけではないが、今年ほど立て続けではなかったし、命の危険もなかった。

 しどろもどろになりつつ真岡が言えば、美形は眉すらわずかも動かしていないのに、ほんのわずか呆れたような顔をした。気のせいかもしれない。


(……目を奪うような、ってこういう感じの方のことをいうのかな)


 顔が綺麗、だけではない引力のようなものがある。それに惹かれて目が離せない。そうとしか言いようがないほど、彼から視線を逸らせなかった。


「…………来なさい」

「えっ?」

「間もなく日が暮れる。今晩を過ごすところもないのだろう。空き部屋がいくつかあるから、一晩は安全を約束できる」


 美形の申し出に思わず全員が顔を見合わせた。


(そんなことある……?)


 願ってもない。ただ、これがヒトからの申し出ならただの親切心だとわかるのだが、この場合はどう捉えればいいのだろう。


(この方は絶対にヒトではないのに)


 疑問に思っていると、彼が言葉を足してくれた。


「君たちも、雨でずぶ濡れになった子猫はそのままにはしておけないだろう」

「……子猫と同列……」


 なんとも言い難い表情をする真岡の両肩をぽんぽんと叩く。


「ま、まぁ、ひとまずお言葉に甘えちゃいましょう真岡さん」

「そうそう、寝るところも車もなくなっちゃったのは事実なんだし……シマが一番疲れてるから、休ませてやらないと」

「不甲斐なくて申し訳ないです……」


 嶋田は詫びるが、彼自身が死にかけた後に山の中を全力疾走する羽目になったのは、彼を気遣っているその男のせいだ。

 真岡は小さく息を吐くと、青年を見た。


「俺たち都合ですが、今晩お世話になりたいです」

「私が言い出したこと、君たちが気にする必要はない。……もう少し固まって、傍に寄って」

「あ、はい」


 言われるまま、荷物を持ったままの四人が青年の近くにギュッと集まる。どこか清しい香りがした。森の香りだろうか。


「そういえば」

 お宅まではどうやって、と言いたかった口は、開いたまま塞がらなくなった。

 瞬きした前と後で、風景が変わっていたからだ。


「え……え?!」

「え?!」

「何?! えっ?」

「いやおまえらわかるけどあんまりそんな驚いてたらこの方もさすがにやりづらいと思うぞ……」


 さすがにぎりぎりのところで理性的な言葉を言えるのは部長なだけのことはある、と言っていいのかどうか。

 瀧はぽかんとして、あたりを見回した。

 先ほどまで、たしかに山の、廃キャンプ場の駐車場にいた。誰が何と言おうと、それは事実だ。なのに、今は和風の邸宅の門前にいる。


「すげ……移動術って、ホントに使える人いるんだ……」

「タキちゃん、陰陽の術でそういうのあるのか?」


 西山の問いにこくりと頷く。


「めちゃくちゃ高度な技術だって聞いたことがありますよ。普通に使えるのは高位の神族(しんぞく)とか……鳥系の神族は使えるらしいですけど。天狗とか」

「天狗なんてホントに滅茶苦茶高位じゃん……」


 倭国(わこく)の中では、竜神に次いで狼神(おおかみ)熊神(くまがみ)と同等の二位だろうか。天狗は威力の強い術も使える、鳥神(とりがみ)の中でも格がひとつ上だ。

 青年、おそらく高位神族であると思われる彼が瀧たちのほうを振り返った。


「こちらへ。すぐに支度させる」

「あ、ありがとうございます……」


 変に遠慮するよりは、いつ気が変わるともしれない厚意を素直に受け入れたほうがいい。全員で「ありがとうございます」をもう一度言うと、彼の後をついて和風の門扉をくぐる。


「……わぁ……」


 その時、全員が遠い目になったのをどうして責められるだろう。

 玄関までのアプローチは、その広さだけで庶民の家一軒がすっぽり入ってしまいそうだ。左右にはよく手入れされた中低木が植えられ、玄関までは大きな石畳が続いている。


(豪邸っていうやつかな……住む世界が違いすぎる)


 そうして玄関には使用人と思われる者たちが三十人以上も待っていた。青年が近付くと、一斉に頭を垂れる。


「おかえりなさいませ」

「お客様でしょうか」

「彼らの部屋、食事の用意を。一晩泊める」

「すぐに」


 一礼して下がった女性ふたりは、瀧の見間違えでなければ鳥神族だ。そして家令と思しき四十代半ばほどと思われる男性は、狼神族。

 他に熊神族や狐神族(きつねがみぞく)もいるし、鹿神族(しかがみぞく)もいるようだ。

 つまり、この青年は高位神族(しんぞく)が使用人をするほどの相手、ということになる。


「なぁ……おれ、嫌な予感するんだけど……」

「奇遇ですね西山さん、オレもですよ……」

「ぼくも……」

「おまえらもか……」


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