06 怪異と出会いと5
**************
「これ怪異じゃなくて熊とか出ない?」
かつてキャンプ場だった場所へ辿り着いた時の西山が発した第一声だ。
テントが張れただろう場所には雑草が生い茂り、川へ下りる階段は「多分ここが階段だったかもしれない雰囲気と名残がある」という程度には死んでいる。
(川は……綺麗だけど……)
おそらく釣りもできるだろう。だが川向こうの茂みから出てくるのは怪異か熊か、どちらでも嫌だができれば怪異のほうが命だけは助かる気がするのは何故だろう。
「安心しろ、熊の出没報告は出ていない」
「逆にヤバくないすか? 怪異が出るって言ってるようなもんじゃないすか」
「うんうん、いい気付きだな嶋田」
真岡がこういう満面の笑みを浮かべる時は、たいてい良くないことを考えていた証拠だ。さっきもそう思った。
「どうしてここが廃キャンプ場になったか知ってるか?」
「なんか……レポ読んだ気がする……熊じゃなかったのは覚えてるけど」
腕を組んだ西山が首を捻る。
「西山がそういうならそういうことだ。そんなわけで熊で殺されることはまずないから安心してくれ」
「そこ安心していいとこ?!」
「怪異に殺される可能性は残ってるんですよ、真岡さん」
「今まで死んでないから大丈夫!」
「うわあ……今までの成功体験がヤバい自信に繋がってますよ西山センパイ」
「おれに言われても困るが、その通りであることは否定できないな……」
「……とりあえず、来ちゃったものは仕方ないので、いつでも逃げられるようにしつつ泊まる準備しましょうか……」
「そうだな……」
「そうっすね……」
文句を言いつつ、四人で連携すればテントを張るのも魚釣りも飯盒も、準備は早かった。始めてしまえば楽しくなってしまうものだ。
「センパイたちー、こっちすっごいですよ!」
念のため周辺探索に出た嶋田が興奮気味に川の上流側から手を振ってくる。もちろんひとりで行かせるわけがないので、真岡が一緒だった。
「お? なんかいいもん見つけたかー?」
「絶景! ってやつです!」
「タキ、行ってみようぜ」
「火だけ消しておきますね、危ないから」
「焚き火のほうは残しておいて、とりあえず行ってみよう」
嶋田の呼ぶほうへ西山と行けば、五分ほど歩く。
それで、一気に視界が開けた。
「う、わー……」
「すげえ!」
木々がちょうど途切れた場所からは、このあたり一体の山々が広がる。視界いっぱいの山だ。
「ここ、標高高かったんですね」
「こうして見るとそうだったみたいだな。全然気付かなかった」
「やっほ――!!」
テンション高く西山が声を張り上げる。
「こら西山、余計なことはするなって」
「山に来たら定番だろ? 山彦、返ってくるとなんか嬉しいな!」
エコーがかかっているように、西山の声が反響して聞こえる。
真岡は苦笑しつつも止めの姿勢を崩さない。
「いや、場所を考えろって……あのキャンプ場の近くなんだから」
いくつか返ってきた山彦に気を良くした西山が、再度「やっほー!」と山々へ声を張り上げる。
ところが今度は山彦が返ってこない。
「……っゃ、……ほ……ぉ」
返ってきたと思ったら、ノイズまみれで再生をわざと遅くしたような低い、間延びした声。
「……あれ……?」
嫌な予感がしたのは全員一緒だろう。こんな時、判断が速いのは真岡だ。伊達に場数を踏んでいるわけではない。
「全員、キャンプ場まで今すぐ戻るぞ。荷物を取ったら車まで全力だ。わかる道を全力で行くのが一番早い。いいな?」
「はい!」
すぐさま真岡が早足でその場を後にするのに続いていく。
(……これはだいぶ不味いな……)
後ろのほうから何か来る。
何かはわからないが、良いモノであるはずがなかった。
飯盒やテントなどはそのままにし、ひとまず貴重品のリュックや荷物だけを手に取ると、また真岡を先頭に、今度は走り出した。
それに合わせるかのように、何かの気配も近付いてくるスピードを上げてくる。
7月6日は7・10・12・15・18・22時更新です
イイネ・★評価・ブクマなど、よろしくお願いいたします