46 解きほぐす8
「文献に明確な記載はない。だが前後関係から察せられる、という程度だ」
「公子は普通の竜たちよりずっと強大な力を持っていた。だが幸か不幸か、まだ子どもだったから、災害は三日程度で済んだ」
梓玥の言葉にオカ研メンバーはまた顔を見合わせる。
「第一級クラスが三日……」
「そりゃ復興に時間がかかるわけだ……」
「大人だったら何日続いてたんでしょうね……」
はあ、と溜息にも感心にも似た息がオカ研全員の口から漏れる。そうして真岡が気を取り直したように口を開いた。
「まとめると、大陸で産まれた狐神と竜神のハーフ九尾狐は、一回死んだけど倭国でヒトとして産まれた。前世で厄介な能力を持ってたから狐神と竜神は警戒してて、だから産まれた後も監視してた、と」
「それで、その元狐のハーフがタキってことで合ってる?」
西山に急に話を振られて、瀧は咄嗟に返事できないでいた。代わりに梓玥が「うん」と頷いて認める。
「そのことが、あの動画とどんな風に関係あるんですか?」
真岡の疑問に答えるのは、今度は静峨だ。
「……水落鬼の件の後、監視対象の動きに変化があり、調査の結果が空振りに終わったのは先ほど話しました」
「うん」
梓玥は鷹揚に頷く。ただマンションの部屋を用意してくれていただけだと思ったが、もしかしたらそれだけではないのだろうか。
(基本的に梓玥さんって気配消してるし……多分それ以外にも、オレたち以外にはわからないように何かしてるんだろうな。隠蔽とか……)
狐だった時の知識によると、隠蔽の他にも攪乱や偽装などの術で身を隠すことができるらしい。結界だけではなくそのあたりも使っているのだろうし、神にもなった竜の術なのだから、見破れる者など同じ神でも難しいのではないか。そして、調べたほうも、まさか相手が神だとは思わなかったはずだ。
栢葯が続けて話す。
「一筋縄ではいかない何かが監視対象の傍にいることだけはわかった。だから、監視対象の状態を把握するために、ヒトの間で話題になったことのある動画を利用することにした」
「ただ動画を送りつけるだけでは不審に思われ、観られないこともあるかと思い……回りくどくはありますが、まず対象同様、力を持った者にだけ意図した動画が表示される動画を拡散。これは狐神族の者が以前に使ったものを土台にしました」
静峨に続けて栢葯が口を開く。
「次に、対象に近い存在で好奇心が高く、動画を再生しそうなヒトに向けて配信。その他のヒトには、無害な動画が再生される細工を付与。……完璧ではなかったから、能力が強いヒトには観られる状態になったのは不本意。だが、そこから対象へ繋がるだろうとの思惑は当たった」
「ただ、やはり対象にどういう変化があったのか、なかったのか、観測することはできませんでした」
一区切りついたらしい。少しの沈黙の後、言葉を発したのは西山だった。
「……おれのイトコは、動画をおれらやタキに観させるための道具にされたってことか」
西山が怒るところを見たのは、一年半になる付き合いの中で、これが初めてかもしれない。真岡も一瞬驚いた顔をした。
「そう。西山はこの件で怒っていい。もちろん君のイトコもだ」
視線を西山に投げかけた梓玥は「だから」と一度言葉を句切る。
「彼らをどうしたい? この件のみのことになるが」




