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43 解きほぐす5

「目的を」


 最初に口を開いたのは静峨(ジンエァ)だ。


「古より、九尾への監視と対策は狐神族の責務のひとつ。約二十年前、倭国にその兆しありと報せが入った時から、兆しの周辺に見張りを付けていました」


 顔を上げて話し出す顔は、何を考えているのかわからない無表情。


「倭国の竜は栢葯(バイイヤォ)どのほど九尾を危険視しておらず、本国への報告は不要としたようですが、我が狐神のほうは倭国から報せを受け、兆しの中の狐を封印することで、ひとまず状況を見ていこうと考えました。まだ何もしていない者を、していないうちから裁くのは問題がありますから」


 落ち着いた様子で紡ぐ静峨の言葉は真摯に思える。静峨の理性的な雰囲気がそう思わせるのか、狐神族がそういうところを見せるのが得意なのか。ただこの場限りのことなのかはわからない。


「九尾を危険視しつつも我らの考えに賛同してくれたのが土御門、壬司の陰陽師家。そのため、この二家と狐神とで兆しへそれぞれ封印を施しました」

「封印……って?」


 西山の問い。


「彼らの問いにも私の問いと同じように答えよ」


 梓玥が促すと、静峨が答える。


「狐として目覚めることがないように、記憶、力、そういうものを封じました」

「封印が完全でない、あるいは作動しなかった場合には、狐神も同じような考えだったのだろうな」

「……さあ、そこまでは私にはわかりません」


 そこまでの地位にいないので、と静峨は答えるが、きっと梓玥の言った通りなのだろう。

 神族の、ヒトに対するそんな部分は恐ろしい。


(序列が下だからだろうけど、それで納得したくはないな……)


 話を聞きながら瀧は思う。

 神族はヒトを差別することはほとんどないというが、それは圧倒的序列差によって、取るに足らない者という認識のせいかもしれない。


(……前世は狐だったことは考慮されないんだな……)


 それとも狐だったからこそなのだろうか。


「ただ、陰陽師たちは存在の抹消よりは封印することのほうにこだわっていたようではありました」


 瀧は壬司家に嫁いだ土御門家の女の胎に宿った。ヒトの体に宿ったものだから、何か起こる前に存在を抹消するには女の――母親ごと殺し、封印するしかない。堕ろすだけではすぐに別の体へ移ってしまう可能性が高いからだ。胎にいるうちに封印するのであれば、存在は胎の中に固定されているから成功率が高い。

 堕胎にしろ母親ごと殺すにしろ壬司家は猛反発しただろうし、土御門も遠縁とはいえ一族の女を殺すことをすぐに了承することはなかったはず。


(……結果としてオレはここにいるわけだけど……)


 本当に、運命はどう回るのかまったくわからないものだ。


「水落鬼は狐神族単独でのことか。では動画は」


 梓玥の尋問は続く。答えたのは栢葯。静峨と違い、栢葯のほうは跪かされているのが心底から不本意そうに見えた。プライドが高いのかもしれない。


「産まれる前から監視対象を監視していたのは、倭国の狐だ。狐神にしても我が竜神にしても、またあの狐を世に放つのは危険だと共通認識があり。できるなら早期に屠るのが安全と思っていた」

「それは竜神族の考えか」


 梓玥の声が一段低くなり、冷ややかさを増した。氷の刃物を首許に当てられたような空気。


「いえ、某の考えです」


 栢葯は慌てたように首を振る。


(まあ……そう言っておかないと、竜神族の全員が梓玥に反目したってことになるし……梓玥は神様だから、すごい罰を与えることもありそうだもんな)


 同族だからと容赦していては、他の神族にも示しが付かないだろう。それを彼らもわかっているはずだ。


「そう」


 続けて、と促す梓玥の声の冷たさは、出会ってから今まで聞いたことのない、鋭い刃物のような冷え。


(……つまり、狐のオレを殺そうって思った考えが気に食わないんだろう、けど……)


 千年もの間、瀧を――瀧耀を探し続け、そのために神様にまでなった男の執着の一端を見た気がした。物騒なのは瀧にも、瀧以外の三人にも恐ろしいので避けてもらいたい。


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