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04 怪異と出会いと3

「ねえ真岡先輩、空気ヤバくないです?」

「いいことに気付いたねタキちゃん。だいぶヤバい感じだね!」


 (ロウ)のかわいこぶった言葉に、真岡が乗っかる。現状は変わらないが、暗くなるよりマシ。そういう気持ちがあった。真岡も同意だろう。

 ここにいるのはただのヒトだけだ。ただの人間は怪異に抗う術を知らない。


(陰陽師なら対抗できただろうけど……)


 瀧は深い溜息を吐いた。自分が陰陽師でないことを嘆くのはいつでもできるから、できることを考えねばならない。ある程度落ち着いていられるのは、去年一年の間でも修羅場をくぐり抜けてきたからだろうか。


(嫌な慣れだな……)


 とはいえ、自分にできることを怠るつもりはない。全員で無事に帰りたいからだ。


「……とりあえず間に合うかわからないですけど、シロがたぶん助けを求めに行ってくれてると思うんで……」


 黒狐のシロは瀧が命じたりしなくても、意図を汲んで動いてくれる。去年の一年間もシロのお陰で難を逃れたことは何度かあった。だから真岡と西山と瀧は、ある意味こういう事態に慣れている。嶋田は三人の先輩たちが落ち着いているからパニックにならずに済んでいるのだろう。


(シロが賢くてよかった……)


 陰陽師家に生まれたのに陰陽師としての才能がなくても、付き従ってくれるシロがいることで体裁を保っている部分はあった。


「で、とりあえずどうします?」

「追いかけてくる類のものなら逃げ続けなきゃならんなぁ」

「追いかけて、とはちょっと違うと思いますけど、四方八方から来てる気配ですよね」


 騒がしい気配は後ろからだけするのではない。前からも左右からもなんとなく感じる。


「四面楚歌ってやつっすね!」

「シマ、おまえはこんな時にも元気を忘れない良いやつだな」

「西山センパイ、真岡センパイに褒められました」

「いや多分褒めてはいないと思うぞ」

「ええー?」


 賑やかな西山と嶋田を他所に、瀧は腕時計をジッと見つめる。ふたりのお陰で深刻や悲壮と縁遠くなっているのはありがたい。嶋田はこれが初めてのフィールドワークだというのに、肝が据わっているのがいいところだ。

 瀧の腕時計はただの時計に見えるが、こんな時はシロとの距離が測れる道具でもある。少し変わったアナログ時計で、スモールセコンドとセンターセコンド、ふたつの秒針があり、スモールセコンドが方角を、センターセコンドが距離を表す。一なら百メートルだ。


「タキぃ、狐くんどれくらいで戻りそう?」

「そうですね……ん?」


 突然針が動かなくなった。誰か助けてくれるような人を見つけたのだろうか。表示は一時の方向、距離は二十。


(ヒトかどうかわからないけど……できれば陰陽師がいいな……)


 陰陽師なら怪異に対するエキスパートだし、怪異に遭遇したヒトを見過ごすということはまずない。今までも偶然陰陽師を見つけて助けてもらったことは一度や二度ではなかった。

 あたりが徐々に暗くなる。まだ十四時だ、日暮れの時ではない。となると、この異変も怪異のせいだということになる。怪異に追い付かれそうになっているのかもしれない。


「!」


 不意に時計が震える。シロが助けを見つけた合図だ。戻りは案外早いかもしれない。言おうとしたが、西山が「おい!」と焦った声で呼びかけてくる。


「ちょっ、シマの様子がおかしい!」


 両膝を地面に着け、上体を深く折り曲げて両手で自分の首を掴んでいる。西山が手を剥がそうとしているようだが、ビクともしない。


「シマ、しっかりしろ!」


 瀧はその様子を数秒観察する。怪異に遭遇した時の対処法のひとつだ。冷静でなくてはならない。

 見開いた目は生きている。口を大きく開けて喉を掴んだり掻き毟っているのは、まるで空気が吸えない苦しさを味わっているようだ。


(このままだと窒息死する……!)


 そこまではわかるのに、対処法がわからない。このままでは残りの三人とも同じ目に遭いかねない。


「マジこれ、シャレになんないやつ!」

「っ……シロ、早く帰ってこい!」


 呼びかけるのと重なるように、ドン、と大きな音がした。更に周囲を囲むように三回、それぞれ違う場所。すぐ近くで何かが墜落したような重い音と振動。体勢が崩れたが、倒れるほどではなかった。


「こ、今度は何!? 地震!?」

「……あ?」


 真岡が空を見上げる。つられて瀧も見上げた。

 暗かった空が、一変して青空に戻っている。


(……鳥肌も、消えた?)


 不吉な空気が霧散したように感じた。


「なんなのほんとに……」

「あっシマ、大丈夫か?!」

「っげほ、げほっ」


 涙と鼻水を垂らしながらも正気と窒息が戻ったらしい嶋田に、西山が嶋田のリュックを漁ってティッシュを手渡す。


「……なんか、気配も消えましたね?」

「ホントだ。さっきの……なんかすごい音したけど、あれのお陰?」

「と、思うんですけどね……」


 むせ込む嶋田の傍らで介抱する西山を他所に、真岡と瀧があたりを見回しながら話し込む。そこへ、黒い狐が姿を現した。


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