37 できること4
「センサーが跳ねたのって、二ヶ月くらい前って聞きましたけど……」
「そうそう。土砂降りの雨の日だったなぁ。だから雨のせいかと思ったんだが……考えてみりゃ、今までだって雨の日はあったし、気にならなかったんだから、それまでは何もなかったってこったなぁ」
「何時くらいに、どんな風に跳ねたんですか?」
「部活で遅くなる連中もいるから、門は二十四時まで開いてるのは知っとるな?」
「二十四時以降は結界が張られてるから誰も入って来られないんだよね。たしか昔の陰陽師のヒトが色んな学校に張って回ったとか」
近代史の授業で習うことだ。
(一触即発の時代があったなんて、今じゃ信じられないな……)
瀧の曾祖父の時代なら、その頃のことを知っていたのかもしれないが、今では教科書の知識だけだ。
「昔は今ほど獣人や神族との仲が穏やかだったわけじゃあなかったからな。学校に通うヒトのためにそうして回ったってわけだ。おれら警備員は、主にヒトの不審者に対するモンだしな」
「なるほどなるほど。それで……」
「揺れたのは……二十二時頃だったかなあ。たまたまモニター見てたら、フッと計測器が跳ねたのよ。あれ、と思ってよくよく見返したんだが、出力されたデータはいつも通りでよ……他の連中には見間違えじゃねえかって言われたんだが」
「絶対に見間違いじゃない?」
「まだそんなボケる歳じゃねえし、目だって悪かねえ。絶対に計測器は一瞬跳ねた」
計測器は心電図のモニターのような表示で、跳ねれば山のような尖塔型を描く。普段はほとんど動きがない中央値をまっすぐ描いているのだから、跳ねればたしかに目立つ。
瀧が考えても、普段から見慣れている人間が見間違えるのは難しそうに思えた。
「たしかに不思議だな……跳ねたのに跳ねた形跡がないなんて」
「他に、何か気付いたことはありませんか? すっごく些細なことでいいんです。いつもより校舎裏で昼寝してる猫の数が多かったとか、人気のないところで気配があったとか」
「そのへんはコウさんが何か言ってたな。六号館裏でおかしな人影を見たとかなんとか。警備員なのにビビリなヤツだから、めちゃくちゃビビッてたが」
しばらくひとりで見回りができなかった、と言って信さんは笑う。
西山と目が合った。この場での話はこれくらいだろうか。
「ありがとうございます、コウさんにも訊いてみます」
「おお。あいつならこの時間は裏門のほうだから、行ってくるといい」
裏門なら、真岡と嶋田が当たっているだろうか。
信さんに再度礼を言って別れると、早速西山が「どう思う?」と問うてくる。
「神族とか獣人とか……陰陽師はヒトだから計測器は変わらないでしょうし、そのあたりの方々が入ってきた……と考えるのが今のオレたちですよね」
「だよなあ」
三ヶ月前ならオカルト現象だと興奮した可能性はある。けれど梓玥との出会い、水落鬼事件や動画事件を経ると、単純なオカルトではなく神族の介入によることもあるのでは、と疑いが候補にあがってくる。
「単純にオカルトだーって騒げたら、それが一番良かった……ってこともありそうだなぁ」
「ですね。……ひとまず、まだ時間ありますけどどうします?」
「計測器が反応したのが二十二時頃だろ? その頃まで大学に残ってるヤツなんているかな……」
「大会が近い部の連中とか、いましたっけ」
「んー……あ、理系の連中が泊まり込みでレポートのための実験してたのってそのへんだったかな」
「行ってみましょうか」
「そうだな」
西山の知り合いにいるから、まずは彼から話を聞こうと決めると、第三棟へ向かった。
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